第318話 王都での活動

 『黒金の翼』の4人の胸中にはいろんな思いが交錯する中、残りの3か月を過ごす事になった。


 タウロ達の活動拠点は基本的に竜人族の村であったが、最近では王都の冒険者ギルド本部にも出入りして、顔を売る事を忘れない。


 『黒金の翼』は、エアリスのお陰で王都でも腕利きの若いチームとして認知されてきていたのだが、そこにタウロはいなかったので、リーダーとしての認知度を上げる必要があった。


 何しろDランク帯冒険者は、上位冒険者のサポート役をする仕事も多くなる。


 例えば、Bランク帯チームの大規模討伐クエストなどにも荷物持ちや戦闘での支援、治療の補助などで参加する事も多くなるのだ。


 危険が伴う為、このクラスのサポートはDランク帯以上からと決まっている。


 まあ、やる事はほぼ雑用なのだが、高ランククエストだからただの雑用でも命を失う危険度は高い。


 なので、上位冒険者にしても同じDランクでも信頼が持てるチームに任せたいのが普通だった。


 『黒金の翼』は、エアリスが信頼を得る為に色々と活動し、短期間で実績を積んで信用を得ていたので、指名する冒険者チームは沢山いるくらいだったのだが、そのチームのリーダーがエアリスからまだ13歳の少年に代わったのだ。


 もちろん、元々のリーダーが復帰しただけなのだが、王都の冒険者達はそんな事を知る由もない。


 なのでお願いする方も、少し躊躇ってもおかしくはなかった。


 だからこそ、その心配を払拭する為に王都での活動も必要であった。


 月に数度王都の冒険者ギルドに現れるDランクチーム『黒金の翼』の活躍は、その心配を易々と拭い去った。


 あるクエストでは、Bランク帯チームの荷物持ちとして深い洞窟の魔物掃討戦に参加したが、『黒金の翼』は控えめに言ってもそのBランク帯チームよりも活躍していた。


 一応、危険性から『黒金の翼』は後方からの支援と限定されていたのだが、魔改造された装備に身を包む『黒金の翼』である。


 タウロの弓矢による援護は、支援と言うより主力による攻撃と言ってよく、仲間に対しての指示、立ち回りも同じ場数を踏んでいるBランク帯チームと遜色が無いほどの動きを見せていた。


 それでいて、Bランク帯チームの面目を保つ為に、止めはしっかり譲るという気遣いである。


 そういう事で、あっという間に『黒金の翼』のリーダー変更の心配は払拭され、それどころか頼りがいのあるチームとして上位の冒険者チームからの指名も以前以上に増えるのであった。


 王都での活動こそ少なかったが、13歳の少年をリーダーとしたチーム『黒金の翼』は、他の冒険者達に強いインパクトを与え、将来を有望視されるまでに至るのであった。



 クエスト完了の報告をしてタウロ達一行は、冒険者ギルド王都本部から表に出て来た。


「うーん……。何だか未だにギャップに困るよね」


 タウロが珍しく何らかの不安を漏らした。


「どういう事?」


 エアリスが、意味が分からず聞き返した。


「ほら、普段は竜人族の村支部でクエストやってるでしょ?あっちでは文字通り僕達はひよっこなんだけど、こちらに来たら期待の若手チームとか、新星とか言われる様になったから」


「ははは!その気持ち私もわかるぞ。私も村では未熟者扱いだからな。こちらではさっきの話といい、期待されてやりがいがあるというものだ!」


 ラグーネは、ギルドを出てくる前に、実はスカウトされた事もあり、上機嫌であった。


 スカウトとは、チームへの引き抜きの事だ。


 冒険者の中では攻撃力が正義という風潮がある中で、盾役のラグーネは珍しくて注目されやすかった。


 『黒金の翼』の活躍で上位チームも盾役の重要性を感じて認識を改めるところもあり、そんなチームが「うちに来ないか?」と、冗談交じりにラグーネを誘ったのだ。


 もちろん、ラグーネは即答で断るわけだが、良い気分にならないわけがない。


「やりがいはともかく、ラグーネは、リーダーが戻ってくる前にもよく誘われているからな。それが評価されてるみたいで嬉しいんだろ?俺の様な攻撃専門の前衛は沢山いるが、盾役となるとマイナー過ぎてそのスキルを磨いている奴はそういない。今から育てるくらいなら引き抜いた方が早いという話だな」


「失礼しちゃうわよね。仲間がいる前で冗談でも引き抜きしようとするなんて」


 エアリスが思い出したのか、頬を膨らませて怒る素振りを見せる。


「まあまあ、それだけラグーネの評価が高いと仲間としても鼻が高いじゃない。それにエアリスも声を掛けられてたでしょ?」


 タウロはエアリスを宥める為に本人の話に切り替え様とした。


「私の事はどうでもいいのよ。それよりタウロの評価が上がってるのが私は鼻が高いわ。リーダーだから表立った引き抜きの話は無いけど、みんな『黒金の翼』の今後が楽しみだって言ってくれてるじゃない」


 エアリスは、さっきの怒りはどこへやら、満面の笑みになる。


「やっぱりどうしても竜人族の村の方とで比べたら、素直に喜べないなぁ」


 タウロは、どうしてもあちらを基準にしてしまい、こちらでの自分の評価については、あまり当てにできないと思ってしまうのであった。

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