第314話 大事な話

 冒険者ギルド竜人族の村支部──


「ついに私達もDランクなのね……思ったより早かったわ」


 エアリスが感慨深げにそうつぶやく。


「わはは!支部長である俺がこう言っては何だが、『黒金の翼』は、そのタウロ殿が作ったという装備も含めて評価するとDランク程度では収まらないレベルにあると思うぞ?」


 冒険者ギルド竜人族の村支部長サラマンがそう評価した。


「支部長。冒険者ギルドの内部規定で若年者の昇格には注意を払う事になってますから、余計な事は言わなくていいんですよ」


 受付嬢のリュウコが支部長サラマンの発言を注意する。


「そうなのかリュウコ?」


 受付嬢リュウコの幼馴染であるラグーネが聞いた。


「若年者で実力のある冒険者は短期間で昇格すると、色々と問題が起きやすいらしいの。この支部は冒険者はサラーンさんと『黒金の翼』だけだからいいけど、人族の冒険者ギルドでは嫉妬や嫉み何かでトラブルになりやすいんですって。それに若いと無茶をしがちだからクエスト中での死亡率が高いの。上に上がれば上がるほど危険なクエストが多いからなおの事。だから、人族の冒険者としてはタウロ君とエアリスさんという未成年が二人もいるチームでDランクは異例だと思うわ」


「私はもうすぐ、成人を迎えるわよ」


 エアリスは最近大きくなって来ている胸を張って見せた。


「3か月後だっけ?」


 タウロが何気なく聞いた。


「そうよ。──そうだ、丁度いいからここで話しておくわね。私、3か月後にはヴァンダイン侯爵家に戻る事にする」


「「「?」」」


「戻るって、よく一緒に戻ってるじゃん」


 タウロが言っている意味がよく分からずみんなを代表して答える。


「そうじゃなくて、冒険者を辞めて家に戻るって言ったの」


「「「え?」」」


 エアリス以外の『黒金の翼』メンバーは全員固まった。


「ちょ、ちょっとエアリス!急にどうしたのさ?冒険者を辞めるってどういう事?」


 いつも冷静なタウロもこれには動揺した。


「3か月前からずっと考えていたのだけど……、私も成人したら侯爵家の娘としての義務が発生するのはわかるでしょ?それにパパとメイ、メイは私の新しい義理の母になったわけだけど……、私にも二人の間に出来た子供の姉になるから、子供が生まれるのも近づく3か月後には、パパとメイを支えて上げたいと思ったの」


「……ついにこの時がきたかー!こうなるとは思っていたんだがな。割と早かったな」


 アンクが、苦笑いを浮かべると肩を竦めた。


「あ、でも、私が抜けたからといってアンクもラグーネには関係ないからね?これまで通りタウロを助けて上げてね」


 エアリスがアンクの言葉にフォローを入れた。


「だがいいのかエアリス?君が一番『黒金の翼』に対して思い入れが強いと思っていたんだが」


 ラグーネがエアリスの心情を察して疑問を口にした。


「そうね。タウロとチームを結成して今のメンバーに巡り合えて一緒に頑張ってきたから思い入れが無いと言ったら嘘になるけど……。でも、私も考えた上での決断だから。──でもまだ、三か月後の話だからその間に新しいメンバーを探……、あ、この冒険者ギルドでは無理か。──王都のギルドで探す事も出来るんじゃないかしら?」


 エアリスはいたって冷静に話を進める。


 タウロはどう答えていいかわからず、無言であった。


「リーダーもグラウニュート伯爵家に入ったからな。丁度いい機会じゃないか?今、ここで、今後の事について話し合うのも」


 アンクも、エアリスの提案に話し合う姿勢を見せる。


「そうだな、今、話してもいいかもな。──私はタウロに恩もあるし、タウロが続ける間は付き従うつもりでいるぞ。その後はアンクと二人で続けられところまでやろうという話はしているし」


 ラグーネも別れた後までの話をしてきた。


 いよいよタウロは、困惑する。


 まさかみんながもう、解散した後についてまで考えていたとは思っていなかったのだ。


 確かにいつかはそんな日も訪れるだろう、でも、すぐではないとどこか他人事の様に思っていたのだ。


 それが、エアリスの言葉を皮切りにみんなの口から次々と驚く言葉が飛び出してくる。


「……エアリスの決断は尊重しないといけないね。とても、残念だし、急だったからとても驚いていて考えが整理できていないけど……。──僕は竜人族のダンジョン攻略に協力しながら冒険者を続けるつもりでいるよ。だからこれからもラグーネとアンクには、一緒に冒険者として、仲間として、友人として、冒険したいと思ってる」


「もちろんだ。俺も冒険者になってまだまだだからな。リーダーの下でこれからも色々と勉強させて貰うぜ。ははは!」


 アンクは、タウロについて行く事を約束した。


「私も、タウロと共にあるぞ。もちろん、エアリスとは仲間だし、友人だから、これからもヴァンダイン侯爵家には遊びに行くぞ?」


「もちろん、みんな大歓迎よ。それにタウロがやっぱり心配だからうちに顔を出して貰わないと困るわ。ふふふ」


 エアリスは気持ちの整理がついているのかあっけらかんとした反応を示した。


 どうやら、考えが整理出来てないのは自分だけのようだ。


 エアリスの三か月後の脱退宣言にうまく考えがまとまらないまま話し合いを終え、いつもの様にダンジョンへとみんなで足を運ぶのであった。

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