第352話 通行料

 タウロ達『黒金の翼』一行は、グラウニュート伯領から、ボーメン子爵領入りした。


 領境の街に到着すると、もちろん、ここで最初の検問があったが、少しの通行料を取られただけだった。


「……思っていたより普通だな」


 赤髪のマラクが、気を抜く事無くそう漏らした。


「情報ではここまでは大丈夫みたいですよ」


 タウロはそう答えると、領境にある街に入った。


 情報通り、領境の街は商人が多く、大きな市場があり、活気に溢れていた。


「やはり、交易はほとんど領境の街で行われるのは本当みたいだね」


 金髪美少年系のズメイが周囲をきょろきょろと見渡しながら感想を口にした。


「それでは中央に行く為の馬車を探しましょうか」


 タウロがみんなにそう声を掛けると、乗合馬車がありそうな広場に向かう。


 乗合馬車を見つけるのはそう難しい事ではなかった。


 行商人などもよく利用するのか看板が立っていて、『行商人用乗合馬車』とか『領民用乗合馬車』など、いくつも整備されているようだ。


「どれに乗ればいいのだ?」


 ラグーネが看板をいくつも見ながら迷う素振りを見せた。


「一番、早く領都方面に向かうものでいいんじゃないか?」


 と、アンクが今にも領都方面に出発しようとしている、『行商人用乗合馬車』の看板前の4頭引きの大きな馬車を指さした。


「じゃあ、あれに乗れるか交渉してみようか」


 タウロはそう答えると馬車の傍で客引きをしている御者に声を掛けた。


「これ、乗れますか?」


「うん?あんたら商人か?許可証は?」


「許可証?」


 タウロは首を傾げる。


「なんだ、許可証も知らないって事はここの領民でもないなあんたら。よそ者か?領内の移動は基本、隣街まで。その為の許可証がいるのさ。もちろん、近いから徒歩の奴も多いが、どちらにせよ検問所が途中にあるから許可証をチェックされるから必ず必要なのさ。──どこで許可証を得られるのかって?すぐそこで売ってるよ」


 御者が指さした先を全員で見ると、そこには小さい小屋があり、許可証販売所と書いた看板が張り出されていた。


「あそこで、人数分買いな。あれがないと移動もままならないからな。領民はあれとは別の許可証が出されているから、まだ、検問所の通行料は安くで済むが、よそ者用の許可証は通行料は高いし、移動した場所が、逐一記載されていくからその行動を監視されていると思った方がいい。悪さは出来ない仕組みさ。あれ無しで移動して検問所もすり抜けて他所の街で警備兵に見つかってみろ。……その日のうちに失踪しちまうぞ」


 御者の男は最後の言葉は聞かれたらマズいのか、そっと耳打ちした。


「……いい情報、ありがとうございます」


 タウロは笑顔で御者に握手を求めると、銀貨を握らせた。


「……坊主、気をつけな。……ここは密告制度もあるからな」


 御者は笑顔で握手に答えながら口元を隠してタウロに警告すると、馬車に乗り込んでいくのであった。


 タウロ達は、御者の男のアドバイス通り、許可証を購入すると、旅人専用の馬車を探して乗り込む事にした。


「次の街までは、4時間の予定。それまでに検問所は何か所かありますので、許可証の提示と通行料を支払う準備をしておいて下さい」


 旅人専用の馬車の御者は、乗り込む際にそう事務的に答えながら一人一人から前金を受け取っていく。


「なんだか面倒臭そうな旅になりそうだな」


 ラグーネがそうぼやいていると馬車は動き出すのであった。


 領境の街を馬車が出る際、検問所があり、そこで早速、許可証の提示を要求された。


 タウロ達は早速許可証を提示する。


「では、通行料の銀貨1枚ね」


 出るだけで銀貨1枚も取られるの!?


 内心驚くタウロであったが、黙って人数分を支払った。


 他の乗客も、額を聞いてざわついたが、素直に支払う。


 それが終了すると馬車は走り出すのだが、しばらく進むと分かれ道があり、そこにまた検問所が現れた。


「え、もうまた、検問所なの?」


 青髪のリーヴァが驚く。


 これは確かにペースが速い。


 もしかすると、分かれ道の度に検問所が設置してあるのだろうか?


 下手をしたら、次の街に到着するまでに通行料だけで一人当たり銀貨20枚近くは取られるのではないか?


 と、タウロは呆れるのであった。




「なんだよ、このボーメン領は!検問所だらけでお金ばかり無くなっていくじゃないか!」


 同乗していた旅人の一人が移動の馬車内で愚痴を言い始めた。


 すでに銀貨で、10枚以上支払わされている。


 タウロ達もその情報を全く知らなかったら、同じ事を言っていただろう。


「お客さん。愚痴はわかりますが、あんまり言うと検問所で報告しなきゃいけないので我慢して下さい」


 御者が旅人に親切心からか警告した。


「何を報告するってんだ!事実を言ったらいけないのか?他所の領地を旅していた時は、こんなにお金を取られる事なんてなかったぞ!」


 旅人の怒りはもっともだろう。


 このボーメン子爵領が異常なのだ。


「あんまり騒ぐと本当に検問所で報告義務があるのでそれくらいにして下さい。うちもあんまりトラブルには巻き込まれたくないんですよ」


 御者は、旅人を宥めようとしたが、その言葉はあまり熱が籠っているとは言えないものだった。


 その言葉にカッとしたのだろう。


「じゃあ、報告してみろよ!俺がその場で警備兵に事実を言ってやるさ!ぼったくりもいい加減にしろとな!」


 旅人がヒートアップしていると、すぐ、次の検問所が現れた。


「では、あそこの検問所でどうぞ」


 検問所の位置を把握している御者は、そう言うと本当に旅人を警備兵に突き出すのであった。


 ええ!?本当にそんな事で連れていかれるの!?


 タウロとその一行は通行料を支払いながら、連れていかれる旅人を視線で追いかけ、内心で慌てふためくのであった。

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