第351話 子爵領の情報

 竜人族の3人組、赤髪のマラク、金髪のズメイ、青髪のリーヴァの報告により、グラウニュート伯爵領の隣領であるボーメン子爵領に暗殺ギルドの総本部がある事を知らされたタウロ達であったが、念の為、まだ、街長邸に留まっていた父グラウニュート伯爵にその事を知らせた。


「……ボーメン子爵領に?」


「はい。僕の知人が知らせてくれました。これから暗殺ギルド総本部討伐の為、その知人達とボーメン子爵領に向かいたいと思います」


 タウロの言葉にグラウニュート伯爵は渋い顔をして、答えた。


「……そうなるとボーメン子爵に話を通さなければいけないから、私が一通したためてもいいのだが……。その……、ボーメン子爵自身があまり信用が置ける人物ではない。だから、もしかすると暗殺ギルドと繋がっている可能性も捨てきれないな……」


「そうなんですか?」


 グラウニュート伯爵の思わせぶりな情報にタウロは聞き返した。


「ボーメン子爵は、北の帝国からの亡命貴族で、北の防備には欠かせない情報を沢山持っていると聞く。実際、帝国の侵攻の際にはいくつも情報をこちらに提供した功があるのだが、代々、どの貴族とも親交を避け、自領に籠っている一族なのだ。それにボーメン領内はとても厳重に各所に検問を敷いていると聞く。そのような土地に暗殺ギルドの本拠地がある事が不可思議だと思わないか?」


 グラウニュート伯爵の情報通りなら、確かにそんな移動がままならそうな不便な土地に本拠地があるのは、繋がりがあると考える方が妥当に思える。


「……領内に入るだけでも大変そうですね」


 タウロは、考え込む。


「領内に入るのはそう難しくもない。交易などは普通に行われているからな。ただ、検問が多い分、通行料が多く取られるから、よそ者の商人達は領境の街で取引をすると引き返してくる。領内内部まで赴いて商売をしようとするとその分通行料がかかって儲けが出ないからな」


「……なるほど。領内に簡単に入れても、内部を検問の度に通行料を取られる移動をするよそ者はいない、というかしようとすると目立つのですね」


「そういう事だ。旅をする者にはとても厳しい土地だ。他所からの冒険者も進んで赴くところではないな」


 タウロは少し考えこむ。


「父上、情報ありがとうございます。友人達と話し合って対策を考えてみたいと思います」


 と、お礼を言い、執務室から退室するのであった。




「──なんと! それは厄介な情報ですね」


 マラク達がこれから向かうボーメン子爵領の情報をタウロから聞かされて眉をひそめた。


「怪しいよそ者を炙り出すには持って来いですからね……。もし、ボーメン子爵と暗殺ギルドに繋がりがあったなら、よそ者が領内内部に多数入って来ると、王都での暗殺ギルド殲滅の関係者とすぐに疑われ、捕らえられる可能性も高いです」


 タウロもマラク達同様、眉をひそめた。


「それならば、私達『黒金の翼』が、先行してボーメン領に入って私とタウロの能力で手引きすればいいのではないか?」


 悩む皆の前でラグーネが当然の様に解決策を出して見せた。


「いや、だがしかし、ラグーネの『次元回廊』は村との行き来にしか使えないだろう?」


 マラクが、当たり前の指摘をした。


「そうだよ。ラグーネ。もし、竜人族の村の方の出入り口を解除するつもりなら流石に反対するよ?」


 タウロはラグーネの提案に反対の姿勢を取った。


「違うのだ! そういう事じゃなくて! ──実は最近気づいたのだが、出入り口をもう一か所作れる様になっていたのだ。今は、このカクザートの街と竜人族の村の間しか移動する機会がないから気にも留めていなかったのが、そういう事ならば役に立ちそうなのだ」


 ラグーネは重要な事を慌てて報告した。


「……ラグーネ。そういう事は早めに言ってよ! みんなで悩んでたのが馬鹿みたいじゃない」


 タウロはラグーネに厳重に抗議するのであった。


「ラグーネのスキルの成長で一気に道が開けましたね」


 マラクは先程とは一転して明るい表情になった。


「では、ボーメン子爵領内には僕達『黒金の翼』と、そこに逃げ込んだ”あの人”を追跡できるリーヴァさんでいいでしょうか?」


 タウロが、打開策が見つかった事で新たな提案をする。


「それならば、ここにいる六人でそのまま向かいましょう。元攻略組を含む他のメンバーは、ここの街に待機して貰っておいて必要な時に呼べばいいですし。場合によっては村の方からも呼ぶ事が可能でしょう」


 マラクが当然の提案をする。


「うーん……。ラグーネとリーヴァさんの二人の美女がいる時点で目立つので美形のマラクさんと美少年系のズメイさんまで混ざると……」


 タウロが、言いづらそうに答えた。


「リーダー、いまさら二人の美女に美形が二人混ざっても、もう変わらないって! わはは!」


 アンクがタウロの心配を笑い飛ばした。


「なんだ二人とも、私が美女だって? ──今日は私が食事を奢ろうか?」


 ラグーネは自分が美女に含まれた事がよほど嬉しかったのか照れるのであった。


「ははは! ラグーネはさておき、それじゃあ、この六人でボーメン子爵領に向かう事にしましょう」


 タウロが笑ってそう決定するとみんな頷くのであった。


 ただし、ラグーネは一人、


「私の事は、さておくのか!? 扱いが酷いじゃないか! くっ、殺せ!」


 と反応するのであったが、みんなはその反応は予測出来ていたので笑ってスルーするのであった。

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