第353話 警戒心が強い街

 警備兵に連れていかれる旅人を黙って見送ったタウロ一行は、その後も、検問所をいくつも通過して次の街に到着した。


 ほんの数時間の馬車の移動だったのにも関わらず、タウロは疲れた気分になった。


 他のみんなも同じ気分だったらしく、乗合馬車を降りると溜息を吐く。


「任務さえなければ、ひと暴れしてやるところなんですが……」


 赤髪のマラクがぼそっと呟いた。


 タウロは忍耐力も怪物並みと思っている竜人族も、この領地の理不尽なシステムにはストレスを感じたのかと思うと、親近感が沸くのであった。


「マラクは正義感が強いからなぁ」


 金髪美少年系のズメイが、年上のマラクをからかった。


「やめなさい、ズメイ。──それより追っている男が向かったのはあっちの方角ですね」


 青髪のリーヴァのスキルで、タウロの元父親に目印を付けているのでその方角が明確にわかっているようだ。


「……その方角はさっきの御者の言ってた通りなら、領都の方向ですね。やはり、暗殺ギルドの総本部は領都にあるのかもしれません」


 タウロはそう言いながら何を思ったのか嫌な顔をした。


「どうしたリーダー?領都だとマズいのか?」


「領都だとしたら、この地の領主との繋がりがある可能性が大きくなるでしょ?それはつまり、暗殺ギルドだけでなく、この地の領主も敵に回る可能性が高い事になるじゃない。そうなると暗殺ギルド討伐から、結構な戦争に発展するかもしれない。それを考えると……ね」


「その時は暗殺ギルドだけ潰して、私とタウロの能力で素早く退散してしまえばいいのさ!」


 ラグーネがもっともな事を指摘した。


「そうなんだけど……。その場合、余所者である他の旅人達が煙の如く消えた自分達に代わって捕らえられ尋問される可能性があるんだよね」


「……確かに。犯人捜しは絶対するだろうから、その可能性は高いだろうな」


 アンクもタウロの意見を理解して納得した。


「それではやはり、関りがあった場合は、領主ごと殲滅するしかないだろう」


 ラグーネが簡潔に答えた。


「簡単に言ってくれるなぁ」


 タウロは苦笑いするのだが、


「竜人族のみなさんなら、やれそうだから怖いなぁ」


 と思うのであった。



 タウロ達一行は、少し早いがこの日は街に一泊する事を決めると、この領地について聞き込みを行う事にした。


 と言っても、領境の街の御者から聞いた情報通りなら、密告制度があるはずだから、下手に聞いて回るのも危険である。


 タウロ達は冒険者としての情報集めの延長線上で他の事も聞けたら好都合という慎重な姿勢でバラバラに分かれて聞き込む事にした。




「他所から来た冒険者とは珍しいな。このボーメン子爵領の冒険者は地元の奴が圧倒的に多い。検問所の移動理由もあって、地元の奴の方が都合が良いんだよ。だから、ここで余所者が冒険者をする時は、ここに定住して領民になるのが利口だろうな」


 この街の冒険者ギルドの傍の酒場で、アンクが隣に座っていたおじさんに話を聞くとそんな返答が帰って来た。


「へー、そうかい!それなら実入りが良さそうな領都辺りにでも行ってみて考えてみようかな、わはは!」


 アンクはわざと大きな声でそう答えた。


 密告制度があるなら誰が聞いてて密告するかわかったものじゃない。


 同じ密告されるなら、領都まで行く口実を表立って言っておいた方が、都合がいいだろう。


 これらはタウロがアンクにあらかじめ言っておいた事なのだが、アンクは上手くそれを達成した。


「領都は確かに栄えていると思うぞ。俺が行ったのは大分昔の事だが、この街よりは格段に栄えていてそりゃ驚いたものさ。まあ、今はどうなっているかわからないが、まあ、悪くなってる事もないだろう」


 酒が回ってご機嫌なおじさんはそう言うとジョッキのお酒を飲み干した。


「情報ありがとうな」


 アンクはそう言うと、自分のお酒を飲み干し、おじさんに一杯分のお酒代を出して酒場を後にする。


「あんた良い奴だな!何か聞きたい事があったらまたここに来な。何でも教えてやるぜ?がはは!」


 ご機嫌なおじさんの声を背にアンクはみんなと合流する為に宿屋に戻るのであった。



 全員が宿屋に戻る頃にはすでに日が落ち、各自食事は前もって済ませていた。


「この街の冒険者絡みの話はいくらでも聞けるが、領都の事を知っている奴はそういないみたいですね」


 赤髪のマラクが、タウロに報告する。


「僕も冒険者ギルドで話をそれとなく聞いて回ったけど、この街の事に詳しい人はいても、移動制限がある分、領都まで行く人は少ないのか、詳しい人はいなかったです」


 と、タウロとラグーネ。


「私は偶然商人と会ったので領都の事を聞いたら、言葉を濁されたわ。どうやら、他所の事を話すのはあまり感心されない風潮があるわね」


 と、青髪のリーヴァと金髪のズメイ。


「俺が聞いた話も変わらないなぁ。昔の領都は栄えていたが、今は知らないって事くらいだな」


 と、アンク。


「……これは、領都に行ってからのお楽しみみたいだね」


 あまり芳しい情報がないのでタウロは総合的にこの街での情報入手は諦める事にした。


 コンコン


 そこへ、部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。


「はーい?」


 タウロが扉の向こうに返事をする。


「この街の警備の者だ。領民より報告があって、話を聞きたいのでこの扉を開けなさい」


 え?もう密告された?


 タウロ達は顔を見合させると、男の4人部屋にラグーネとリーヴァまで集まっているのは余計な詮索をされると思い、ラグーネとタウロの能力で一旦、タウロとラグーネ以外のみんなを竜人族の村に移動して貰った。


「はーい。開けます。ちょっと待って下さい」


 タウロは子供らしい声で答えると扉を開ける。


 すると警備兵が流れ込んで来た。


「うん?情報では六人のはずだが……。他の者はどうした?」


「え?仲間なら飲みに出てまだ戻ってないですけど?」


 タウロがラグーネと顔を見合わせてそう答えた。


「……まあよい。二人には少し話を聞かせて貰おうか」


 警備兵達はタウロ達を囲む様に職務質問を始めるのであったが、タウロが当たり障りのない事を答えながら、ラグーネに話を合わせるので何も問題発言は出てこない。


 警備兵はいつもの事なのか、目を見合わせると、


「では他のお仲間が戻って来たら、また、話を聞きに来るかもしれないが、街では大人しくしておきなさい」


 と、警告らしき事を告げて出て行くのであった。


「……ふぅー。これはさらに慎重にならないと駄目だね……」


 タウロはラグーネにそう漏らすと、みんなを能力で竜人族の村から呼び戻すのであった。

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