第336話 あの二人、狂ってやがる……
タウロ達一行は、火焔蟹大量発生の原因と思われる残飯の廃棄跡を発見し、それを冒険者ギルドに報告した。
「何ですって!?」
報告を受けた受付嬢アーマインが驚いて声を上げた。
「あ、ごめんなさい……。それは本当なの?」
他の冒険者の目を引いたので受付嬢アーマインは声のトーンを落としてタウロに聞き返した。
「はい。実は前日に怪しい人影があったので、今日、その人影のあった場所に廃棄跡を確認しました。意図的に火焔蟹を大量発生させた人間がいるみたいです」
「わかったわ……。上に報告して──」
受付嬢アーマインが、言いかけるとそこへ上司と思われる黒髪オールバックに口髭の男性が現れた。
「どうしたのかね。アーマイン君?」
「あ、副支部長!今、報告しようと思ったのですが──」
受付嬢アーマインは、タウロの報告を一部始終伝えた。
「……なんと!?支部長が留守の時に……。──仕方ない、私が街長にこの事を直接伝えよう。流石にこの事実を知れば街長も領兵を出さざるをえないだろう」
副支部長はそう答えると外出の用意をして急いで出ていくのであった。
「これで解決に繋がるといいけど……。それじゃ僕達は、明日からまた増えた火焔蟹の討伐だね」
タウロは、ラグーネとアンクに声を掛ける。
「流石にこう毎日、火焔蟹を相手していると、他のクエストもやりたくなるな」
アンクが、連日の火焔蟹討伐にうんざりしてぼやいた。
「仕方ないなぁ。そうぼやく日が来ると思って、良いものを用意しているよ」
「「良いもの?」」
アンクとラグーネが目を合わせる。
「これだよ」
タウロがマジック収納から出したものは、火焔蟹の死骸であった。
「おいおい、リーダー。見飽きてるものを出してくれるなよ……。リーダーがせっせと回収していたのは知ってたが、魔石回収と討伐証明の為じゃないのか?まだ、保存してたとは……」
「アンクの言う通りだぞタウロ。そんな大量の死骸をどうするのだ?」
ラグーネも連日討伐し過ぎて見飽きている子供程もある大きさの火焔蟹を魔槍で小突いてみせた。
「ふふふ……!そんな二人の愚痴を沈黙させてみせるよ!」
タウロは意味有り気に言うと火焔蟹をまたマジック収納に直し、二人を宿屋に連れ帰るのであった。
宿屋の食堂──
「タウロ?調理場で何をやってるんだい?」
ラグーネが、料理人と一緒に調理場に入って行ったきり、なかなか戻って来ないので声を掛けた。
「ちょっと待ってて、もうすぐ出来るから!」
「「出来る?」」
二人は嫌な答えに直ぐに辿り着いた。
どうやらタウロは、火焔蟹を調理している様だ。
ラグーネもアンクもうんざりするほど倒した火焔蟹が美味しく食べられるとは思えず、目を合わせると嫌な顔をした。
「どうするラグーネ?」
「今更どうしようもないだろう……」
二人がどうしようないという諦めの表情を浮かべていると、調理場の奥から料理人が笑顔でタウロを絶賛して出て来た。
タウロも笑顔で出てくる。
続いて従業員の女性が大きなお盆に料理を載せて出て来た。
「火焔蟹を食べた感想を言って笑ってるぞあの二人……」
ラグーネが絶望的な気持ちになって、顔を青ざめさせる。
「あの二人、狂ってやがる……」
「くっ、殺せ!」
アンクもラグーネに同調して顔を引き攣らせた。
「じゃあ、二人とも僕が用意した蟹料理を堪能して!」
自信満々のタウロは笑顔で、二人の前に蟹料理を並べていくのであった。
「蟹の刺身に、焼き蟹、蟹飯に、蟹の天ぷら、蟹汁だよ」
蟹尽くしの献立に二人はいよいよ自分達の終わりを想像する。
「り、リーダー。これ、絶対お腹壊さないか……?」
「え?全然大丈夫だよ?──もしかして二人とも……、僕が変なもの食べさせようとしていると思ってるの?」
「「うん……!」」
二人は激しく頷くのであった。
「大丈夫だって!というか蟹料理って高級なものだからね?僕も前回食べたのはかなり昔(前世以来)だから興奮しちゃったよ!」
タウロは満面の笑みで二人に勧める。
その笑顔が恐ろしく見えて仕方ない二人であったが、食べないとタウロも料理人も納得しないだろう。
一番手前には蟹の刺身があったが、それは避けた。
生は確実にお腹を壊しそうだと思えたのだ。
なのでその隣の焼き蟹を手にすると、覚悟を決めて一気に頬張った。
……
……
「「美味い!」」
二人は見合ってそう感想を漏らすと後は静かであった。
黙々と蟹を食べ始める。
「うんうん……。蟹を食べる時は無口になるよね……!」
タウロは、二人が夢中になる姿を見て満足するのであった。
一番避けられていた蟹の刺し身も込みでお替わりは繰り返され、三人は蟹料理を心ゆくまで堪能した。
久し振りの蟹料理だ。
みんなと食べられるのがまた美味しい。
エアリスがここに居ないのが残念だが、会う機会はいつかあるだろう。
その時、また、振る舞えばいい。
タウロはエアリスの事を、くよくよ考えない事にしたのであった。
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