第359話 もしや話

 その日から、タウロ達一行は、決行日までの3日間を領都近郊の森や山に日中は出かける事にした。


 一応、クエストの材料を採取している体を取る為である。


「悪い事をしていないとはいえ、冒険者としては心が咎めるな……」


 ラグーネが、日中ずっと森や山を歩いて移動し続け、クエスト内容とは違うものを採取したり魔物を討伐したりして暇を潰している事に罪悪感を持ったようだ。


「おいおい。リーダーから説明を聞いただろう。怪しまれない為にも今はこれでいいんだよ」


 アンクが、ラグーネに声を掛ける。


「そうそう。タウロ殿の機転が無ければ、他の奴がこれを引き受けて、僕達がやられるかもしれない薬が作られてたかと思うとぞっとするよ」


 金髪のズメイが頭に手を組んだまま、ぼやいた。


「でも、安心はできません。暗殺ギルドも人手を割いて探している可能性もあります。少しでも作られている可能性は否定できないので、警戒を怠ってはいけないと思います」


 タウロが、金髪のズメイに注意喚起した。


「……確かに。──ですが、タウロ殿が気付いてくれたおかげで、こちらは前もって警戒できるので回避も可能です。また、竜人族は救われました、ありがとうございます」


 赤髪のマラクがまたも竜人族の救世主になりそうなタウロに感謝の意を示した。


「いえ、まだ、暗殺ギルドを殲滅したわけではありませんから、安心はできません。気を引き締めて当日に備えましょう」


 タウロは、謙遜すると頷いた。


「……それにしても、このボーメン子爵の領都近郊って、毒草の見本市ね。私でも知ってるものが沢山あるわ」


 リーヴァが話を変えようと思ったのか、素直な感想なのか、呆れる様に漏らした。


「だな。奴らにしたら、ここは宝物庫に違いない」


 アンクもリーヴァに賛同すると頷いた。


「それにしてもボーメン子爵の家系は、北の帝国から亡命して来た貴族なんだよね?それって本当なのかな?」


 金髪のズメイが、奇妙な疑問を口にした。


「……帝国か。我々竜人族にとってもあの国とは因縁があるから、ズメイの疑問も理解できる」


 赤髪のマラクがズメイの疑問に賛同した。


「「?」」


 タウロとアンクは竜人族と帝国に因縁がること自体初耳なので疑問符で一杯になった。


「ああ、すみません。北の帝国は昔からこの国を亡ぼす為に南侵してくる事がしばしばあったのですが、我々竜人族が未然にそれを防ぐ事もあったのです。あちらにも竜人族の血筋が流れる一族が存在するので、均衡を保つ為にこちらの竜人族がよく返り討ちにしていました」


 赤髪のマラクが、疑問に答えた。


「そんな歴史があったんですね」


 北の帝国の南侵政策は、書物などで知っていたが、竜人族がそれを未然に防いでいた事はタウロも初耳だった。


「その帝国から亡命した貴族が、この土地の領主になって暗殺ギルドと深い関係にある、もしくは、創設したかもしれない一族だとすると、何か因縁があるのではないかと思うわけですよ」


「そりゃあ、壮大な話だな。……確かに帝国はあの手この手で南侵しようとしてきた過去があるから、ボーメン子爵の存在も怪しいんだよな。南侵の為の手先かもしれない」


 アンクも傭兵時代を思い出して、帝国について語るのであった。


「うーん。ボーメン子爵家かぁ。僕個人的な見解だと、初代が亡命したのは真実だけど信用を得られなくて、この国で必要とされる為に努力した結果が、暗殺ギルドという組織の創設だったんじゃないかなと思うのだけど」


「……それはまたなぜ?」


 赤髪のマラクがタウロの見解に興味を持った。


「実際、ボーメン子爵は北の帝国の情報をこの国に提供する事で貢献して来た歴史もあるんでしょ?亡命当初は純粋に役に立とうとしていたのだと思うんです。数代を経て、その状況が変わったのかもしれない。もしかしたら、この国で冷遇され続けて帝国に寝返った可能性も。それで、北の竜人族の血が流れる者達を引き込み今の暗殺ギルドの形になったとか」


「……確かに一理あります。ボーメン子爵に関しては、我々もノーマークでしたが、そういう事情で途中から北の竜人族を引き入れ、現在の暗殺ギルドになったのであれば、我々に気づかれる事なく暗躍して来た理由がわかります。最初から竜人族を引き入れていたのならば、その分、我々も気づくのは早かったと思いますので」


「それが本当だったら、北の竜人族が暗殺ギルドに加わったのは近年という事か。つまり帝国がまた南侵を狙って動いている可能性があるな」


 戦争のきな臭い香りに敏感な元傭兵のアンクが重要な事を指摘した。


「北の竜人族が関わっているとなると、我々がまた、参戦する事になりそうですね」


 赤髪のマラクが、アンクの言葉に答える。


「……今、思ったのだけど。竜人族の村で急に流行った病って、本当にただの流行り病だったのかな?」


 タウロが重大と思われる事を口にした。


「ま、まさか!?」


 リーヴァが、タウロが言わんとしている事にいち早く気づき、衝撃を受けた。


「もし、竜人族の間で流行った病が北の南侵計画の一環だったら、タイミング的には丁度いいよね?」


 タウロが怖い事を指摘した。


「……それがもし事実であったなら、病で我々が大打撃を受けて、今頃は南侵が行われていたのかも……。つまりタウロ殿は我々竜人族だけでなく、この国を未然に救っていた可能性があります……」


 赤髪のマラクは、タウロの功績が、竜人族内に留まらないものだったかもしれない事を指摘するのであった。

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