第296話 安全に救出

 護衛チームと合流したタウロは、『嵐』の感覚麻痺による『スキル殺し』でのスキル無効を解除され、本来の力を取り戻した護衛チームのスキルによって、すぐに探索チームを発見、合流し、こちらの感覚麻痺も治療して改めて探索し直すと、すぐに行方不明のチームを発見する事が出来た。


「た、助かったのか……。しかし、早かったな。救助にはあと2か月近くはかかると思っていたのだが……。どちらにしろ助かった。ありがとう!」


 失踪チームの隊長であり、冒険者ギルド竜人族の村支部の支部長サラマンがチームを代表して護衛チームの隊長ツグムに握手を求めた。


 どうやら、サラマンは長い期間ダンジョンに潜っていた為、タウロの存在を知らず、『空間転移』ではなく地道にダンジョンを潜って救出しに来てくれたと思った様だ。


「うん?人族の子供とは珍しいな?というかなぜこんなところに人族の子供を連れているのだ?まさかその子供が救出対象で我々の救出は偶然だったのだな?それはそれで我らもラッキーだったな!わはは!」


 タウロの存在に気づいたサラマンは、独自の解釈で納得し始めた。


「サラマンさん。このタウロ殿のお陰であなた方を早く見つける事が出来たのですよ。それに聞いてませんか?村に流行った病の治療法を見つけてくれた人族の話」


「うん?ドラゴの妹のラグーネが、治療法を持ち帰って来たやつだな。俺もそれで助かった口だぞ?」


「サラマンさんは治療後、すぐにダンジョンに潜ったので知らないのですね。──その治療法を教えてくれたのがこのタウロ殿です」


「なんと!それは本当か!?まだ、小さい子供じゃないか?てっきり人族の高名な学者か何かの類だと思っておったぞ……」


「初めまして。とりあえず、みなさんにもかけられた状態異常を解きますね」


 タウロは挨拶も早々に魔法を唱えてサラマンの仲間達の感覚麻痺を解いてみせた。


「なっ!視界が開けた上に、スキルが使える様になっているだと!?……こいつは驚いた。え?この少年が治療してくれたのか?──伝説上の『嵐』に遭遇するだけでも驚きなのに、伝説の『スキル殺し』を治療出来る子供がいるとは……」


「効果にも限りがあるので、急いで『休憩室』に向かいましょう」


 タウロは驚く竜人族達を急かした。


すると、サラマンも治療が一時的なものと理解したのか頷いた。


「わかった。状態異常さえ治れば、戻る道は大体わかる。だが、1人助けを求める為に出した奴がいるんだが、そいつの行方は知っているか?」


「その人なら、『休憩室』に辿り着いてましたので後で地上に案内します。ツグムさんそれでいいですよね?」


 タウロは勝手に話を進めるわけにもいかないので一応確認する。


「ええ、それでお願いします。では、戻りましょう」


 そう言うと、サラマンに先導を促しその場を後にするのであった。




「……久し振りに安全圏に辿り着いた……!」


 サラマンとそのチームメンバーは、85階層の『休憩室』まで辿り着くと安堵したのか力尽きた様に寝転がった。


「86階層の『嵐』に遭遇してどのくらい迷っていたんですか?」


 タウロが安堵するサラマン達に質問する。


「多分半月近くか?いやー本当に助かったよ。食料もいい加減、尽きかけていたし、あの状態だといつ発狂する奴が出てもおかしくなかったからな」


 サラマンは笑って答えると、仲間達の肩を叩いて耐え凌いだ事を褒めて回った。


 あの状態を半月!?普通なら1日で頭がおかしくなると思うのだけど……。


 タウロは竜人族のタフさを改めて知る事になったのだった。



 その後、サラマン達に休憩と食事の時間を提供して一息ついて貰うと、タウロの『空間転移』によって、1階層まですぐに移動した。


 サラマン達が、伝説的な能力である『空間転移』に驚いていたが、すぐにタウロは86階層で避難しているもう1人も回収しに向かい、すぐに戻って来た。


 サラマン達のチーム全員が何日ぶりかに全員揃うとそこでやっと緊張の糸が切れたのか泣いて抱きしめ合う姿が見られた。


 やはり、竜人族のタフさをもってしても不安はあったのだ。

 そして、仲間の安否は一番の心配であったのだろう。


 タウロは、その光景を見て、常人離れしている竜人族に対し、ラグーネ以来、親近感を持つのであった。


「タウロ殿、流行り病で命を救われた事に加えてこの度も仲間と一緒に命を助けられた。改めて感謝を言う、ありがとう」


 サラマンがチームを代表して頭を下げると、チームの全員も続いて頭を下げた。


「みなさん頭を上げて下さい。捜索チームとこの護衛チームのみなさんのご活躍があってこそ、みなさんを発見できたのであって、僕はそこに少し助力しただけですよ。なのでそんなに感謝される事ではないです」


 タウロはそう答えるとサラマン達の頭を上げさせた。


「しかしな。お礼の1つもしたいくらいだ。あの『嵐』に関しては、攻略組でも多分、迷って苦しむレベルの物だと思うしな」


「それならば、僕は冒険者ですので、サラマンさん、冒険者ギルドをどうにかして欲しいのですが?」


 タウロは今や、ほとんど機能しているとは言えない冒険者ギルド竜人族の村支部についてお願いするのであった。


「うん?冒険者ギルドを?……もしかしてタウロ殿は『冒険者』なのか?こいつは驚いた……!俺はその支部長をやってるが、まともに冒険者に会うのは初めてだ。ほとんど歴代受付嬢に任せてダンジョンへ潜り、そこで運営費を稼いでいたから会う事がなかったんだよ。わはは!」


 支部長であるサラマンがこれである。


 タウロは、冒険者ギルド竜人族の村支部に、今以上を求めるのはやはり難しいのかもしれないと思うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る