第347話 変わらないお仕事

 義理の父親であるグラウニュート伯爵から、領内巡検使という職と任命証、さらに伯爵家の紋章を与えられたタウロであったが、「冒険者をしながら領内を見聞してきてね」というアバウトなものだったので、これまでの冒険者生活と何一つ変わらない様に思われる。


 しかし、義父グラウニュート伯爵としては、世継ぎであるタウロに領内の事を知って貰い、自然に学ばせる意図があった様だ。


 それに、グラウニュート伯爵夫妻は、王都でタウロとの食事の時間は楽しみの一つだったので、領内に戻ってから会えない事を夫人が残念がっていた。


 だが、領内巡検使として領内を巡って貰えれば、タウロ自身の学びの場にもなり、またすぐに会える機会があるだろう。


 咄嗟のグラウニュート伯爵の機転であったが、それは絶好の案と言えたかもしれない。


 そんな領内巡検使の任について1週間が経つタウロとその一行『黒金の翼』は、まだ、カクザートの街に滞在していた。


「じゃあ、今日も火焔蟹討伐に行こう!」


 タウロがずっと日課になっているクエストにラグーネとアンクに気合を入れた。


 そう、塩湖の魔物による被害は『黒金の翼』の日々の討伐により、以前より格段に落ちていたとは言え、まだ、完全に駆逐したと言える状況ではなかったのだ。


 もちろん、冒険者ギルド・カクザート支部は、他の支部にDランク帯以上の冒険者の派遣を依頼して、この数日、他所の冒険者もやってくるようにはなったのだが、支部長の追及により諸々の罪で逮捕された副支部長の暗躍により、ここ最近のカクザート支部の評判は他所の冒険者ギルドでは褒められたものではなかったようだから、集まりは悪いようであった。


 その為、支部の最高ランク冒険者C+チーム『灰色禿鷹』捕縛により、現在、D+チームの『黒金の翼』が、中心になって緊急性の高いクエスト『火焔蟹討伐』を続けていた。


「リーダー、地元のE+チームが何組かうちに協力したいって申し出てるが、どうするかい?」


 アンクが、タウロ達に距離を取って付いて来ていたチーム3組を指さして聞いて来た。


「そうだなぁ……。ギルドからはフリークエスト扱いになってるから問題は無いと思うけど……、クエストの手続きを済んでいるんだよね?」


 付いて来たE+チームの3組は大きく頷く。


「じゃあ、僕達に一組ずつ付いて貰って、特殊編成で討伐していこうか。ラグーネもアンクも僕も火焔蟹討伐は慣れているし、3チームには僕達の戦い方を勉強して貰えば、明日から討伐出来るかもしれない」


 タウロがそう提案すると、すぐにチームを振り分けられた。


 タウロに付いたE+チームはタウロが子供だと戸惑う事は無い。


 何しろ『灰色禿鷹』のリーダー・ハーゲンの右手首を斬り落として捕縛した実力者なのだ。


 その目撃者である彼らにとって、目の前の少年がただの子供ではない事は重々承知している。


『黒金の翼』中心の特別編成での『火焔蟹討伐』は、最初こそ付いているチーム連中が足手纏いになる場面もあったのだが、タウロの指導の下、夕方になる頃には、タウロ無しでも、数匹の火焔蟹を仕留められるまでになっていた。


 まだ、危なっかしいがこれなら彼らもDランク帯に昇格して支部の戦力になれるかもしれない。


 タウロは教えられる事を一通り教えると、他のチームとも合流した。


 どうやら、ラグーネ組、アンク組ともに、その表情を見る限り満足の行ける討伐が出来た様だ。


「じゃあ、今日はこれでギルドに報告して終わりだね」


 タウロが、みんなに声を掛ける。


「「「『黒金の翼』のみなさん、今日はありがとうございました!」」」


 E+チームの面々はそう、感謝をすると、自分達の成長に自信が持てたのか和気あいあいとしながらギルドに戻っていくのであった。


「じゃあ、僕らも戻ろうか」


 タウロがラグーネとアンクに声を掛ける。


 そこに、フードを目深に被った一人の少年が歩み寄って来た。


 それは、『灰色禿鷹』の荷物持ちであったシオンであった。


「シオン君、どうしたのこんなところで?──あ、もしかしてコロン準男爵とハーゲン達についての証言が済んだ事を知らせに来てくれたのかな?」


 タウロは、そう言うと、シオンに歩み寄る。


「それもありますが……。──タウロさん!僕を『黒金の翼』に入れて下さい!」


 シオンはそう言うとその場に土下座した。


「え?なんで?」


 想像していないお願いに、思わずタウロは聞き返した。


「僕、タウロさんみたいな冒険者になりたいんです!これまで、ハーゲン達の元で荷物持ちをしながら冒険者としての経験は積んできました」


「おいおい。だが、荷物持ちだろう?それにうちでやるには最低Dランク帯じゃないと話にならないぞ」


 アンクが、シオンの願いを一蹴しようとした。


「ハーゲン達が受けていた街長依頼がほとんどフリークエスト扱いだったので、その恩恵で僕は一応Dランク帯です。──もちろん、みなさんに比べたら足手纏いかもしれません。でも、みなさんが連れて行ってくれた村で、僕、初めてスキルについて鑑定して貰ったんですが……」


「鑑定?ああ、シオン君は自分のスキルの確認自体出来ていなかったんだよね」


 タウロはそう言うと納得する様に頷いた。


「鑑定の結果を聞いて、お願いする決心が出来たんです。みなさんの役に立ちたいので仲間に入れて下さい!」


「良い結果だったのだな?少年よ、それでスキルは何だったのだ?」


 ラグーネが、興味を引かれたのか聞き返した。


「僕のスキルは、『光魔道僧』です!後方支援から、接近戦まで出来ると、鑑定してくれた方が教えてくれました!お願いです、みなさんのお役に立ちたいので仲間に入れて下さい!」


 シオンは力強く答えると、再度、仲間にしてくれるようお願いするのであった。

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