第303話 友人とのひと時
サイーシ子爵は、どこからかいち早く逮捕の為に騎士団が自分の邸宅に向かっている事を知ると逃亡を謀っていた。
そして、逃亡の為に助けを求めて飛び込んだ屋敷が、派閥の長、ハラグーラ侯爵邸だった。
騎士団はすぐ、その事を察知し、屋敷を囲んだが、相手は貴族社会の首領といってもよい勢力を持つ人物の邸宅である。
突入するわけにもいかず、ハラグーラ侯爵邸に使者を送り、サイーシ子爵の引き渡しを要求するに留まった。
もちろん、ハラグーラ侯爵邸からは執事が対応に出て来たものの、その様な者はいない、それよりも無礼にも屋敷を包囲している騎士団をどうにかしろの一点張り。
騎士団は仕方なく包囲を解き、遠巻きにハラグーラ侯爵邸を眺める格好になっていた。
ちなみに、この間、タウロは王国騎士団本部から王宮に直行し、友人と久しぶりの再会を果たしていた。
「久しぶりだな我が友よ!」
フルーエ王子は、笑顔でタウロを歓迎した。
「殿下、お久し振りです」
タウロは、友人とはいえ、相手は遥かに上の身分である王子だ。
きちんとお辞儀をして、フルーエに挨拶する。
「いつもながらタウロは固いな、ははは!それで、今日はどうしたのだ?ただ、会いに来てくれたわけでもないのだろう?」
フルーエ王子は、タウロの性格を察して聞く。
「恐れ入ります殿下。今日は友人としてのご報告と、臣下としてご挨拶に参りました」
「臣下?」
フルーエ王子は首を傾げる。
タウロは自由気ままな冒険者である。
それがわかっているから、タウロの言う意味を捉えきれなかった。
「実は──、この度、ヴァンダイン侯爵家の仲介でグラウニュート伯爵家の養子に入った事をご報告に参りました」
「何?タウロは貴族になったのか?」
「はい、実はこれには理由がありまして──」
タウロは簡単に暗殺ギルドに命を狙われている事、その依頼主がサイーシ子爵であり、貴族に養子として入る事で事件化、追及する為に貴族になった事を報告した。
「何と……。そんな事になっていたのか!それにしてもサイーシ子爵め、一時の間大人しくなって、それこそそのまま息子に家督を譲って隠遁するのではないかと噂されていたが……。急に活発に動き出したと思ったらこれか!僕の友人の命を狙うとは不届きな奴!タウロ、なぜ、僕にその事を早く報告しなかったのだ!」
フルーエ王子は、矛先を友人に向けた。
「申し訳ありません殿下。どこで監視されているかもわからないので、順序を踏んでご報告に上がるしかありませんでした」
「まあ、養子縁組した日に報告してくれた事は嬉しいが……。──それでサイーシ子爵は逮捕されたのか?」
「今頃は、騎士団のみなさんがサイーシ子爵邸に踏み込んで逮捕してる頃かと……」
「……そうか。ならばよい。……なるほど、それで、報告と臣下としての挨拶か」
フルーエ王子は、話にやっと合点がいくと一人頷いた。
「はい、友人として挨拶しておかないとへそを曲げられると思いましたから」
タウロはやっとフルーエ王子相手に冗談を言って場を和ませようとした。
「ははは!言うなこいつ。友人としてその気持ちは嬉しく思う。──それにしてもタウロが貴族か。それもグラウニュート伯爵家の養子という事は跡継ぎ候補だな。あそこの当主は立派な男だ、悪い噂も聞かぬ。──貴族になったからには、これから色々大変だろうが、友人である僕を頼れよ、協力は惜しまないぞ」
「殿下、ありがとうございます」
タウロはフルーエ王子の好意にお辞儀をする。
「そうだ。タウロは今、いくつだ?」
「?……13歳です」
「13か……。学校はどうするのだ?貴族になったのなら、貴族としての振る舞いも習わなくてはいけないだろう?」
「いえ、その辺りは自由にしてよいと義父グラウニュート伯爵から許しは得ていますので、これまで通り冒険者として当分は旅をする予定です」
「そうなのか?グラウニュート伯爵は、中立派貴族の中でも変わり者と噂のある人物だが、そこまで寛容なのか。まあ、タウロは自由であった方が僕としても嬉しいが……」
フルーエ王子は目の前の友人から時折送られてくる冒険譚が記された手紙を楽しみにしていた。
自分が出来ない事を、友人が手紙に記して伝えてくれる事が、何よりも嬉しかった。
「お気遣いありがとうございます殿下。そうだ、ここだけの話、殿下も驚きそうな場所へ行ってきたのですよ」
タウロは、大事な友人が自分を気にかけてくれている事を嬉しく思いながら、まだ、手紙で報告していない冒険を伝える事にした。
「そうなのか?それは楽しみだ。直接、タウロから話を聞くのは久し振りだな。──そうだセバス、お茶を入れ直してくれ」
フルーエ王子は、久し振りにタウロの冒険譚を聞けるとあって、側に待機していた腹心にじっくり聞く準備をさせるのであった。
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