第343話 足跡を辿る悪党
冒険者チーム『灰色禿鷹』のリーダー・ハーゲンは、C+ランクの盗賊職冒険者なだけあり、敵の察知、追跡はお手の物である。
その能力だけなら、Bランク帯冒険者にも引けを取らないという自負もあった。
そんな自分のチームの荷物持ちはどうでもいい存在であったが、放っておくわけにもいかない。
荷物持ちの隷属魔法が解けていた事から死んだのは間違いないだろうが、自分達の所有物に手を付けた奴を許すつもりは一切ない。
自分達はこの街で最強の冒険者なのだ。
その体面を傷つけた者は、死を持って償わせる。
ハーゲンはそう強く誓うと、前日の酒が残ったままながら、荷物持ちの足跡を調べる事にした。
辿って行くと、街中の通りで一旦方向転換し、裏道に少し入ってそこで立ち止まった痕跡があった。
「……ここで荷物持ちは襲撃されたのか?」
ハーゲンは不審に感じた。
こんなところで襲撃したら目撃者も多く、すぐに大騒ぎになりそうなものだ。
荷物持ちは隷属の魔法に掛かっている以上、命令が最優先だから襲撃者に素直に従うわけがない。
抵抗の一つくらいしているはずなのだが、それもない。
敵は、それすらもさせずに荷物持ちを始末したのだろうか?
ハーゲンは足跡をもう一度確認すると、荷物持ちの痕跡はそこで途絶える事無く裏道の奥に続き、表通りに出ると引き返していた。
「……どういう事だ?」
隷属魔法を無視して誰かについて行くのは不可能なはずだが?
ハーゲンはこの不可解な荷物持ちの足跡に戸惑った。
敵の足跡をこの街中の無数の中から探すのはほぼ不可能であったが、荷物持ちの足跡だけは知っているので追跡は続行出来た。
ハーゲンはその足跡を辿っていくと一つの宿屋に辿り着く。
「……ここは、『黒金の翼』とか言う冒険者チームが泊っている宿屋じゃねぇか」
ハーゲンはこれが偶然なのかそれとも、必然なのか迷った。
そして、とりあえず最後まで足跡を辿ろうとしたが、その足跡は宿屋内の1階フロアを最後に無くなっていた。
「俺達に手を出す馬鹿な冒険者がいるとしたら、確かによそ者しかいないが……。あの怪力のガキがうちの荷物持ちを始末……?だがこのフロアで足跡が消えているのもおかしい……。もしあの怪力のガキ達に殺られたなら、タグに記録が残っているはずだな……。よし、冒険者ギルドを動かせば排除出来る!」
ハーゲンは笑みを浮かべると冒険者ギルドに向かうのであった。
「……ここまで追跡出来るとは……、腐ってもC+ランク冒険者だなぁ。こちらとしては直接襲って欲しかったのだけど、どうしようかな?」
ハーゲンの気配を察知して姿を隠し、フロアで様子を窺っていたタウロが姿を現して想定外の流れに戸惑った。
そこにアンクとラグーネも奥から出てきて、タウロに合流する。
「どうだリーダー。奴ら襲って来そうなのか?」
アンクが、開口一番やる気満々そうな言葉を口にする。
「あっちも頭が回るね。ここまでシオンの足跡を辿って来たから、僕らがシオンを始末したと思ったみたい。冒険者ギルドを使って僕達を追い詰める方に変更したようだよ」
「なんだ。アンクと私はやる気十分だというのに」
ラグーネがタウロの言葉を聞いて残念そうにした。
「まあ、最終的にはあちらから直接来るだろうから、今日も冒険者ギルドでクエストを受注しよう」
タウロは血の気の多い二人に苦笑いすると、冒険者ギルドに向かうのであった。
タウロ達はこの日も、火焔蟹討伐クエストを完了すると冒険者ギルドに報告に訪れた。
するとそこには、『灰色禿鷹』チームが受付フロアの一部を陣取って踏ん反り返っていた。
タウロ達はそれを無視して受付に向かうと受付嬢アーマインにクエスト完了報告をする。
すると、奥の部屋から冒険者ギルド副支部長が出てきた。
「D+チーム『黒金の翼』の諸君だね?我がギルドに今、通報があって君達が他のチームの冒険者を殺害した疑いが掛けられている。その罪を認めるかね?」
タウロ達にいきなりそう告げると、受付ロビーにいた冒険者達はその言葉に驚きのざわめきが起きた。
「何の事でしょうか?」
タウロはみんなを代表して答える。
「……認めないのだな?素直に認めれば良いものを……。それではタグを提出して貰おうか!」
副支部長は、厳しい顔つきのまま確証があるのか自信有り気に要求した。
「別にいいですが、もし、違ったらどうするんですか?何を根拠に言ってるのか知りませんが、これはかなり失礼な態度かと──」
「さっさと出せよ!うちの荷物持ちを殺害したのはわかってんだよ!」
ハーゲンがタウロの言葉を遮って強い口調で言い募った。
「……はぁ。ラグーネ、アンク、出して」
どちらにせよ、クエスト完了手続きをする以上、タグは確認の為に出すので3人とも受付嬢アーマインに差し出した。
受付嬢アーマインは急な展開に驚いていたが、それを受け取ると、副支部長がそれをもぎ取り、タグの記録を調べる魔道具で確認を始めた。
「……そんな馬鹿な!?聞いた話と違うではないか!まさか、お前達も記録を消して──」
副支部長は思わず自分が行っている犯罪行為を口走りそうになる。
「おい、副支部長!早く証拠を出してこいつらの罪を暴くんだ!」
ハーゲンが勝ち誇ってまたも言い募る。
「……ハーゲン。貴様が報告してきた記録は一切ない……」
副支部長はがっくりと肩を落として、ハーゲンの言葉を否定した。
「……なるほど。副支部長殿は、このハーゲンさんの言葉を鵜吞みにしたわけですね?先日、ハーゲンさんにはこの街を出て行く様に脅されたばかりです。そんな人を信じるあなたも問題がありそうですね」
「な、何を馬鹿な……!」
副支部長はタウロの発言に言葉が詰まった。
「……ほう。それは、興味深い話だな」
そこへ出入り口から、タウロが見た事もないハーゲンとは別のスキンヘッドの大柄な男が入って来た。
「し、新支部長!?領都に呼ばれて行っていたはず……、なぜここに……!?」
副支部長は一番聞かれたくなかった相手が現れた事に愕然としている様子であった。
「領主様が、数日早く領都入りしてな。早く面会が済んだから戻って来たのさ。すると面白い話に遭遇出来たわけだ」
新支部長と呼ばれた男はそう答えると、
「さて、詳しい話を聞こうか?」
と、受付ロビーの椅子に座って続きを促すのであった。
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