第300話 最終手続き前日

 冒険者ギルド竜人族の村支部長サラマンの娘であるサラーン組の送迎依頼をきっかけに、冒険者ギルドの掲示板には少しずつ、ギルドと族長以外の依頼主によるクエストが増えていきつつあった。


 と言っても、増えたのはダンジョンに潜る為の送迎ばかりであったが……。


「『空間転移』は今一番、この竜人族の村で求められている僕の個性だから仕方ないか。それに日々、複数のクエストをこなせるのも有り難いし……」


 そんな送迎の日々を送っていた、とある日の夕方、いつもの様にギルドに報告、帰宅するとそこにはラグーネが待っていた。


「待っていたぞ、タウロ。久し振りだな!」


 いつもの通り、ラグーネは元気いっぱいだ。


 そしてそれが、チーム『黒金の翼』の順調さを物語っている。


「どうしたの、ラグーネ?」


 何となくわかるが用件を聞く。


「タウロの養子縁組の件、書類上の手続きがほぼ完了してな。国の役人がタウロとグラウニュート伯爵へ面談をして最終的な意思確認をしたいそうだ。その後、最終確認のサインをして終わりだと言っていたぞ!」


「そっか。ついにその時が来たんだね。それでいつ頃かな?」


 タウロは日程を聞いた。


「明後日の午前中だ。時間は大丈夫か?」


「明後日かぁ……。サラマンさんに相談かな?」


「サラマンさん?ああ、サラーン先輩のところのお父上か!タウロはサラマンさんと仲良くなったのか?」


 ラグーネは顔見知りの様だ。


「うん、明後日はサラーンさんの組を迎えにダンジョンの110階層に行く予定だからね。日程をずらす事になるかもしれないから、サラマンさんにその事を相談しようかなと」


「そうか。サラーン先輩の組はもう、110階層まで潜っているのか……。流石、サラーン先輩だ!」


「サラーンさんを知っているの?」


「もちろんさ。昔子供の頃、私達兄妹はよく遊んで貰っていたからな。ダンジョンの浅い層で命懸けのタイムアタックをしてはよく大人に怒られていたよ。……くっ、殺せ」


 ラグーネは思い出を回顧する過程で何か起きたのかいつもの台詞が飛び出した。


「命懸けの段階で、子供の遊びじゃないけどね?」


 タウロも流石に今回は、声に出してツッコミを入れる。


「竜人族の子供の間で一度は流行る遊びなのだが、人族ではやらないのか!?」


 ラグーネは驚きを隠さない。


「ははは……。同じ事真似したら、僕はここに居ないからね?それにダンジョンも近所に無いから流行りようがないよ。僕達だと近くの森に遊びに行くくらいだから」


 タウロは苦笑いすると竜人族と人族との遊びの差を指摘するのであった。



 ラグーネは、ひとしきりタウロと話すと『次元回廊』で帰って行くのであった。




 翌日。


「なるほど、わかりました。それでは、俺が今日、タウロ殿に同行して110階層の『休憩室』で1晩過ごして娘達の組を明日まで待ち、迎えが遅れる事を伝えますよ。大丈夫だと思いますが、携帯食料も数日分持って行く事にしましょうかね」


 冒険者ギルドの支部長室でタウロの話を聞いたサラマンは理解を示してくれた。


「すみません、急な事で。なるべく早く戻りますが、翌日になるかもしれません」


「わはは!我々竜人族はダンジョンで数日からひと月の予定の狂いはよくあることですよ。まあ、うちの娘は時間に正確なので明日中には110階層の『休憩室』に戻って来るでしょうが、そこはダンジョン、何が起きるかわからないですが、俺が待っておくので大丈夫ですよ」


「そう言って貰えると助かります」


 タウロはお礼を言うと、サラマンの準備を手伝い、一緒にダンジョンに向かうのであった。



 110階層の『休憩室』にタウロとサラマン、そして護衛チームが到着すると、そこの出入り口に一枚の紙が貼ってあった。


『サラーン組、110階層、6日目に到着』


 と、書いてある。


「お?サラーンの奴、結構速いペースでここには来たみたいですな、わはは!」


 手紙を確認するとサラマン娘の組の順調さに安堵したのか笑って見せた。


「潜ってここに戻る事を計算すると115、6階層までは潜ってきそうですね」


 タウロが、簡単な予想してみた。


「そうですな。ですが、戻りは最短ルートでしょうから、もっと潜ってくるかもしれません。うちの娘はその辺しっかり計算する子ですから」


 娘の成長に目を細めてサラマンが答える。


 子煩悩なサラマンを微笑ましく思いながら、タウロは、


「それでは、明日、もしくは明後日に迎えに上がります」


 とサラマンに告げた。


「了解した。その時はお願いしますぞ」


 サラマンがそう答えるのを確認するとタウロは翌日の養子縁組面談の為に地上に戻るのであった。

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