第332話 そして伝説へ……
タウロは王都に集結していた竜人族全員を、『空間転移』を使って竜人族の村まで送り届ける事にした。
自分の為にみんな、暗殺ギルドを追ってずっと動いてくれていたのだ。
その労を労う為にも、竜人族悲願のダンジョン攻略達成を身内と祝って貰う為にも、一度故郷に帰って貰う事にしたのであった。
それから1週間が経過した。
その間、タウロとラグーネ、アンクの3人は王都の冒険者ギルドでいつも通り、クエストをこなしていた。
「よし、今日も達成だね」
タウロが受付でクエスト達成の手続きを完了して二人に確認を取る。
「やっと3人での立ち回りにも慣れてきた気がするな」
アンクがそう漏らす。
「そうだな。エアリスがいない分、魔法の支援が無いから何かと不自由を感じていたが、最近はそれも薄れて来た気がする」
ラグーネもアンクの言葉に理解を示した。
「エアリスの魔法支援は、攻撃、防御、どちらにも大きかったからね……。ヴァンダイン侯爵領に帰って、今、何をしているんだろう……」
タウロも脱退したかつての仲間を思い出して感傷的になるのであった。
その日の夕方、ヴァンダイン侯爵邸から、幾つかの荷物がグラウニュート伯爵邸に送られてきた。
1つは明らかに黒壇の杖とわかり、他の物も中身が何かすぐに察する事が出来た。
エアリスがタウロから貰った装備品一式であった。
中には、手紙が同封されており、そこにはこれまでの感謝が綴ってあった。
どうやら、エアリスは綺麗さっぱり、冒険者としての道を諦めた様だ。
確かに怪我の影響で、私生活に支障は無いものの激しい運動は出来ない状態であった。
エアリスにとって、貴族社会に戻ってもいざという時の保険の様なものだったと思うのだが、その道を完全に絶つ覚悟をしたからこそ、タウロに返したのであろう。
中には『黒金の翼』の一員である事を示すペンダントも入っていた。
こうして、『黒金の翼』のオリジナルメンバーは完全にタウロ1人になったのであった。
「装備一式を返されちゃうと、改めて自覚しちゃうな……」
タウロは寂しい気持ちになったが、タウロのベルトに擬態しているぺらが、励ます様にぷるんと動いてみせた。
「ぺら、ありがとう……」
タウロは、そんなぺらに感謝した。
そして、エアリスは自分の道を選び進み始めたのだと気持ちを切り替える事にするのであった。
「次はリーダーの番だったりしてな」
アンクは、タウロの肩をポンと叩くと、貴族の養子になったタウロに自覚させるような事を言った。
「僕?うーん……。確かに将来的にはそうなるかもしれないけど、アンクとラグーネには、こらからも仲間として共にいて欲しいかな」
タウロが弱音のような事を口にした。
「ははは!私はタウロの傍にいつでもいるぞ!それが血の盟約を交わした仲間として友人として、恩人としての私のタウロに対する誠意だ」
ラグーネはそう答えるとタウロの肩を軽く叩いた。
「リーダーがそう言ってくれるなら俺もいいぜ?それにグラウニュート伯爵家に仕える事になるなら、それはそれで老後も安泰そうだからな。わはは!」
アンクもそう答えるとタウロとラグーネ、二人の背中を叩くのであった。
それから数日後。
竜人族の村に変化が訪れていた。
竜人族の村の大通りに位置する大きな広場、そこに1つの大きな像が建っていた。
1人の少年の全身像であり、その台座に嵌め込まれたプレートには、『竜人族の村を救い、我らの悲願達成に貢献した人族の英雄、タウロ』と、書かれている。
この像は大小様々なものが、ダンジョンの出入り口、『カレー屋』の店頭、族長宅の前、冒険者ギルド前、村の出入り口にと設置されていた。
どうやら、王都で活動していた赤髪のマラクらが、王都で目撃した銅像からヒントを得て、タウロ像の建立を族長に勧めたらしい。
族長リュウガをはじめ、反対する者はおらず、タウロを驚かせる為に、秘密にして作ったらしい。
「……確かに驚くけど、これは恥ずかしいの一言に尽きるよね」
広場の巨大タウロ像を見上げて、タウロは苦笑いするしかなかった。
「タウロの竜人族の村に対する功績はそれほどだという事だ。私もタウロを連れて来た身として鼻が高いぞ!」
ラグーネが嬉しそうに鼻高々に胸を張った。
「俺だったら勘弁して欲しいところだが、リーダーなら仕方がないな!わはは!」
アンクは他人事だと思って無責任にタウロ像に理解を示すのであった。
「族長リュウガさんには、一応撤去を申し出るつもりだけど……、無理かなぁ……。でも、冒険者ギルド前のだけは絶対撤去して貰うけどね」
タウロは、これからも利用する冒険者ギルド竜人族の村支部前の像だけは、是が非でも撤去させる強い意志で反対する姿勢を取るのであった。
反対の結果、冒険者ギルド前のタウロ像は撤去された。
しかし、他の像は族長リュウガも断固として首を縦に振らなかった。
やはり、タウロの功績は大きいから、これから子々孫々にその功績を語り継がせる為にも必要だと強く語ったのだ。
タウロにしたら、子々孫々まで語り継がなくていいのだが、竜人族にとっては重要事項だったのだ。
なので、タウロ像とタウロの功績は竜人族の村で子々孫々まで語り継がれる事になる。
伝説の村において、タウロは生ける伝説になったのであった。
「もう、撤去は諦めよう。──そうだ。ラグーネ、アンク、ぺら。これを機に、ちょっと拠点を移動しようと思うのだけど、いいかな?」
タウロは仲間に提案をした。
「今度はどこに行くんだ?」
と、アンク。
「私はどこまで着いていくぞ!」
と、ラグーネ。
ぷるん
と、ぺら。
「……次は──」
タウロは2人と1匹に次の旅先を告げると、新たな冒険へと旅立つのであった。
──完──
ここまでの読了、ありがとうございました!
西の果てのぺろ。の次回作にご期待下さい!
……
……
というのは冗談でまだ続きます。
こういうオチを、やってみたかっただけです。
次回からも、普通に続きますのでよろしくお願いします。
──二部完結──
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