第312話 子爵と暗殺ギルドの話

 サイーシ子爵の獄中での「自殺」から3か月が経過した。


 その後継問題について、ハラグーラ侯爵派閥は、サイーシ子爵の嫡男をすぐに据える事を猛烈に後押ししていた。


 もちろん、サイーシ子爵の罪は、現在グラウニュート伯爵家の養子嫡男暗殺未遂のみであるが、他の貴族暗殺疑惑があるのも事実であり、それを考えると領地の没収が相当であると宰相派閥からは出ていた。


 そこに、今回の中立派の重鎮ヴァンダイン侯爵と、タウロの養子先であるグラウニュート伯爵も領地没収を支持したので王宮では大いに揉めていた。


 ハラグーラ派閥の擁護意見は、


「疑惑は罪ではない。その疑惑自体がただの陰謀の可能性が大いにある。その陰謀の為にサイーシ子爵家の血を絶えさせてはならない」


 というものであった。


 それに対して宰相派閥、中立派の反対意見は、


「グラウニュート伯爵家の嫡男の暗殺未遂は契約書も残っている事実であり、その他の貴族の暗殺についてもまだ暗号を解析中ではあるが、契約書が残っている。それらが白日の下に晒された場合、一族郎党の処断もあり得るのに、後継問題が出てくる事自体が無意味である」


 というものだった。


 両陣営、自分達の主張を盾に一歩も引かない状況になっていた。


 このまま当分は、サイーシ子爵の領地問題は宙に浮いたままであろう。



 そして、それに伴う暗殺ギルドの問題が残っている。


 これは、国にとっても、貴族にとっても、本来、触れたくない暗部であったが、今回の件も含めてあまりにも暗殺ギルドの名前が表に出て来過ぎていた。


 歴史を紐解けば、王家も過去に利用していたと囁かれているし、貴族に関しては言わずもがなであったが、それは、裏で疑惑を持って語られる程度であった。


 だが、ヴァンダイン侯爵家の一人娘暗殺未遂から、宰相派閥の重鎮、ダレーダー伯爵の暗殺未遂、宰相派閥の貴族ら数人の暗殺疑惑、グラウニュート伯爵家の養子タウロの暗殺未遂と立て続けに問題が起こり、最早、暗躍レベルではない状況になった。


 それに宰相派閥は裏でこの暗殺ギルドの調査を行って来ていた。

 ハラグーラ派閥の裏の活動も含めてである。


 そして、そこへ被害者の1人であるグラウニュート伯爵家の養子である嫡男から情報提供がなされた。


 そう、タウロの事である。


 タウロを狙った暗殺ギルドについて、竜人族は情報収集を止めていなかった。


 何しろ、暗殺ギルドの秘術の一部が竜人族から漏れた可能性を示唆する物があったし、竜人族の命の恩人であるタウロが狙われていたからだ。


 今現在は、タウロは狙われていない様だが、ここまで来ると竜人族も暗殺ギルドに関しては潰す方向で動き始めている。


 すでに北から王都に向けて、情報収集をしながら南下中の調査隊が暗殺ギルドの支部や養成施設を発見、独自戦力だけで潰してある。


 その情報を、竜人族で足に自信がある者が早く南下して、王都に先に到着していた竜人族の3人、一時的に『黒金の翼』に入団している赤髪で高身長、リーダー役の美形マラク、金髪で身長が低い事から少年っぽく見えるズメイ、長い青髪のポニーテール、細身体型の美女リーヴァの元に持ち込み、そこからタウロの耳に入ったのだ。


 その情報を土産に今、タウロはダレーダー伯爵の王都の私邸を訪れていた。


「先日も食事をご一緒した際、軽くお話ししましたが、王国北部に存在した大規模な支部1つ、養成施設を1つ。僕の知人達が潰してくれたようです」


「……なんと!我が領地にあった支部を潰すのにも一苦労であったのに、この短期間で二つも潰すとはタウロ殿の知人とやらは、何者ですか!?」


 ダレーダー伯爵が驚くのも仕方がない。


 ダレーダー伯爵子飼いの精鋭とAランク冒険者チーム、領地のBランク冒険者達を総動員しても苦戦したのだ、タウロは簡単に2つ潰したと言うが、軍隊レベルで兵を動員しないといけないはずだ。


 だが、北部の宰相派閥の貴族からはそんな報告は届いていない。


 それどころか王家の耳にも入っていないであろう情報だ。


 にわかには信じられないものであったが、タウロからその支部と施設の”跡地”を詳しく情報提供してくれたので、その場所に人をやって事実確認をしなければならないだろう。


「僕の知人らは、あまり表に出たくないそうなので、それについては発言を控えます。ただ、腕の方は保証します」


 タウロも竜人族が動いてくれている事はそうそう言えたものではない。


「……そうですか。まあ、実際に暗殺ギルドに狙われたタウロ殿が嘘を吐くとも思えませんし、その情報を信じます。我々も独自に動いて調べているのですが、ハラグーラ派閥も警戒しているのでこちらもかなり慎重になっています。どうやらハラグーラ派閥は暗殺ギルドとはかなり深い関係性があるのではないかと睨んでいますが……」


「知人の情報では、暗殺ギルドの面々は具体的な情報を漏らそうとすると、契約系の自害魔法が発動するとかで、あまり情報を取る事が出来ないと聞いていますが、そんな中で引き出された情報によれば、王都にも大規模な拠点があり、それは何か所にも分散されているとか」


 タウロが竜人族から提供された情報を話すとダレーダー伯爵が驚く。


「タウロ殿!それは全て、その『知人』からのものですか!?」


「はい。知人達の情報は信用できると思いますので、宰相派閥の重鎮であるダレーダー伯爵には知らせておいた方が良いと判断しました」


「……我々が何年もかけて辿り着いた情報をこうもあっさりと……。確かに王都には大きな拠点があるという情報を我々も掴んでいます。ただし、全ての特定までには至っておりません。みつけてもすぐに察知され、煙の様に消えてしまうのです……」


 ダレーダー伯爵はため息交じりに伝える。


「それなんですが、その知人から数か所特定出来たと、先程、報告がありました」


「え?」


 ダレーダー伯爵は、自分達の苦労して入手した情報の上をいく情報提供に、愕然とするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る