第294話 迷宮の魔物
竜人族の情報と『世界の声』の言う通りなら、この『嵐』は、86階層の形の無い、数百年に数度訪れる『領域守護者』という事になる。
それは、視界や方向、地面に触れている感覚も奪い、スキルさえも使用できなくしてしまうという恐ろしい能力を持つものだ。
その自分に掛けられたとんでもない攻撃?を無効化する事に成功したタウロは、能力も元通り使える様になった事ですぐに、護衛チーム、捜索隊と合流する為に迷宮内を進んでいた。
『気配察知』には、比較的近くに味方の反応を感じたのでその反応に向かって進んでいたが、迷宮の壁に阻まれ、意外に追いつくのに時間を要した。
その途中、避けられない通路上で、迷宮に相応しい86階層の魔物に遭遇する事になった。
「……牛の頭を持つ大きな人型魔物。これって迷宮の番人でお馴染みのミノタウロスだよね……。強そうな気配がするのだけど、深層じゃないよねここ……」
タウロが、ミノタウロスの様子に危機感を抱いた。
いくら迷宮にしては広いとはいえ、通路の途中である。
すぐにあちらもこちらに気づいた。
ミノタウロスは、タウロを発見すると鼻息荒く、斧を持つ手にも力が入る。
その様子を見てタウロはマジック収納から円盾を出して装備し、小剣『タウロ』を抜き放つ。
「ぺら、盾の表面に擬態してくれるかい?」
タウロが、従魔に提案すると、ぺらはすぐ、革鎧の表面に擬態していたのを解き、言われた通り円盾の表面に擬態し直した。
ミノタウロスは、「モー!」と、雄たけびを上げると、タウロに向かって突進してくる。
タウロは、『ベヒーモス製革鎧』の潜在能力で各種能力上昇、体力上昇(強)、『守護人形製円盾』の潜在能力で物理耐性、盾に付けた、地底大猩々の魔石で腕力上昇(強)という能力アップのボーナスが付いている。
そこに、最近覚えた『英雄の風格』で各種能力も上昇している。
タウロの想像通りなら、これまで非力であった自分もかなり能力が上昇していて、目の前の物理攻撃の鬼の様に強いであろうミノタウロスの攻撃も受けられるはずという計算があった。
そのタウロにミノタウロスは突進の勢いのまま、その手にした斧をタウロに叩きつけた。
ゴキン
衝撃と金属の触れ合う鈍い音が響く。
タウロは円盾でミノタウロスの斧による斬撃を正面から受け止めたのだった。
想像よりも強い衝撃に、タウロも「くっ!」と、息を漏らす。
思ったより、ミノタウロスの力が強い!
でも、攻撃速度はそこまで早くない。
タウロは予想外のミノタウロスの攻撃力に肝を冷やしつつ、戦えない相手ではないと判断した。
すると心に余裕が出来たタウロは、先程覚えた『スキル殺し(弱)』を早速使ってみる事にした。
予想通りなら、一時的に敵のスキルを使用不能に出来るはずだ。
ミノタウロスが、力上昇系のスキルを持っているのではないかと想像したタウロは、『スキル殺し(弱)』を使用する事で、ミノタウロスが弱体化するだろうと判断した。
「『スキル殺し(弱)』発動!」
タウロは、ミノタウロス相手にそう唱えると、斧での攻撃を待ち構えた。
予想通りなら、さっきよりは攻撃が軽くなっているはずだ。
タウロは、そう考えるとミノタウロスが振るう斧の攻撃を受け止めた。
すると先程と全く変わらない重量の強烈な攻撃に、タウロは膝を着きそうになった。
「全く効果ないじゃん!」
驚いたタウロはすぐさま戦い方を変更すると、ミノタウロスの攻撃を受け流して敵の体勢を崩し、小剣で急所を狙って斬りつける、という戦法で圧倒し始めるのだった。
そして、1時間後。
ミノタウロスは、全身に無数の刺し傷、切り傷を負い、最後の雄たけびを上げると崩れる様に倒れて絶命した。
「ハァハァ……、ミノタウロスの体力凄すぎる……。こっちの体力が大幅に上昇してなかったら僕が負けてた……かも……」
タウロは、息も絶え絶えでその場に崩れる様に寝転がった。
すると円盾の表面に擬態していた従魔のぺらが擬態を解いて、プルンと震えた。
「ハァハァ……。その時は自分が守る?……ハァハァ……、ありがとう、ぺらは十分、僕の盾になってくれてるよ……!」
呼吸も荒くぺらに感謝するタウロであった。
しばらくして、ようやく呼吸が落ち着き出すと、体力回復ポーションを口にし、一息つく。
「はぁ……。『スキル殺し(弱)』効かなくて焦ったー!何か使い方を間違ったのかな?改めてまた、後日実験する必要があるなぁ……」
タウロは体力が回復したので立ち上がると、さらに、もう一本体力回復ポーションを飲み干して全快した。
「よし、今は、護衛チームと合流する事を優先しよう」
そう言うと、ぺらには改めて革鎧に擬態して貰い、ミノタウロスの遺骸をマジック収納に回収して先を進むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます