第317話 続・それぞれの……
エアリスは、王宮にいた。
今日は、タウロにお願いしてクエストを早めに終わらせて貰い、訪れていたのだ。
最近はよく、父ヴァンダイン侯爵に伴われ、色んな所を訪ねて挨拶周りをしている。
エアリスはもうすぐ16歳になり、成人を迎える。
なので、少しでも周囲の貴族に良い印象を与えておき、成人を迎える時には人を集めて盛大に祝いたいところなのだ。
上級貴族の娘としては、本来なら婚約者の1人もいておかしくないところではあったが、ヴァンダイン侯爵家のお家騒動は貴族界の中ではすでに周知の事実であったから、エアリスにまだ相手がいない事は違和感なく受け入れられていた。
だからと言ってそのまま放置しておいても良い事ではない。
それに、エアリスの後見人には現在、もっとも国王に寵愛されている妃が付いている。
これは、もちろん、ハーフエルフであるフルーエ第五王子の母親だ。
そんな立派な後見人が付いているのだから、婚約者とはいかないまでも、エアリスを見初めて求愛する殿方の噂のひとつもあっていいところではある。
そんな中、この日はその後見人である王妃の招待で王宮を訪れ、ごく身内の晩餐会が行われていた。
エアリスは、後見人でもある王妃にとても気に入られているのが不思議であった。
元々、タウロの友人であるフルーエ第五王子の紹介で会えたのだが、聞かれた事に貴族らしい回りくどい言い方をせずに素直に答えていたのが逆に良い印象を与えたようだ。
今も、その事を忘れず、王妃殿下には、直言を持って応対していた。
「ほほほ。エアリスさんははっきりと言ってくれるから、嬉しいわ」
「恐れ入ります王妃殿下。うちの娘は私がいない間、ずっと冒険者をしていましたから、貴族としての振る舞いを忘れがちで困ります、ははは!」
ヴァンダイン侯爵は、さほど困った風でもなく、娘の事を自慢している様にしか見えない。
「パパ!王妃殿下が許可してくれてるから私はこんな風に話しているだけよ?」
エアリスも分は弁えているとばかりに答える。
「母上、エアリス嬢は、我が友タウロの冒険者仲間ですからね。時折来るタウロからの手紙でエアリス嬢の活躍を知っていますが、とても勇ましい女性ですよ」
フルーエ王子が、タウロと同じく、友人だと宣言しているエアリスを誇った。
「タウロのおかげで私もかなり成長できました。これからはヴァンダイン侯爵家の者として王家を支えていくつもりでいます」
エアリスは、殿下が褒めてくれたので、忠誠を誓う素振りを見せる。
「まあまあ、エアリスさん。今日はそういうお固い話しはいいのよ?ふふふ。そうだわ、フルーエ」
「何ですか、母上?」
「エアリスさんと婚約する気はない?私はエアリスさんがあなたの花嫁になってくれたら嬉しいのだけど」
「「ええ!?」」
フルーエ王子とエアリスは、突然の王妃による突拍子もない提案にただただ驚くのであった。
竜人族の村、兄妹邸──
ラグーネは今後の事について、アンクが不安を漏らしていた時、励ましたものだったが、実のところラグーネ本人も全く心配していないわけではなかった。
特にエアリスの脱退宣言は寂しいものがあった。
人族で初めての女性の友人であったし、一緒に冒険者として毎日を過ごした仲間でもある。
そんなエアリスの決断は一見、急な様にも思えたが、時折エアリスが塞ぎ込んでいる様子にはラグーネも気付いていた。
だが、自分にはそんなエアリスに何と声を掛けていいかわからなかったのだ。
自分が人間関係において、不器用である事は自覚していたし、察するのも下手であった。
だからエアリスが塞ぎ込んでいても何も出来ないので場を明るくする事しか出来ずにいた。
そんな中、アンクが自分にふと今後について漏らした。
そこでやっとエアリスが塞ぎ込む理由がわかった気がした。
自分もこのままずっとみんなで冒険者としてやっていけるとは思っていない。
だが、アンクに言われるまでは、それは遠い未来の事でどこか現実味を帯びていなかったのだ。
だが、そんな大事な事を相談して貰えなかった事を思うと、やはり……。
「兄上。私はやはり頼りないだろうか?」
ラグーネは自宅の居間でタウロが自室に籠もっているであろう扉を眺めながら、部屋から出て来た兄に声を掛けた。
「急になんだ?──そうだな、まだ、竜人族の戦士としては未熟だろうな。それはお前自身もわかっている事だろう?」
「くっ、殺せ……。──そ、それはそうなのだが、少しは褒めてくれても良いではないか!」
ラグーネは拗ねて口を尖らせて文句を言う。
「タウロ殿や、エアリス殿、アンク殿には頼られているのだろう?先日もタウロ殿はお前の事を褒めていたぞ。また、立ち回りが上手になっていて、チーム一の才能の持ち主だとな」
「そ、そうか!タウロが褒めてくれていたか……!そう言えばアンクにも先日褒められたのだった。いや、エアリスにも褒められたな……。ふふふ、なんだ……、私は頼られているのではないか?」
ラグーネは満更でもないという照れ笑いを浮かべた。
「……妹よ。自分で不安を口にしておいて、自分でみんなから頼られていると照れていたら流石に気持ちが悪いぞ……。兄としては、そんな痛々しい妹は見たくないな……」
兄ドラゴに真面目なツッコミを入れられるラグーネであったが、先程までの悩みはどこへやら、いつも通り、前向きに捉えて悩みを吹き飛ばすのであった。
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