第295話 考察と探索
ダンジョン86階層、通称『迷宮の中の迷宮』を進むタウロは、『気配察知』で捉えた人のシルエットを求めて先を進んでいた。
「この壁の向こうかな」
最短距離で向かおうと通路を進むと、気づいたら離れて行き、遠回りと思われる方角を進むと近づいて行くという前後左右だけでなく上り下り、更には行き止まりと思わせて簡易転移装置があり、そこを踏むと別の簡易転移装置のある場所に移動して先に進めるという、方向感覚がいかに優れていても惑わされる仕掛けがいくつもあった。
もちろん、罠も沢山あり、従魔のぺらが教えてくれなかったら危ない場面も沢山あった。
だが、罠の中には解除されているものもあり、どうやら先に通過した竜人族のみんなが解除した後の様であった。
「あ、また、『嵐』による感覚麻痺が来た」
タウロは何度目かの感覚麻痺を与える『嵐』に慣れた様に、自分に『魔力操作(極)』を行った状態異常回復魔法でその感覚麻痺を治療する。
「ふぅ。一定の時間経過ですぐまた状態異常になるのは大変だな……。魔力も結構使うし……。でも、気のせいか魔力量が結構増えた気がするんだよなぁ。『英雄の風格』を覚えた事で魔力も底上げされていたのかな?」
竜人族の大勇者の説明では『英雄の風格』は始めのうちに覚えるもので魅力増大、幻惑耐性、そして基本能力が多少上がるらしいが、それらは最初こそ助かるがあまり活躍する能力ではない様な言い方をしていた。
だが、タウロは考え方を改めた。
説明してくれた「大勇者にとっては」を、最初に付けて考えてみてはどうか?
正直、彼ら英雄レベルには、『英雄の風格』も子供騙し程度なのかもしれないが、基本能力がそもそも子供の自分にとっては、とんでもないものなのではないかと考えてみたのだ。
「ミノタウロス戦でも感じたけど、装備での基本能力アップ以外でもかなり上乗せがあった気がする……、俊敏も結構上がってるのは自覚できたし。もしかして、比較対象がダンジョンで初見の魔物や、人並み外れた竜人族ばかりだから成長を感じないだけかもしれない気がしてきた……」
タウロはいまいち、成長を実感できずにいたが、ミノタウロスを時間がかかったとはいえ、倒せた事で多少の自信がついたのであった。
「迷子になって困ったけど、成長を感じられたのは収穫かな」
タウロは、前向きに捉えると先を進む。
そして、やっと護衛チームの後方にやっと追いつく事が出来た。
前を進む護衛チームツグム達は、『嵐』によると感覚麻痺の為か、こちらから声をけても全く反応せず、慎重に進んでいるのが一目でわかった。
仕方がないので先頭を進むツグムに追い付いて肩を叩こうとすると、次の瞬間、ツグムは感覚を奪われた状態でも気配を感じられるのか飛び退る。
それに、呼応する様に他のメンバーも戦闘態勢だ。
流石、竜人族、『嵐』のスキル殺しでスキルを不能にされていても勘だけで反応出来るのは日常の訓練の賜物だろう。
タウロは感心したが、間違って斬られても嫌なので、『魔力操作(極)』で調整した状態異常回復魔法でツグムの『嵐』による特殊な感覚麻痺を解除した。
「……はっ!?──タウロ殿!ご無事でしたか!こ、これは一体……?急に靄が晴れた様に感覚が戻ってきました……!」
「あ、それは僕の魔法で治療しました。ちょっと待ってて下さい。みなさんも治療しますので」
タウロはそう言うと他の護衛チームも治療して回った。
「……ありがとうございますタウロ殿。まさかあの伝説の『嵐』の特殊な感覚麻痺を治療してしまうとは……!」
「いえ、治療と言っても一時的なものです。時間が経過すると、また、元に戻るのでそうなる前に行方不明のチームを探しましょう。捜索チームはすでに別れて探しているのですか?」
「ええ、そうなのですが、この『嵐』です。探索チームも見つけて合流した方がいいでしょう。あの感覚麻痺状態ではこの階層に出てくるミノタウロスの様な弱い敵でも力だけはあるので多少は被害を受けかねません」
ツグムが、何気にタウロが苦戦した魔物を口にした。
「え?ミノタウロスって弱いんですか?……ちなみにどのくらいの時間で倒すものでしょうか?」
「?私くらいのレベルですと、先程の状態になっていたら3分くらいはかかるくらいでしょうか?ですが、力は非常にあるので気を付けるに越した事はありません。あ、タウロ殿も気を付けて下さい。怪我でもされたら大変です」
……僕が苦戦しながら1時間かけて倒したミノタウロスを3分以内……!
どうやら、自分が強くなったと思ったのは勘違いだったみたいだ……。
タウロは落ち込むと、先程の「自分、強くなった説」を早速、取り下げるのであった。
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