第348話 地獄に踏み込む少年
シオンの仲間入りへのお願いに、タウロのみならず、ラグーネ、アンクも頭を悩まさねばいけなかった。
「『光魔道僧』か……。確か、後方からの支援魔法も出来て、格闘という近接攻撃も出来る特殊な万能職だったな。昔、傭兵時代にそんな奴がいたが、自己で体力や魔力の回復も出来て、便利なスキルだと感心した覚えがあるが……」
アンクが傭兵時代を思い出して、貴重なスキルである事を教えてくれた。
「『光魔道僧』は、攻守一体の便利屋だからな!弱点は防御力にあるが、その俊敏性と力強さはそれを補って余りあると思うぞ!」
ラグーネもスキルについては申し分がないと保障してくれた。
あとは、シオン本人であった。
彼は、荷物持ちとして『灰色禿鷹』に付き添っていた為、危険に対しての回避や、荷物持ちとして力は磨かれていた様だが、戦闘経験やスキルに伴う能力の理解度については皆無であろう。
真っ新の状態でタウロ達のクエストに付いて来られるのか、それが問題であった。
それを察したのかシオンは自分のアピールを続けた。
「荷物持ちとして『灰色禿鷹』のクエストには付いていけたので足だけは引っ張りません!自分の事は自分でやります!荷物持ちもします!……あと、連れて行って貰った竜人族の村の人に幾つかすぐに使える能力や魔法は教えて貰いましたので、少々の怪我治療、ステータスの一時的な向上も使えます!」
「「「え?」」」
タウロ達はそのシオンの発言に素直に驚いた。
それは、竜人族の村に滞在していたのは1日だけだからだ。
その短い時間で、魔法や固有能力を覚えるなんて事、出来るわけがないのだ。
「本当に、出来るの?」
常人離れしているタウロが聞くのも滑稽であったが、シオンの言う事が本当ならかなりの才能も備わっている事になる。
「はい!鑑定してくれた人の話では、僕のこれまでの経験が能力を使えるようになる条件に近づいていたらしく、それに気づかずに生きて来ただけで、練習すれば普通にすぐ使えるようになるという事で色々教えて貰いました」
シオンにとってタウロの存在は英雄そのものであり、救世主にして、すがるべき神であった。
なのでシオンは必死に自分の有用性をタウロにアピールした。
「──二人とも僕はシオン君を仲間にしてもいいと思うのだけど、少し提案があるんだ」
シオンの必死さに過去の自分を映し出したのかタウロはシオンの願いを承諾したいと思った。
「リーダーが良いなら俺も構わないが、提案ってなんだい?」
アンクはタウロに賛同すると提案とやらに興味を持った。
「今、僕達は塩湖の火焔蟹討伐が最優先だから、その間、シオン君にはもう一度、竜人族の村に行って貰って、ダンジョンの浅い層で戦闘経験を積んで貰おうかなと」
「なるほど。あそこなら能力に応じて丁度いい経験が出来るからうってつけだな!」
ラグーネはタウロの提案にすぐに賛同した。
「そりゃいい。あっちにはスキルに詳しい腕利きが沢山いるから経験するには持って来いだ」
アンクも納得する。
「シオン君。そういうわけで、僕達が火焔蟹討伐に目処がつくまでの間、村で修行していて欲しいのだけどいいかな?その後でまだ気持ちが変わらない様なら、僕達のチームに歓迎するよ」
タウロはシオンに前提条件を付けて提案した。
「本当ですか!?僕、一生懸命頑張ります!その条件でお願いします!」
シオンは満面の笑顔で感謝するのだったが、ほっとしたのか涙も一緒に溢れてきていた。
「本当にありがとうございます……!僕、母さんが亡くなってからずっと不安で……。ハーゲン達の甘い言葉に騙されてからは、人が信用出来なくなりそうでした……。でも、タウロさんが隷属魔法を解いてくれたお陰で、生きる希望が見えた気がしたんです……!僕、見捨てられない様にお役に立ちます!」
涙を浮かべながらも力強く笑顔で答えるシオンに、『黒金の翼』が彼の大事な居場所になればいいなと思うタウロとラグーネ、アンクの三人であった。
「ほう……。タウロ殿が迎えに来るまでの間、戦闘経験を積ませればいいのですね?お任せ下さい。そういう事はうちの連中、慣れていますから」
竜人族族長リュウガにタウロが直接説明をすると、不敵な笑みを浮かべて答えた。
タウロはその笑みを見て、シオンに対して、罪悪感が一気に沸いた。
よく考えたら竜人族の人達、修行のせいで口癖が「くっ、殺せ!」だった!
タウロは心の中でシオンの未来を想像して楳〇かずお作品ばりの表情を浮かべるのであったが、言い出したのは自分である。
「お手柔らかに頼みます……」
タウロはシオンの将来を考えてちょっと申し訳ない気分になるのだった。
「シオンっていいます!容赦なくビシビシ鍛えて下さい!僕、これまでずっと我慢強く生きてきた自信があるので大抵の事はへっちゃらです!それにタウロ様の役に立ちたいので強くなりたいんです!」
シオンは力強く族長リュウガにお願いした。
きゃー!シオン君!それ以上、自分でハードル上げちゃダメ!
タウロは、表向きは平常心を保ちながらも、シオンに訪れる地獄を想像して、心の中では全力で止めるのであった。
「ほほう……。根性がありそうだ。──ならばこちらも短期間で強くなれるスケジュールを組ませよう!」
族長リュウガはタウロの力になれると思ったのだろう、全力で鍛える事を約束するのであった。
この族長リュウガとシオンのやり取りを見て、ラグーネは過去の修業を思い出したのか、顔を青ざめさせると小さな声で「くっ、殺せ……!」と、小さく声を上げた。
タウロはそれをしっかりと耳にして、シオンに降りかかる地獄が凄まじい事を容易に想像できるのであった。
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