第342話 荷物持ちの少年

 荷物持ちの青髪、青眼の少年は、シオンと名乗った。


 そのシオンは、これまでの事を思い出してか、ボロボロと涙を流しながらタウロに何度も感謝した。


 聞けば、『灰色禿鷹』の荷物持ちとして隷属魔法を掛けられて2年が経つのだという。


 シオンはぽつぽつと自分の事を語りだした。


「……お母さんが死んで孤児になった僕にとって生きていくには冒険者になるのが一番だと思っていたんだ……」


「そこに付け込まれたんだね?」


「……うん。うちは元々貧乏だったし、父親がどこの誰だかもわからなかったから、教会で受ける洗礼の儀でスキルも見て貰えなくて……、スキルがわからないと誰も雇ってくれないだろ?そこに、ハーゲンが『お前、力があるからうちで荷物持ちをするか』って、誘われたんだ……。冒険者になる為のお金も出してやる代わりに、信用できるようになるまで隷属魔法で縛るから、それでいいならついて来いって……。あの時はどん底の気持ちだったから未来に光が差した思いだったよ。……でも、そうじゃなかった……。隷属魔法で縛られたらハーゲンの態度は一変したよ。それからはこき使われる日々さ……。隷属魔法のせいで誰にも助けを求める事は出来ないし、苦痛でしかなかったよ……。そこからあんたは助け出してくれたんだ……!本当にありがとう……!」


「シオン君の助けになって良かったよ。こちらとしても君の助けが欲しかったし」


「もちろん、お礼に何でも話すよ!あいつら、僕が誰にも言えないと思っていろんな秘密を目の前で話してた。僕はまだ、子供で荷物持ちくらいしか使い道がないからって手伝いこそさせられなかったけど、その悪事の一端はその傍で見てきたよ。だから何でも証言できるよ!」


「それは助かるよ。じゃあ、僕達に協力してくれるね?報酬は弾むよ」


「報酬がなくても協力するさ!……あ、でも、僕も生きていかないといけないから報酬は貰えたら助かるかも……」


「ははは、もちろんさ!」


 タウロは笑顔で応じると、シオンには取り敢えず、一時の間身を隠して貰う事にするのであった。




「荷物持ちのガキ、戻ってこないぞ!?」


 ハーゲンは酩酊しながらも、使いに出したシオンが返ってこない事を不審に感じた。


「あら、本当だわ……。おかしいわね?私の隷属魔法で逃げられるわけないから、その辺で死んでいるのかしら?」


「ちげぇねぇー!わはは!新しい荷物持ちはまた、孤児の中から探せばいい話だしな」


 と、戦士の男。


「今回のガキは長続きしたな。何年も持ったのはあいつが初めてだった気がするぜ?」


 と、剣士の男。


「馬鹿野郎!俺達チームの荷物を持ったまま死なれたら俺達が困るだろうが!──おい!隷属魔法でここに戻るように命令してみろ!」


 と、ハーゲンが仲間を怒鳴った。


「わかったわよ!やってみるから怒鳴らないで!──あら?本当に反応がないわ……。これは街長邸からの帰りにお金目当ての強盗にでも殺された可能性が大きいわね」


「くそっ!あのガキは全く惜しくないが、お金と荷物が奪われたのは勿体な過ぎるぞ!……だが、腐ってもあいつは俺達『灰色禿鷹』の所有物だった。それに手を出した奴は見つけ出して始末してやるぞ!」


 ハーゲンは歯噛みするのであった。


 その頃、荷物持ちのシオンは、タウロに連れられてラグーネとアンクと合流すると早速、避難の為、竜人族の村まで移動していた。


 案の定、知らない者が侵入すれば、村の守備隊が現れる竜人族の村である。


「タウロ殿、お久しぶりです!そちらは新しいお供の方ですかな?」


 守備隊長がシオンに気づいて、念の為に確認する。


 シオンはシオンで、さっきまでカクザートの街の宿屋に居たはずなのに、知らない場所に移動した事に戸惑っていた。


「少しの間、このシオンをこちらに匿って貰いたいんです」


「匿う?……詳しく説明して貰っていいですかな?」


 守備隊長はタウロに事情を聞くのであった。



「なるほど……。タウロ殿、また無茶をしておられますな。わはは!わかりました。族長には私が説明しておきます。あ、そうだ。実は、タウロ殿に連絡を取りたがっていた者達がいまして。中々お出でにならないので直接、王都に向かったところです」


「え?誰ですか?」


「ほら、以前、暗殺ギルドについて調査していたマラク、ズメイ、リーヴァの3人組とその下で動いていた者達です。何でもダンジョン攻略祝いで報告が有耶無耶になってしまっていたと、タウロ殿に会いたがっていました」


「あ……。そう言えば、そんな事もありましたね……」


 タウロは数週間前の事を思い出すとそう呟いた。


「一応、我々にも報告はあったのですが、王都にある暗殺ギルドの拠点を全て炙り出せたかもしれないので壊滅させるかどうか相談したかったそうですが、族長がタウロ殿のお手を煩わせる事もあるまいと、我々で壊滅を決定して王都に数日前、出発したところです」


「そうだったんですね!……では暗殺ギルドの壊滅についてはお任せします。僕らは僕らでやる事がありますので」


「わかりました。マラク達はタウロ殿を探して報告するつもりの様でしたので、そちらに来た時はよろしくお願いします」


「はい!──じゃあ、シオンをよろしくお願いします」


「了解しました!」


 守備隊長は笑顔で頷くとシオンを引き受けるのであった。


「タウロさん、ありがとう。僕が必要な時はいつでも呼んで下さい」


 シオンは、命の恩人とも言えるタウロと早くも別れる事が名残惜しそうであったが、ぐっと我慢してタウロを送り出すのであった。


「じゃあ、またね」


 タウロは、手を振ると、パッとその場から消えるのであった。


 続いてラグーネも消える。


「……タウロさんって凄いな……!」


 シオンは今まで会った事がないタイプの同年代のタウロの姿に理想の英雄を重ねるのであった。

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