第316話 それぞれの……

 タウロは、日々、竜人族の村で魔法陣研究も進めていた。


 色々と可能性を模索する中で、特に竜人族独自の村を覆う結界魔法を魔法陣に落とし込めないかと考えていた。


 竜人族の村を覆う結界魔法は、英雄級の大聖結界師が定期的に重ね掛けして維持している。


 タウロはこれを魔法陣と魔石の力でもって維持できないかと研究しているのだ。


 魔石の能力を引き出す魔法陣を見つけただけでもタウロはかなり凄いのだが、これだと魔石の本来の能力を引き出すだけで、他の事には利用できない。


 逆に、魔道具ランタンや、冷蔵庫、クーラー、暖房器具などに用いている魔法陣は、本来の能力を引き出すのではなく、前世での電池の様な役割を魔石に持たせるもので、簡単な術式の物にしか使えず、火力が必要なコンロなど、高威力を意識した物には使えない欠点があった。


 ならば、二つを合わせた魔法陣を作れば理想的なものが出来るのではないかと思うのだが、そう簡単な話ではない。


 二つを足すやり方だと、魔法陣が発動しないのだ。


 つまり、二つの能力を発揮させるには、それ用の新たなオリジナルの魔法陣を考え出すしかないのだ。


 こういう時、横でエアリスが口を出してきて、思いもかけない事を言ってくれたりするのだが、最近は分別を弁えたというか王都の方でも忙しく活動している様子で、タウロについてくる事も無くなっていた。


 日中は竜人族の村で一緒に『黒金の翼』としてクエストをこなしているが、それも終わるとさっさと王都に戻っている。


 やはり、3か月後に『黒金の翼』を脱退するというのは本気のようだ。


 エアリスももうすぐ成人を迎えて、ヴァンダイン侯爵令嬢として社交界デビューする事になる。


 なのでその侯爵家の為に、生まれてくる弟妹の為に、出来る事をやり始めているのだ。


 寂しい事ではあるが、タウロも引き留める事は出来ない。


 自分もグラウニュート伯爵家の養子として、これから自由に冒険者として動き回れる機会も減っていくだろう。


 誰にも分岐点があり、エアリスにもその時が来たのだ。


 自分はそのエアリスの決断を支持し、応援して自分も己の道を進んで行くしかないのだと作業の手を止め、思いに耽るのであった。




 夜の王都──


 アンクは、グラウニュート伯爵邸を訪れると、応接室に通されていた。


「じゃあ、一旦契約は終了という事でいいんですよね?」


 アンクは依頼主であるグラウニュート伯爵に確認を取る。


「そうだね。タウロ君がうちの養子になるまでの間、護衛や報告をして貰うのが私と君との契約だったからね、お疲れ様アンク。エアリス嬢の護衛の方はまだ、続いているのかい?」


 グラウニュート伯爵は、目の前の頼もしい元傭兵の契約内容を確認した。


「ええ。ヴァンダイン侯爵との契約は、『冒険者エアリスの護衛』ですからね、あと3か月は彼女の護衛は続けますよ」


「その後はどうするんだいアンク?」


 グラウニュート伯爵は、アンクとはただの雇用主と雇われ冒険者ではない様だ。


「伯爵との契約が終わっても、リーダーとは一緒に冒険者を続けるつもりでいますよ。流石にもう、傭兵に戻る選択肢はないんで。冒険者の方が楽しいんですよ。今の仲間も年齢こそ離れちゃいるが、信頼関係は築けてると思ってるんで」


「そうかい。──確かに、今のアンクは傭兵時代より、生き生きしてるよ。笑顔も増えたな。うちで雇っていた頃は、そんなに楽しくなかったかい?ははは。」


 どうやら、雇用関係としては長い付き合いのようだ。


「茶化さないで下さいよ、ははは。──傭兵時代は、戦場を巡り、人殺しに精を出してましたからね。俺が言うのもなんですが、ありゃ、長い事続けるもんじゃないですよ。まあ、伯爵の元ではかなり良い思いはさせて貰ったとは思いますが。今はそれが魔物に変わっただけではありますが、冒険者の方が気楽で楽しいですよ」


「では、今後もうちの息子をよろしく頼むよ。一緒に戦場を駆った戦友として頼りにしている」


 グラウニュート伯爵は、雇用主であり、戦友の笑顔に笑みを漏らすとお願いする。


「うちのリーダーはそれを必要としない程頼りがいがありますが、確かに無茶はするんでそこは注意しときますよ。でも、いいんですかい?グラウニュート伯爵家としては、跡継ぎを危険に晒している様なものですが」


「タウロ君の好きにさせて上げたいんだ。それがうちに子供がいたらやらせたい事だったからね。妻もその想いでいるから今後もこうやって報告してくれないかい?そうだ、新たに契約を結ぼう。息子の今後の護衛と報告を兼ねて」


 グラウニュート伯爵は、そう思い付くと使用人を呼んで契約の準備をさせようとした。


「それは契約するまでもないですよ。『黒金』のメンバーとして、仲間として守るつもりですし、そして伯爵との誼で、報告はさせて貰いますよ」


 アンクは笑うと、自分で言っていて少し恥ずかしくなったのか、こめかみの傷をポリポリと掻くのであった。

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