第333話 塩の街からのスタート

 タウロ達『黒金の翼』一行は、王都より1週間程の距離にある北西のカクザートの街を訪れていた。


 カクザートの街は、グラウニュート伯爵領にある街の1つで、伯爵領最大の街であった。


 領都はグラウニュートの街であるが、このカクザートの街には傍に塩湖があり、そこで産出される塩が最大の収益を上げていて、グラウニュート伯爵家はその地盤があるからこそ、貴族の中立派の重鎮の1つに上げられているのであった。


 タウロがなぜここを訪れたかというと、両親となったグラウニュート伯爵とその妻アイーダとの食事の席で、


「実は、最近我が領内にある塩湖に魔物が大量に湧いて困っているのだ」


 と会話の流れで漏らしていたのだ。


 冒険者であり、この2人の養子になってお世話になっている身のタウロとしては、領主の嫡男としても役に立てるならと、ラグーネとアンクに相談してこちらに訪れていたのであった。


 カクザートの街は、タウロ達一行が想像していたよりも大きな街であった。


 平地に出来た街なので高低差はあまり無いが、横に広く拡張され続けている印象を受けた。


「大きい街だね」


「まぁな。カクザートの街は伯爵領の中でも最大規模の街。北西部の塩の大半はここと、山岳地帯で取れる岩塩で賄われているらしいからな」


 アンクが、何度か訪れた事があるらしく、説明してくれた。


「それにしても、大きい割にあまり活気があるとは言えないな。いや、王都と比べての話だが……」


 ラグーネが街に入ってから最初の感想がそれであった。


「……確かに。最後に来たのは2年近く前なんだが、少し活気が無いな。やはり、魔物が塩湖に大量発生したせいかもしれないな」


 アンクが、ラグーネに街の雰囲気を指摘されて、首を傾げると推測して見せた。


「一番の稼ぎ頭である塩が取れないとなれば、街の雰囲気も悪くなるだろうね」


 タウロもその言葉に理解を示した。


 そして、続ける。


「じゃあ、先ずは宿屋を取ってから冒険者ギルドに行ってみようか」


「そうだな。ところでリーダーは領主の嫡男なんだから街長のところに顔を出さなくていいのかい?」


 アンクが、もっともらしい事を提案した。


「うーん……。僕は養子だし、まだ、グラウニュート伯爵が領内の関係者を相手にしたお披露目パーティーも開いていないからね。その段階で、伯爵家の世継を名乗って子供が現れるのもどうかと思う。だから今回は、一冒険者として解決する事に全力を注ごうかなと……」


 タウロは、アンクの提案には慎重な姿勢を見せた。


「そうだな。突然リーダーが現れても相手は困惑するのが関の山か。まぁ、お忍び的に魔物退治しながら、領内を回るのもいいかもな」


 タウロの慎重な姿勢は平民を養子にした事で、領内の関係者からの反発が多少はあるだろうと考えてるのかもしれないと察して、アンクは納得した。


「それはいいな。タウロとアンクと私の3人で魔物を退治して領民を助け、領内を巡る。──楽しそうだ」


 ラグーネも笑顔で賛同した。


「それじゃあ、宿屋を取ったら早速、冒険者ギルドに顔を出そうか」


 タウロは、そう告げると、3人で宿屋を探すのであった。




 私は冒険者ギルド・カクザート支部の受付嬢アーマイン。


 この花形の仕事を始めて4年のベテランよ。


 この街は、塩の名産地である事で裕福だから、そのお金を狙って変な輩も集まって来やすい。


 私は、そんな輩を沢山相手にして見極めて来た。


 だからこれまでの経験で、怪しい冒険者はすぐにわかる。


 その私の勘が、この連中は怪しいと警鐘を鳴らしているのだけど……。


 冒険者を示すタグにはD+を示す銀のプレート。


 そして、その記録から年齢は13歳!?


 見た目はくすんだ金髪に青い瞳、容姿は可愛らしいけど、Dランク帯の冒険者には到底見えない。


 その子が、リーダーを名乗るチームは『黒金の翼』。


 聞けば以前は、王都でも活動していたと言う。


 その仲間も怪しい。


 というか戦士系の恰好をしている黒髪金眼の美女がとても珍しい竜人族!?


 そして、その2人の組み合わせだけでも怪しいのに、不釣り合いの赤髪に黒一色の装備のおじさん冒険者。


 一番のベテランかと思ったら、おじさんが一番初心者冒険者らしい。


 あまりに不釣り合いな組み合わせに、冒険者を騙る詐欺集団ではないかと、タグをダブルチェックしたのだけど……。



「……本物ですね。(ニッコリ)──それにしても、助かります。今、この支部では冒険者が不足しておりまして、近隣の冒険者ギルド支部に派遣要請をしていたところなんです。まさか遠く王都から派遣されてくるとは思いませんでした」


 紫色の長髪に同じく紫色の瞳、そして、肉感的なスタイルの受付嬢アーマインは支部一の人気を誇る営業スマイルでタウロ達に対応した。


「僕達は要請を受けて派遣されたわけではないんですが……。ところで、塩湖で魔物が沢山増殖しているとか?」


 タウロは誤解があるといけないので、その部分は否定するとタウロ達の目的でもある塩湖の魔物退治について聞いてみた。


「ええ。火焔蟹と呼ばれている魔物が大量発生していて地元住民は大変困っているんです。討伐対象ランクはD-以上なので、この支部で対応できる冒険者がほとんどいなくて派遣要請をお願いしていました」


「何だいお姉さん。この支部はDランク帯以上は少ないのかい?」


 アンクがタウロの背後から受付嬢アーマインに声を掛けた。


「この街は普段、魔物の討伐クエストがあんまり発生しません。発生してもEランク帯で解決できるものばかりなんです。なので大きな街の割には仕事が限られる為、Eランク以下の冒険者は沢山集まって来ますが、上のランク帯の方々はやってこないんです」


 受付嬢アーマインは、現在のこの街のギルドの現状を説明した。


「ちなみに、この支部の一番の冒険者は何ランクなんだい?」


 ラグーネが何となく興味を持ったのか質問した。


「現在は古参のC+ランクチームが、ここの支部でのトップです。そのチームはこの街の街長が贔屓にしている冒険者チームで、今回の魔物討伐のクエストには参加しないみたいです。ですから、みなさんが現状では、この支部の最高ランクチームになります」


「おいおい。俺達が一番なのかよ……。──そのC+チームはいつも街長の仕事を引き受けているのか?」


「街長の信頼も厚く、普段から指名依頼されているので。──あ、守秘義務があるので内容はこれ以上申し上げられません」


 受付嬢アーマインは、大袈裟に口を覆って見せた。


「……ちなみに、Dランク以上の冒険者は他にどのくらいいますか?」


「Dランクのチームが1ついますが、そのチームは今回、街長からの指名依頼で出払っていますのでこれ以上は……」


 受付嬢アーマインは、これ以上は言えません、という素振りを見せた。


 結局、僕らだけじゃん!


 タウロは、他の支部からの派遣される予定のチームよりも、自分達が先に来てしまった事に気づいたのであった。

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