第311話 黒金の翼の今後
114階層での死闘から戻ったタウロはやる事が沢山であった。
まずは竜人族の悲願、ダンジョン攻略のお手伝い。
竜人族の技術を転用した魔法陣の研究。
そして、冒険者として竜人族の村を拠点に『黒金の翼』の仲間との活動である。
さらに、王都にも用事はある。
ヴァンダイン侯爵に改めて感謝の挨拶する事はもちろん、今回のサイーシ子爵の弾劾の為に宰相派の切り札になりうる証拠を出してタウロの危機を救ってくれたダレーダー伯爵とその宰相派閥の関係者と会食したりと大忙しであった。
そして何より、一番大事なのは、養子縁組を承諾してくれたグラウニュート伯爵家との今後についての打ち合わせであった。
元々、グラウニュート伯爵はタウロが今後も冒険者として旅をする事を快く承諾してくれているが、養子とはいえ、やはり嫡男である。
いつまでも、というわけにはいかない。
この事を指摘したのは他でもないエアリスであった。
「タウロもいつまでも子供ではいられないんだから、今回を機に先の事を考えた方がいいと思うの」
エアリスが言うと説得力が無いと思うタウロであったが、どうやらエアリスはエアリスで何やらここの所考え込んでいた様子ではあった。
どういう心境の変化だろうと思い、タウロは聞いてみた。
「タウロと離れてみて、色々考えたわ。あと、今回のダンジョンでの戦いもそう。改めて命をいつ失ってもおかしくないのが冒険者である事を再確認した思いがしたの。それに私ももうすぐ16歳、成人するのだもの。貴族としての責務もあるし、何より私のメイドだったメイが、身重で今、ヴァンダイン侯爵領に戻ってるみたいなの。パパはまだ何も言わないけど、恋人をわざわざ王都から領地に帰らせるなんてそれ以外考えられないでしょ?」
「それは、おめでとう!」
おめでたい事にタウロは祝福する。
「ありがとう。──つまり、私にも弟か妹が出来ると思うの。そんな中、私だけやりたい事をしてるわけにはいかないでしょ?」
「……そうだね」
エアリスがちゃんと考えている事にタウロは感心し、子の成長を感じる親の気持ちになるのであった。
「だから、タウロも養子とはいえ、グラウニュート伯爵家の嫡男になった以上、その責務を果たさなければいけない時が来るわ。平民だった今までと違い、タウロの自由は限られる事になると思うけど、それにも慣れて行かなければいけないし、冒険者として過ごす期間も限られてくると思う」
「……うん」
タウロは自分の事も考えてくれているのだ、と感謝の気持ちに頷いた。
「だから義理とはいえ親になってくれたグラウニュート伯爵夫妻とちゃんと今後の事についてじっくりと話し合って上げて。夫妻はとても良い人達だからタウロの言う事にも快く耳を傾けてくれると思う。ただ、それに甘え過ぎず、貴族の責務も果たせる判断をして欲しい」
こうしてタウロは、改めてグラウニュート伯爵とその夫人の三者で会うと、今後の事について何度も話し合うのであった。
その間、ラグーネとアンクは今後の身の振り方について、ヴァンダイン侯爵家の屋敷内で考えていた。
「ラグーネはどうするんだ?エアリスの言い方だと、エアリスは成人したら冒険者辞めるみたいだし、リーダーも区切りをつけたら冒険者を辞めるかもしれない。いよいよ、その時が来たのかもな……」
アンクがため息交じりにラグーネにこぼした。
「私は、元々タウロに恩を受けて仲間になったが、エアリスやアンクとも今後も友人である事に変わりはないぞ?エアリスが侯爵家に戻ったとしても、関係性は壊れないと信じている。それにタウロが言うには、竜人族の村の事もあるから、すぐに冒険者を辞めるというわけでもないし、私はそれに付いて行くぞ。アンクはどうするのだ?」
ラグーネの考えは単純だが明快だった。
「俺か?……リーダーがグラウニュート伯爵家と養子縁組が決まった時点で、契約が切れたから言うが……、俺はグラウニュート伯爵家と、ヴァンダイン侯爵家の両家からエアリス嬢とリーダーの守護と、定期的な報告を仰せつかっていたんだよ。それも今回の養子縁組でその仕事も終わっちまったからなぁ。エアリス嬢が侯爵家に戻り、リーダーが伯爵家に収まったら、どうしたもんかな。この大魔剣と鎧をリーダーに返して冒険者も引退かもしれないな」
「何を言うのだ!我々は仲間であり、友人なのだぞ!契約が切れたからなんだと言うのだ。それに、盟約を忘れて貰っては困るぞ?タウロが冒険者を続ける間は一緒に『黒金の翼』を続ければいいし、その後は私と冒険者を続ければいいではないか。友人を前にして悲しい事を言うな」
ラグーネの言葉にアンクは胸が熱くなる思いがした。
「まいったな……。年下のラグーネにまた、ここまで言われるとは思わなった。……そうだな、俺も出来るところまで現役を続けるか!……そういや、その『黒金の翼』の新メンバーの3人はどうしてるんだ?」
アンクは、サイーシ子爵の死で、タウロの命の危険性が無くなり、暗殺ギルドの件が宙に浮いている事を思い出すのであった。
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