第310話 続・暗黒大狼戦

 ツグム達護衛チームは、この慎重な戦い方をする魔物に苦戦を強いられていた。


 護衛対象であるタウロの仲間、エアリスの結界魔法により、後衛はその脅威となる暗黒の息から何とか身を守れている。


 だが前衛は攻撃を仕掛けようとすれば、結界から出なければならず、前に出ると火魔法で足止めを仕掛けられ、一瞬止まったところに例の暗黒の息で状態異常にさせられる。


 これに前衛はかなり体力を削られた。


 後衛がすぐに回復してくれるから、まだ、良いがこのままではじり貧だ。


 敵は、持久戦に慣れている戦い方だ、かなり頭がいい魔物であるのは確かであった。


 あの暗黒の息が一時の間、止める事が出来れば、こちらも全力で動いて打撃を与える攻撃が繰り出せるものを……!


 ツグム達前衛が歯噛みしてるところにタウロが前線に現れた。


 ツグムは慌てる。


「タウロ殿!後ろに下がって下さい!」


 ツグムは当然、護衛対象であるタウロを前線に立たせるつもりはない。


「ツグムさん。あの暗黒の息を止める事が出来たら、反撃できますか?」


 タウロがツグムの制止の言葉を無視し、問うた。


「え?ええ!あの攻撃さえなければ、その前の火魔法攻撃のダメージを無視して、踏み込んで攻撃します」


 中位魔法の直撃を喰らっても踏み込むつもりでいる事が驚異的であったが、タウロもこの際、そこにツッコミは入れない。


「ぶっつけ本番ですみませんが、もしかしたらあの攻撃を僕の能力で一時的に無効化できるかもしれないので、次のタイミングで仕掛けます」


 タウロは、暗黒大狼を凝視したままツグムに伝える。


「……了解しました。──みんな、行くぞ!」


 後衛による前衛の状態異常を回復し終わると、前衛は攻撃の為に前に出た。


 するとそのタイミングに合わせる様に暗黒大狼は中位の火魔法を唱えて前衛3人にぶつけてくる。


 3人は通常なら、一瞬防ぐ動作を取るのだが、タウロを信じてそのまま突っ込む。


「『スキル殺し(弱)』、対象は『暗黒の息』!」


 タウロがそう叫んで能力を発動した次の瞬間に暗黒大狼は突っ込んで来るツグム達3人にパターン通り暗黒の息を吐きながら後方に飛ぶ。


 いや、何も吐かずに後方に飛んだ形だ。


 暗黒大狼は、自分の口から暗黒の息が出ない事に驚いている様子だった。


 そこに、ツグム達前衛は火に包まれながら斬りかかる。


「「「届けー!」」」


 ツグム達3人はそれらの手にする武器を暗黒大狼に振るった。


 ぎゃん!


 暗黒大狼はそう叫び声を上げるとツグム達の攻撃に体中に深手を負った。


 だがしかし、そこからまた後方に飛んで距離を取る。


「し、仕留め損なった!」


 ツグムが、歯噛みして追い討ちを仕掛けようと前に踏み込んだ瞬間であった。


 その脇を高速で影が通り過ぎ、距離を取った暗黒大狼に追いすがる。


 それは大戦斧を振りかざしたサラマンであった。


「止めだー!」


 サラマンが振りかざす大戦斧に深手を負った暗黒大狼の動きは遅かった。


 そして、反撃に咄嗟に選んだのは、暗黒の息だった。


 サラマンが大戦斧を暗黒大狼の頭に振り下ろすのと、その暗黒の息が噴き出すタイミングが同じで、サラマンはそれを浴びながら暗黒大狼の頭蓋骨を叩き割り息の根を止めるのであった。


その場に膝を付くサラマン。


「サラマンさんの状態異常の回復を!」


 ツグムが咄嗟に後衛に指示する。


 後衛はすぐそばまで駆け寄ると、サラマンの回復に当たった。


「……何とか倒せました。こいつは同じ暗黒大狼の中でもかなり強い部類だったと思います。……やはりそうだ。鑑定してみたら『異名持ち』です」


 そのツグムの言葉に、タウロは暗黒大狼の遺骸を鑑定してみた。


 暗黒大狼:『追跡者』『竜人族殺し』の異名持ち


 鑑定にはそう表示されていた。


 という事は、サラーンの仲間はこの魔物にすでに殺されているという事か……。


 タウロは、何とか勝てたものの、後味の悪いものになるのであった。


 それを察したのだろうツグムが、言葉を掛ける。


「我々竜人族のダンジョンでの『死』は、よくある事です。それを名誉とも思っています。なのでタウロ殿が心を痛める事はありませんよ。もちろん、その死を我々も悲しまないわけではありませんが、戦士として戦って死んだ事を、悲観し過ぎる事はありません」


 そう言ってタウロの肩をポンと叩くのであった。




 113階層の『休憩室』まで、意識の無いサラーンを運ぶと、そこでひとまず休む事にした。


 そこでサラマンの治療と大やけどを負ったツグム達前衛の治療もする事にしたのだ。


 そうして時間が過ぎるとサラーンが意識を取り戻した。


「……私、助かったのね。……うううっ……!」


 サラーンの第一声はそれだけだった。


 サラーンは仲間を失った悲しみか、自分だけ助かった事への罪悪感か、それとも生き残った事への安堵か、それともその全ての思いが交錯してか、サラーンはぼろぼろと涙を流すのであった。



「タウロ殿、ところであの『スキル殺し(弱)』とは?」


 ツグムが、地上に戻る途中、土壇場でタウロが使った能力について質問した。


「……ははは。成功して良かったです。最初のミノタウロス戦では失敗したので、心配でしたが……。どうやら、明確に相手の能力を把握して使用すると相手のスキルを一時的に封じる効果があるみたいです。でも、あの感じだと、ほんのちょっとの時間しか効果がないみたいです。今後もクールタイムの有無も含めて実験が必要ですね」


 タウロは、苦笑いして反省と分析を行った。


「もしかして、一か八かの賭けでした?」


 ツグムが、冷や汗を感じながら聞いた。


「え?でも、多分大丈夫かなという感触はありましたよ?」


「って、根拠は感触ですか!?勘弁して下さい……!」


 ツグムは自分達の命がかかっていた戦いがタウロの危うい賭け次第であった事に、ツッコミを入れるのであった。

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