第329話 最下層到達

 タウロ達はついに最下層の『休憩室』に『空間転移』して辿り着いた。


 竜人族達の悲願である最後の場所、265階層である。


 タウロ一行はサポート組に先導されて、そのまま『休憩室』を出て、その傍の階段を少し降りていく。


 するとそこには3組の攻略組とその各サポート組の面々が、神妙な面持ちで待機していた。


 以前にも見た事があるダンジョンの命である『迷宮核ダンジョン・コア』が、大きな台座の上に鎮座してあり、その前までタウロは通された。


 この始まりのダンジョンの『迷宮核』は、ダンサスの村の近隣で発見した生まれたてのダンジョンの『迷宮核』に比べて何倍も大きく、この始まりのダンジョンの核に相応しいと思える佇まいであった。


 タウロが迷宮核の傍まで案内されると、


「タウロ殿がいなければ、この部屋まで辿り着くのに何百年かかっていたかわかりません。我々の悲願にタウロ殿が大きく貢献してくれました。竜人族を代表して今回の攻略組リーダーである私がお礼を言います、ありがとうございました」


 と、大勇者スキル持ちの英雄が深々と頭を下げると、それに続いて他の英雄達も頭を下げる。


「いえ、竜人族のみなさん全員の努力があってこそです。僕はそこに少しのお手伝いをしただけにすぎません。みなさんこそ、よくぞこの短期間でこの最深部まで辿り着いたと思います。その偉業はみなさんの為のものです。おめでとうございます」


 タウロは、そう言うと、大勇者と握手をする。


「ありがとうタウロ殿……!」


 大勇者は、タウロの言葉に感極まったのか天井を見上げると少し間を置いた。


 そして、続ける。


「タウロ殿、我々を代表して、この『迷宮核』を破壊して貰えないであろうか?タウロ殿の情報通りなら、破壊した者の望むアイテムがドロップされるはず。それはタウロ殿に貰って頂きたい」


 大勇者がそう告げると、他の英雄達もその言葉に頷いた。


「いえ、僕にはそれを受け取る資格はありません。このダンジョンの攻略を成し遂げたのは、竜人族のみなさんです。僕ではなく、竜人族のみなさんの代表者が行うべきだと思います」


 タウロはそう答えると大勇者の申し出を断った。


「それに地上では、このダンジョン攻略の報が竜人族の村に届くと思います。地下一階の『休憩室』に、みなさんを迎える為に、族長リュウガ殿が駆けつけてくるのも時間の問題でしょう。なので僕は一端、族長リュウガ殿を迎えに行って来ます。──あ、そうだ。その間、みなさんにはゆっくり食事をしていて貰いましょう。見たところ、みなさんボロボロですし、まだ、食事もあんまりしていないみたいですから」


 タウロはそう続けると、マジック収納から幾つもの寸胴や大桶、沢山の食器類を出した。


 その寸胴の蓋を開けると竜人族のみんながこの数か月の間に大好物になったカレーの匂いがした。


「ごはんととんかつ、それにハンバーグなどトッピングも幾つか用意があるのでみなさんゆっくり食事を楽しんでいて下さい」


 タウロは竜人族一同の労を労うと、アンクとラグーネ、護衛チームと共に『休憩室』に戻った。


「それでは1階に戻るね」


 タウロはみんなに確認すると共に、地下1階層に戻るのであった。




 タウロ達は、ダンジョン攻略の報を聞いてお祭り騒ぎになっている1階層の『休憩室』で、族長リュウガの訪れを待った。


 流石にどんなに早くても数時間はかかる。


 タウロ一行は、その間、1階層に待機する補給組の竜人族達に涙ながらに感謝されていた。


「リーダーの竜人族への貢献度はかなり凄いみたいだな」


 アンクが、竜人族達の喜び様に改めて驚きながらタウロに呟いた。


「何度も言うが、タウロが『空間転移』で攻略組をいきなり最深部に運ぶ事が出来た事が一番大きかったのだ。それまでは帰り道も考えて1階層からの行軍だったから200階層までの道のりにも数百年の年月を有した。それが、いきなり最深部を、帰りを気にする事無く全力を持って1階層1階層に挑めたから、この短期間であの最下層まで辿り着く事が出来たのだ。竜人族は先祖代々ダンジョン攻略に命を懸けてきたからな。タウロの存在は今や竜人族にとって生ける伝説になったと言っていいぞ!」


 ラグーネが、タウロとアンクにその偉業について力説するのであった。


「ラグーネの言う事が大袈裟に聞こえるかもしれませんが、本当にそうなのです、タウロ殿。きっと、族長も同じ様な事を言うと思いますよ」


 護衛隊長のツグムが大袈裟なラグーネを擁護する様に言うのであった。


 そこに、族長リュウガが部下も連れずに『休憩室』に飛び込んできた。


 報告からまだ、時間があまり経っておらず、荒い息を吐いているところを見ると、部下を置いてけぼりにする程の速度で1人やってきたのだろう。


「はぁはぁ……。タウロ殿……!あなたは我々竜人族にとって生ける伝説になりました!」


 族長リュウガは息も絶え絶えにラグーネが言った事をどこかで聞いていたかの様にそう告げるのであった。


「……ははは。伝説はいいので、早速、族長を『迷宮核』までご案内しますね」


 タウロは、族長リュウガの言葉に苦笑いすると、そう伝える。


「……『迷宮核』に!?」


 族長リュウガは驚きを見せる。


「はい。攻略組のみなさんも、族長が来るのを待っています。竜人族の代表としてダンジョン攻略に終止符を打って下さい」


 タウロはそう言って族長の手を握り円陣を組むと、再び最下層である265階層に『空間転移』するのであった。

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