第346話 準男爵逮捕
グラウニュート伯爵は、突然現れた義理の息子、タウロの姿に驚きながらも何やらただ事ではない事を察した。
「どういう事かな?」
グラウニュート伯爵は、タウロの申し出に、邪魔をしない方が良いと感じ、続きを促した。
「お、お待ち下さい、伯爵様!誰ともわからない小僧の話に耳を傾ける必要はありませぬ。このクビにした男を庇いだてするところみると横領の一味かもしれません!お前達、早くこの者達を捕らえよ。──後で私自ら尋問してくれる!」
そこに、コロン準男爵が危険を察知してタウロ達も捕まえようとした。
「こちらには、コロン準男爵が横領した証拠を持っています」
タウロはそう答えると、マジック収納から書類の束を出して見せた。
アンクがタウロの案で役人を買収して得たものだ。
コロン準男爵側の兵士はそれに構わず、タウロを捕らえようとする。
そこに、ラグーネとアンクが前に出て兵士の前に立ちはだかった。
「抵抗する気か!?罪を認めたな!──伯爵様、お下がり下さい。ここは私にお任せを!」
コロン準男爵は、タウロ達の反応を都合よく解釈するとそう告げ、グラウニュート伯爵との間に入って、タウロを近づけないようにした。
「ええい待たぬか!コロン準男爵!その少年は──」
グラウニュート伯爵が、タウロの素性について話そうとした瞬間、目の前のタウロは一瞬消えて兵士達の手前に現れるがすぐ消え、次の瞬間にはコロン準男爵の目の前に現れた。
それは、『空間転移』だった。
この半年以上、毎日使用していた事で、その移動距離は少し伸びた様だ。
タウロは一歩踏み出し、驚いているコロン準男爵を軽く押しのけると、グラウニュート伯爵の前に出てその証拠書類を渡した。
「お受け取り下さい、グラウニュート伯爵。書類だけでなく、証人も控えてます」
タウロはそう言うと、シオンを指し示した。
「……どうやらコロン準男爵。君の言う事には嘘がある様だ」
グラウニュート伯爵は、書類に軽く目を通すと先ほどまでの優しい表情から一転、威厳のある鋭い目つきになってコロン準男爵を睨んだ。
「お、お待ち下さい、伯爵様!これは誤解です!……そう。先ほども申し上げた通り、その証拠とやらは、きっと、あちらのクビにしたばかりの役人が横領したものです。──それに証人というのもただの子供ではありませんか!その様な事実も判断出来そうに無いような者を信じてはいけません!」
コロン準男爵は、グラウニュート伯爵にすがる勢いで迫る。
だが、タウロがコロン準男爵の手首を掴んで捻り上げるとそれも出来なくなった。
「イタタ!何をする小僧!?この手を離すのだ!私は準男爵だぞ、無礼者!」
コロン準男爵は、苦痛に顔を歪めながらじたばたする。
「コロン準男爵、大人しくせよ。──証拠は十分ある様だ。領兵達、コロン準男爵をひっ捕らえよ!」
動向を見守っていた領兵達はグラウニュート伯爵の命令で、一斉に動き出した。
タウロが押さえていた腕を領兵が引き継ぎ、両サイドから腕を掴んで逃げられなくする。
「伯爵様!誤解です、誤解なんです!ただの帳簿上のミスなのです!いや、きっと、これは陰謀なのです!私の地位に嫉妬する者達の陰謀なのです!」
街長邸にある牢屋まで連れていかれる間、コロン準男爵は自分の無罪を主張し続けるのであった。
「……どうやら、タウロには早速、迷惑を掛けた様だ」
グラウニュート伯爵は、タウロと二人になると苦笑いを浮かべ疲れた表情をした。
そして続ける。
「あのフートは、小さい頃からよく知っていたが、どうやら良い成長をしなかったようだ……。先代のコロン準男爵はとても忠実で誠実、部下の鏡というべき男だったのだが……。その息子だからこそ期待してこの街を任せたが、誤りだったようだ……」
グラウニュート伯爵は思った以上に落胆している様であった。
「……父上。代々続く忠誠心を信用する事は間違いないと思います。その信用を裏切った方が悪いのです。僕はよそ者なので、それらとは関係ないところで見る事が出来ました……。──そうだ……!当分の間、僕は冒険者として領地内を見て回りたいと思います、よろしいでしょうか?」
タウロは、義理の父親に領内行脚の許可を求めた。
「もちろんだタウロ。……子供には自由に生きて貰いたい。それを求めるなら、そうしてくれ。そして、ありがとう。タウロのお陰で領民をこれ以上苦しませる事にならずに済んだ」
グラウニュート伯爵は溜息を吐くとタウロの肩に手を置いた。
「我が息子、タウロ。これより、領内巡検使を命じる」
グラウニュート伯爵は暗い表情を一変させると、そう言い放った。
「え?領内巡検使?」
タウロが義理の父親からの意外な命令に聞き返した。
「我が息子である事を隠して回りたいのなら、そういう役職を持っていれば便利だろう?ちなみに先代グラウニュート伯爵、我が父が早くに亡くなられなければ、私自身がやりたいと思っていた事だ。代わりに息子にやって貰おう」
グラウニュート伯爵は我が息子を温かい目で見つめるとそう答えた。
「──わかりました。……父上、当分の間、領内を巡って見聞を広めたいと思います」
タウロは、この心優しい義理の父親に心を込めて父上と呼ぶと、頷くのであった。
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