第328話 歓喜の渦

 エアリスの誕生日パーティーを皮切りに、おめでたい事が続く事になる。


 まず、エアリスの弟と妹の誕生である。


 そう、ヴァンダイン侯爵と元メイドのメイの間に誕生した子供は男女の双子だったのだ。


 これにはエアリスも大喜びで、弟妹の為にも自分が頑張らないと!と気合がかなり入った様だ。


 その為、エアリスもヴァンダイン侯爵も王都の屋敷を離れ、自領であるヴァンダイン侯爵領に一時戻る事になった。


 その間、タウロ達はヴァンダイン侯爵邸を自由に使わせて貰っていたが、流石にタウロはグラウニュート伯爵の養子になっていたし、エアリスは『黒金の翼』を脱退したので、移動した方が良いだろうという事になった。


 こうして長い間、王都の拠点として使わせて貰っていたヴァンダイン侯爵邸を後にし、本格的にグラウニュート伯爵家にタウロはアンクとラグーネを連れてお世話になる事にしたのであった。


 グラウニュート伯爵とその妻アイーダは、タウロが王都のグラウニュート伯爵邸に移動して来てくれたので、それだけでも嬉しいのか二人とも笑顔が絶えず、嬉しそうであった。


 クエストや、何かしらの用事が無ければ、一緒に食事をする事もかなり増えたし、タウロもこの夫妻の温かさに和やかな気持ちになる。


 まだ、家族としては他人行儀なところもあるが、確実にその関係は親密になりつつあった。




 そんなある日。


 竜人族の村で、普段通りダンジョン攻略の為の送迎クエストを引き受けて、タウロ一行は最深層に補給組を送り届けていた。


「もう、264階層まで来たんですね……。攻略組のみなさんの努力には頭が下がります」


 この数か月の間に攻略組の快進撃は凄まじいものがあったのだ。


 もちろん、それにはタウロの『空間転移』による支援が大きかった。


 攻略組は食糧や消耗品について全く心配する事無く進んで戦えたので引き返す事を意識する事無く戦えた。


 その為、力を温存するという計算もしなくて良くなった。


 この事が攻略組の本来の力を十二分に発揮する事になり、快進撃に繋がったのだ。


「それはタウロ殿の貢献が一番大きいですよ」


 護衛チームの隊長ツグムがタウロの貢献度を強調した。


「いえ、それでも攻略組のみなさんが戦っている事に変わりないですから。強い敵を相手に怯まないみなさんの活躍には頭が下がります」


 ツグムの言葉にタウロは謙遜していると、そこにサポート組が『休憩室』に戻って来た。


「おお!タウロ殿、丁度良かった。実は、264階層をクリアして265階層に辿り着いたので、報告に来たのです!」


 どうやら激戦を制して265階層に辿り着いたのだろう、サポート組の面々はボロボロな姿であったが、その目は生き生きと輝いている。


「それはおめでとうございます!もう、264階層のクリアに1週間近くかかっていたので心配していました!」


 タウロはサポート組の報告を聞くと祝福した。


「264階層の領域守護者が手強くて丸一日戦闘に費やしましたからね。他の魔物も強くて大変でしたよ」


 サポート組のリーダーがとんでもない事をサラッと答えながら笑って見せた。


「そこで、タウロ殿。肝心の265階層ですが……、ついに終点の様なのでタウロ殿に立ち会って貰いたいという事でお呼びに参りました」


「「「「え?」」」」


 タウロはラグーネやアンク、ツグムを含む護衛チーム、補給組のメンバーはその言葉に目を見合わせた。


 終点、それはこのダンジョンの始まりの地と呼ばれた竜人族の悲願であるダンジョン攻略の終わりを告げるものだ。


 みなが耳を疑い見合わせるのも仕方がないのであった。


「それはつまり……」


 タウロが聞き間違いかもしれないと慎重に聞き返す。


「……我々は、このダンジョンの最深部である『迷宮核ダンジョンコア』まで……、辿り着きました!」


 サポート組のリーダーは、タウロの慎重な姿勢に、丁寧に答えようとしたが、興奮を抑えきれず最後は力が籠もっていた。


 その言葉に、264階層の『休憩室』は、一瞬で歓喜の渦に包まれた。


「「「「やったー!」」」」


 竜人族悲願のダンジョン攻略がなされたのだ、『休憩室』中の竜人族達は抱き合い、お互いに賛辞を送り、これまでの苦労を労うと、攻略組の偉業を称賛した。


 タウロとアンクはこの光景に圧倒されて呆然としていたが、ラグーネが涙ぐみながら二人に抱き付いて「ありがとう!」と、感謝の言葉を述べた。


 こうして、終わりが見えないダンジョン攻略の為の戦いを、数百年行ってきた竜人族による始まりのダンジョン攻略が遂になされ、タウロは竜人族の1人に求められるがまま、『空間転移』で地上に補給組のメンバーを報告に向かわせるのであった。



「タウロ殿、先程も言った通り、265階層の『迷宮核の部屋』に攻略組が待機しています。その手前に『休憩室』が出来ていますので、『空間転移』で移動をお願いします」


 サポート組のリーダーは、そう言うとタウロに『空間転移』を促した。


 あちらもこちらが訪れるのを首を長くして待っているはずだ、サポート組の想いにタウロはそう感じるとアンクとラグーネ、護衛チーム、サポート組で円陣を組み、265階層の休憩室に『空間転移』するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る