第315話 冒険者の増加
大事な話し合いが思ったより簡単に終わり、いつもの通りダンジョン攻略のお手伝いクエストをこなした一同は、ラグーネの兄妹邸に戻った。
エアリスとアンクをヴァンダイン侯爵邸に送り届け、ラグーネは自室に、タウロも一室に入るとベッドに座り、落ち着いた。
タウロはここでやっと、日中に話し合われた内容について振り返る事が出来た。
「……僕はこれからどうしていけばいいんだろう」
タウロはひとりつぶやく。
するとベルトに擬態していたスライムエンペラーのぺらが、擬態を解いてタウロの肩に乗って来た。
「……心配してくれているのかいぺら?ありがとう」
ぺらがタウロに身を寄せてすりすりしてくる、気持ちを察してくれてのその行為に感謝する。
「僕も、グラウニュート伯爵家に養子入りしたからには、その日がくるんだろうな……、まだ3年近くあるからよく考えていなかったよ」
ぺらに話しかけながらタウロも頭の中を整理する。
「エアリスがあそこまで、色々と考えてたなんて驚きだったけど、侯爵令嬢は伊達じゃないね……。僕も貴族の養子としてその辺を考えないと駄目だ……。もちろん、順序的にはダンジョン攻略の手助けが第一だけど、それが達成される日もいつかは来るだろうからね、今後の身の振り方も考えるよ」
ぺらにそう報告すると、ベッドの上でウトウトするタウロであった。
それからは、エアリスの脱退や、今後について触れられる事もなく、冒険の日々が続いた。
竜人族の村支部での『黒金の翼』の活動は、少しずつ竜人族の目にも触れ始め、徐々にではあるが、タウロ達Dランク冒険者が出来るクエストの依頼が増えて来た。
それと同時に、サラーンのソロ冒険者としてひた向きに取り組む姿に、竜人族中からも、冒険者という職業に興味を持つ者が現れ始めた。
冒険者ギルドの効率の悪いシステムに、首を傾げる者もいたが、普段、やっている作業が、仕事として成立する仕組みである事を理解すると、
「つまり冒険者とは便利屋の事だな!」
と、解釈するのが大半だった。
強い彼らにとって、冒険者ギルドのランク付けされたクエストはほとんどが簡単に見えたのだ。
だから、ちょっとした作業を何でもやる便利屋という扱いに冒険者ギルドは認知されたのであった。
なので、近所付き合いで魔物の討伐をしたお礼に、畑で取れた物を貰ったりしていた者達が、冒険者は報酬としてお金が貰えるという事で、それなら小遣い稼ぎに登録しておこうという事になった。
おかげで、冒険者ギルド内は開設以来の人だかりが出来る様になったのである。
「見事に増えて来たね竜人族の冒険者」
と、タウロが感慨深そうに感想を漏らす。
始めて来た頃はタウロ一人しかおらず、クエストも「0」で絶望したのだ。
あの時を想像すると、それは感慨深くもなるだろう。
「そうね。でも一応、今は私達が先輩冒険者だから、模範にならないとね」
エアリスが、鼻息荒く気合いを入れた。
「エアリス、多分ここに居る連中の実力は、冒険者レベルで言ったらBからSランク帯だから気合い入れるだけ無駄だと思うぞ?」
アンクがエアリスに軽くツッコミを入れる。
「でも、みんな冒険者になったばかりだから、GからEランクがせいぜいでしょ?私達、Dランクだからこの冒険者ギルド一番の冒険者よ」
「そうだな!私も竜人族の出世頭として胸を張らないと駄目だな!」
ラグーネもエアリスの言葉に同調し、ランクだけで先輩風を吹かそうとする。
「2人とも、冒険者ギルドが実力の世界だって知ってるでしょ、すぐに追い越されるから止めなって……」
タウロが止めるのも虚しく2人は、他の新人冒険者(最強レベル)達に指導して回るのであった。
そして、数時間後──
竜人族の村、郊外の森。
新人冒険者達を付き従えて『黒金の翼』は、自分達のクエスト『オーク肉の回収クエスト』を兼ねてやって来ていた。
そこに、派手な爆発音が森に鳴り響く。
竜人族の新人冒険者によって、タウロ達『黒金の翼』のDランク討伐対象であるオークの群れを吹き飛ばした音であった。
「……竜人族ってこんなに凄いの?」
ラグーネや、加減を知っていた『黒金の翼』の一時的な加入メンバーであるマラク達3人とは違う、加減を知らない竜人族を前にエアリスは度肝を抜かれていた。
「……うん。久し振りに私も先輩達の実力を目の当たりにしている……。くっ、殺せ!」
ラグーネも冒険者ギルドという人族レベルのぬるま湯に浸かっていた事を、眼前の事実に猛省するのであった。
「エアリス先輩どうしましたか?──あ、この吹き飛ばし方では、討伐証明ってやつができないんでしたね!加減を覚えます!」
新人冒険者である竜人族の人々(最強)は、先輩冒険者であるエアリスに素直に従うのであったが、エアリスは自分が指導できる立場ではない事を心の底から反省するのであった。
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