第354話 領都入り【告知あり】

 タウロ達一行は、翌日には早々に街を出て領都に向かう事にした。


 長居しても良い事が一つもないと判断したのだ。


 密告制度がある為か、よそ者に対しての警戒心が強く、昨夜の様に少しでも怪しいと思われたらすぐに通報される。


 よそ者の自分達にとっては、針の筵に晒されている気分だ。


 なので、朝一番に領都までの馬車にすぐに乗り込むのだった。


 領都までの馬車での旅程は半日。


 途中、峠を越えると、領都は山に囲まれた盆地に広がっていた。


「意外に大きいな」


 アンクが、馬車から身を乗り出して、領都の感想を口にした。


「……あんたら、ここまで来たら検問は領都の出入り口だけだが、中に入ったら言動には十分気を付けな。あそこはよそ者が長居するところじゃない」


 御者のひげ面の男が、唯一のお客であったタウロ達一行に警告した。


「……それは一体?」


 タウロが、御者に聞き返す。


「あんたら女子供が多いから、俺としても何かあったら寝覚めが悪い。……それだけだ」


 御者はそう答えると、口を噤んでしまった。


「……ありがとうございます。気を付けます」


 タウロは一同を代表して御者の男にお礼を言った。


 タウロ一行を乗せた乗合馬車は、領都の検問所でほぼ素通りの領民達と違い、止められると持ち物から身体検査、旅の目的、許可証によりここまでの旅程をチェックされたが、無事通過する事が出来た。


 その時に、


「領都が初めての旅人には案内役が丸一日付く事になっているから」


 と言われた。


 タウロは断ろうと思ったが、そんな雰囲気ではない事が、兵士の目を見てわかった。


 親切心などではなく完全に監視役だ。


「……はい」


 タウロはみんなを代表して承諾すると、奥から一人の男が出てきた。


 自己紹介をするでもなく、ただぼーっとしている。


 案内する気がある様には見えないのだけど……。


 タウロはラグーネ達と目を見合させるのであったが、どうやら空気扱いでいいのかもしれない。


「じゃあ、まずはどこかで宿屋を取って今日は観光でもしてみようか?」


「そうだな。──案内役さん、どこか良い宿屋や、上手い料理屋、観光名所はあるかい?」


 アンクが、ダメ元で案内役(仮)に聞く。


 案内役は、面倒臭そうな態度だったが、一言、「……付いて来な」と、答えると宿屋のある通りまで案内してくれた。


 タウロ達が店の趣や料金設定で泊まる宿を判断しようとしていると、案内役が一言、


「……ここにしておけ」


 と、一軒の宿屋を指名した。


「……ここですか?」


 指名された宿屋は必ずしも立派とは言えない雰囲気の宿屋であった。


 設定料金は普通だが、それに見合う宿屋には見えない。


「いや、ここはちょっと……」


 タウロが断ろうとすると、案内役は今度は強い口調で、


「ここにしておけ」


 と答えると続けて、


「──おい主人。よそ者の客を六人連れて来てやったぞ。……わかってるな」


 と、宿屋の主人に手を差し出す。


 宿屋の主人は頷くと懐からお金の入った袋を出すとそこから銀貨を数枚出して案内役に支払う。


 どうやら紹介料を貰っているようだ。


「……紹介料を貰えるからここを選んだのか」


 マラクが冷静な声ながら、不快に感じているのが伝わってきた。


「……部屋を取ったら、明日一日は別々に行動せずに一緒にいろ。俺が大変だからな」


 案内役の男はそう言うと、宿屋のロビーの席に座るとそう宣言した。


「……ここでは自由に動けないのでしょうか?」


 タウロが念の為、確認する。


「……迷子になられたら困るからな。一日は我慢して領都の道を大まかに覚えて貰うのが、ここの決まりだ」


 と、案内役はまた、面倒臭そうに説明する。


「……わかりました」


 タウロは頷くと、みんなにもその確認をする様に頷きかけた。


「迷子は確かに困るな」


 アンクが皮肉交じりに相槌を打ったが、案内役の反応は無い。


 慣れっこの様だ。


 そして、案内役は食堂に入っていくと、料理を注文しだすと先に出されたお酒を飲み始めた。


「……あんたらも今日は大人しく飲みな。これも決まりで、案内役の飲み食いの勘定は全てあんたら持ちだ」


 何とも図々しい決まりだったが、案内役はこれも当然の様に、飲み続けるのであった。


 タウロ達は不快な事この上ない宿屋入りであったが、その翌日、こうなったら案内役には仕事をして貰おうと思い、朝から早速外出する事にした。


「……おいおい、俺はここでゆっくり──」


「それでは、僕らは観光してきますのでごゆっくりどうぞ」


 タウロが話を遮ってみんなと外に繰り出そうとする。


「……ちっ!」


 案内役は舌打ちすると、タウロ達一行を追いかけるのであった。




「あれが領主邸ですか?」


「あの塔は、何用ですか?」


「あの大きな建物は?」


「冒険者ギルドはあれでいいですか?」


 タウロは次々とよそ者よろしく領都の目印になるようなものを次々に聞いて回る。


 もう、案内役に遠慮する事無く堂々と情報を入手する事にした。


「……図々しいガキだな」


 案内役が愚痴を漏らす。


「あなたが宿屋で飲み食いした分は取り戻さないと損でしょ?」


 タウロはそう開き直ると、今度はこの街の歴史や、風土についても聞き始めるのであった。


 案内役は、もちろんよそ者であるタウロ達の監視役なのだが、タウロが図々しく何でも聞いてくるので逆に疑いの目で見る事は無かった。


 もし、間者の類なら目立たない様に大人しくしているはずだ、と。


 それに冒険者として一行のリーダーが子供というのも、目立ち過ぎる。


 その仲間も一人を除いて美男美女ばかりで完全に浮いていた。


 案内役は1日の間タウロ達を監視した結果、人目を引くが全く問題無し、と上へ報告するのであった。


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ここまで、読んで頂きありがとうございます。


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※詳しくは近況ノートで!


これも読者のみなさんのお陰です。


ありがとうございます<(*_ _)>


これからも引き続き、「自力で異世界へ!」を楽しんで頂けたら幸いです。


それでは、次回もお楽しみに(。・ω・)ノ゙♪

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