第335話 謎の多い問題
カクザートの街でのタウロ達の討伐クエストは数日間続いた。
その間、他の冒険者ギルド支部からの援軍は無く、流石のタウロ達も不審に思い出した。
「いくらなんでも他の支部から冒険者が来なさ過ぎじゃないか?」
アンクが、ギルド内で受付嬢アーマインに噛みついた。
いつもなら止めるところだが、タウロも同意見だったので止めずに様子を見た。
「そうなんですよ……。私もそれはずっと思っているのですが、実際来ないので困っています……」
受付嬢アーマインはシュンとして申し訳ないと平謝りする。
「要請はちゃんとしているんですよね?」
タウロが念を押す。
「もちろんです!ちゃんと上を通して手続きを踏み、各支部に要請していますから」
受付嬢アーマインは強い口調で答えると頷いた。
「……それが事実なら余程、火焔蟹討伐自体が不人気なのか、このカクザートの街が評判が悪いのか……。でも、報酬は悪くないし、あの数でなければ、討伐はそれほど難しくないのになぁ」
そう口にするとタウロは、考え込んだ。
今、この火焔蟹の増殖で得をする者は全くいない。
領主であるグラウニュート伯爵は税収入が激減して困っているし、この街の街長も同様だろう。
冒険者ギルドも依頼に答える事が出来ず損な役回りのはずだ。
だが、引っ掛かる点もある。
まず、あれだけ大量に増えるのを放置していた事。
その間、街長が領兵を出さなかった事。
この冒険者ギルドの最高ランクC+チームが動いていない事。
これらの件1つ考えてみても、不可解過ぎる。
そして、この間、このギルドに沢山いるEランク帯チームは全く動く気配が無い。
もちろん、Dランク以上の討伐クエストだから冒険者ギルドもDランク以上と指定しているのだが、討伐は無理でも被害を抑える為の監視や、住民の避難などやれる事はいっぱいあるはずだ。
だが、それらのクエストは無く、それに関わる者が1人もいない事は数日間でタウロも気づいていた。
「ここの街の街長は領兵を出す気はないんですか?」
タウロはもっともな疑問の1つを受付嬢アーマインにぶつけてみた。
「それはもっともな疑問なんだけど、この街の領兵が元々治安の為のギリギリの数しかいないのよ。そこに現在の街長が経費削減と称して緊縮財政を行ったから、経費を削られた領兵は人手が不足して余計に街の警備で手一杯なの」
「そんなにこの街の財政は悪いんですか?グラウニュート伯爵領最大の塩の収益でかなり潤っている街、と聞いてましたけど?」
「そうなのよね……。この街は塩の街。その塩を守る為には多少の出費も必要なはずなんだけど、今の街長はこの街は無駄が多いと言い張ってね」
受付嬢アーマインもその辺りは疑問に思っている様だ。
聞けば聞くほど矛盾が多い。
「その街長は他所から来た人なんですか?」
「いいえ。この街を長い事任されているコロン準男爵家の3代目よ。数年前、先代が急死してから引き継いだから、まだ、25歳くらいだったと思うわ」
ますます疑問点が増えた。
昨日今日この街を任されたのなら、この街の状況を理解せずに政策を行う事はあり得るのだが、代々引き継いで来たのならば、その辺りは理解出来ているだろう。
もしかしたら、街長が何かお金に困る状況にあって、緊縮政策を取った結果、魔物が増え、塩の生産に多大な被害を受け、悪循環に陥っているのだろうか?
だが、冒険者ギルドに街長からクエストの依頼は普通に出されていて報酬も悪くない。
何もかもが矛盾だらけに見えてタウロも理解に苦しむのであった。
「私達は冒険者だ。今日も火焔蟹を討伐して貢献するしかないな」
ラグーネはタウロと一緒に傍で考える素振りを見せていたが、それはタウロに任せたのか、基本に立ち返ってそう提案した。
「……そうだね。今日もとにかく討伐して数を減らそう」
タウロはラグーネの提案に賛成するのであった。
「本当にすみません……。上にはまた、私が確認してみます……。今日も討伐よろしくお願いします」
受付嬢アーマインは、申し訳なさそうに謝るとタウロ達を送り出すのであった。
その日もタウロ達は『黒金の翼』単独で火焔蟹討伐をある程度行うと帰り支度を始めた。
「今日はちょっと遅くなったね」
タウロが陽が沈むのを確認しながら二人に言う。
「ギルドに戻ってから討伐報告して、とっとと食事に行こうぜ」
アンクが、飲む気満々な様子で提案する。
「そうだな。この街は食事は悪くないから、それだけが楽しみだ!」
ラグーネもアンクの提案に食事モードに気持ちを切り替えたのか足がもう街に戻る方に向いていた。
「……ちょっと待って。……こっちを伺っている人達がいるんだけど、なんだか気配が良くないなぁ」
タウロは少し離れた塩湖の傍の岩陰に人影を確認した。
「俺達を狙っている輩がいるって事か?」
アンクが一転して真面目な顔つきになる。
「そう言う感じじゃないんだけど、こちらを意識しながら、後ろめたい感じの気配がするというか……。うーん……、何だろうこの感じ。あっちはこちらの存在を煙たがっている感じはあるね」
「襲ってくる気が無いなら、相手しなくていいのではないか?」
ラグーネがそう割り切った意見をした。
「……そうだね。取り敢えず帰ろう」
タウロはそう答えるとカクザートの街まで戻るのでった。
翌日。
一夜明けてまた、クエストを受注したタウロ達一行は塩湖を訪れていた。
そして、タウロは昨日気になった人の気配があった岩陰を確認しに足を運んだ。
「……これは、残飯?いや、もしかして餌かな?」
タウロの視界に入ったのは食い散らかされた後の袋と、その中にほんの少し残った残飯の後であった。
「……臭うな。──こんなところにゴミを捨てるわけないよな。ただでさえ火焔蟹がいるんだからよ」
アンクがタウロの後ろから覗き込んでその有様を確認する。
「……どうやら、火焔蟹を餌付けして増殖させている連中がいるみたいだね」
大量発生した魔物の原因の一端に辿り着くタウロ達一行であった。
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