第299話 支部長の娘

 タウロが通された部屋は支部長室であった。


 そこには支部長サラマンとそのサラマンが紹介してくれた娘のサラーン、その仲間の5人がいた。


 サラーンを入れて6人のチームで、サラーン以外の装備を見る限り、槍1、盾1、魔法使い1、弓1、治癒士1とバランスは良さそうだ。


 1人、サラーンだけは、装備が見当たらない。


 どうやら、マジック収納持ちで、普段は武器を見せないのかもしれない。

 だが、編成からすると前衛だろう。


「初めまして。あなたがタウロ殿ですね?私は父が紹介した様に娘のサラーンと言います。今日は依頼を受けてくれるみたいでありがとうございます」


 娘は父親のサラマンと同じ赤い長い髪に金の瞳、父親と比べると頭一つ身長は低いが、それでも高身長で均整の取れた、恵まれたアスリートの様な体格をしている。豪快なサラマンと違い、躾が良いのか礼儀正しく好感が持てた。


「いえ、こちらとしても、冒険者としてクエストが増えてくれるのは大歓迎ですのでありがたいです」


 タウロは笑顔で答える。


「父から聞いた程度なのでいまいち冒険者ギルドの仕組みがわかっていないが、依頼書はあれで良かったのでしょうか?」


 どうやら依頼書を出したのは彼女らしい。


「ええ、もちろんです。もし、間違えていたら受付嬢のリュウコさんが指摘してくれますから安心して下さい。──ところで、100階層に潜る予定とか?」


「はい。今回、100階層まで上から潜る予定にしていたのですが、父に86階層が『嵐』で大変な事を聞き、そして、タウロ殿にお願いしてその上から潜った方が効率が良いぞと言うもので……」


「わはは!娘達は攻略組やそのサポートメンバーにはまだなれない半人前でしてな。修行も兼ねて中階層のサポートを名乗り出たんですよ。ただ、中階層まで行くにも時間と労力、そして、食料なども沢山消費しますからな。効率を考えてタウロ殿に連れて行って貰った方が、中階層でじっくり修行できると勧めたんですよ」


 ははは……、修行なのか……。まあ、竜人族の感覚だとそうなのかな。


 タウロは納得すると、


「そういう事なら、お送りしますよ。僕も冒険者です。規定に則った内容で、それに見合う報酬さえ頂けたら文句はないので」


 と、頷いた。


「ほっ……。それは良かったです。これで、父に一歩、また、近づけそうです」


 サラーンの目標は父サラマンの様だ。


 仲間達もそれを知っているのか、そう言うサラーンを暖かい目で見守り、肩を叩くのであった。


「準備は大丈夫ですか?」


 タウロが確認を取る。


「ええ、もし、タウロ殿から了解を得られなくても、今日から潜る予定でしたので」


 サラーンがそう答えると、チームの仲間も一緒に頷く。


「わかりました。それではダンジョンに向かいましょう。」


 タウロは立ち上がると、サラーン達と一緒に冒険者ギルドを出る。


 サラマンが娘に、「頑張って来いよー!」と声をかけて送り出した。


「城門で護衛チームと合流後、ダンジョンの入り口でサポート組、補給組とも合流して潜りますので、その後100階層まで案内します。ちなみに迎えに行く日は何日後でどの階層を予定していますか?」


 タウロは城門に向かう道すがら予定を話し、質問した。


「ああ、言いそびれてました。迎えは今日から10日後でお願いします。10日の間に、どのくらい潜れるかはやってみないとわかりませんが、110階層までは流石に行けると思いますので、110階層の『休憩室』を合流地点にお願いします。その後、また、再度潜る予定でいますが、その時はまた、改めて依頼しますね」


 サラーンはここで初めて笑顔で答えた。


「わかりました。それでは、送り届けましたら、その10日後、110階層に迎えに上がります」


 タウロは約束すると護衛チームのツグム達と合流する。


「タウロ殿、今日もよろしくお願いします。ところで、後ろの連中は……、うん?これはサラマンさんのところの娘のサラーンとその組のメンバーか。タウロ殿と一緒とはどうしたのだ?」


 ツグムの疑問に、タウロが事情を説明すると、渋い顔をした。


「上から地道に潜るのも修行の一環なんですよ、タウロ殿。まあ、サラーンの組は実力を付けて来てますからズルをしようとしてるわけではない事はわかっていますが……。それにタウロ殿の能力は攻略組に集中して使って欲しいのが正直な感想です。ですが、冒険者として引き受けられたのならば仕方がないですね。我々もタウロ殿の護衛が任務、どこまでお付き合いします」


 ツグムは理解を示すと、頷いた。


 こうして、ダンジョン前に到着し、交代のサポート組、補給組とも合流して深層にまずは送り届ける。


 そして、タウロが戻るのを1階層の『休憩室』で待機していたサラーン達と合流して100階層まで『空間転移』で移動するのであった。


「……はぁ。こんなに一瞬で本当に目的の階層に行けるのですね……。──よし、みんな!目標だった100階層の『休憩室』からスタートできるチャンスを貰ったんだ。行けるところまでいくぞ!」


 サラーンがメンバーを鼓舞する。


「「「「「おー!」」」」」


 サラーンの組は、口々にタウロにお礼を言うと、


「また、10日後、よろしくお願いします!」


 と、告げて『休憩室』を出て、その脇の階段を下り、101階層へ向かうのであった。


「自分達の時代は、ここまで来るのもそれなりに大変でしたが、タウロ殿のおかげで時代は変わりましたね」


 ツグムがサラーン達を見送りながら、苦笑いする。


「ははは。101階層がそれなりなんですね。僕の今の実力で『空間転移』無しでは、必死に頑張っても来れる気がしませんよ」


 タウロは相変わらず竜人族の超人的な強さと基準に、違う意味で苦笑いするのであった。

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