第290話 王都での竜人族

 タウロ達、旧『黒金の翼』4人が、ヴァンダイン侯爵邸で久しぶりの再会に、話に花を咲かせている頃、一時的に『黒金の翼』に加入した新メンバー、竜人族の3人の戦士である赤髪に金眼の高身長、美形の男マラクと、金髪に金眼、身長が小柄で一見すると美少年系のズメイ、長い青髪ポニーテールに、金眼の細身体型の美女リーヴァは、王都内で別行動を取っていた。


「やっぱり広いな王都は。こちらに来て日が経つが、こうも人が多いと人物鑑定も一苦労だ」


 3人の中では最年長である赤髪マラクが、人の多さにうんざりしてボヤいた。


「本当だね。ダンサスの村の様にはいかないね。あっちでは気配察知にもかからない阻害系を持つ怪しい奴を人物鑑定して職業確認すれば、すぐ関係者かわかったから捕まえて吐かせれば、情報も出て来たよね」


 赤髪マラクに同意して金髪ズメイが一見少年だがちょっと怖い事を言う。


「さっき面白いスキル持ちがいたから『目印』を付けておいたけど、暗殺ギルド関係者はいないわね」


 青髪美女のリーヴァがあまりに暇すぎて自分の特殊な能力を違う事に使った様だ。


「あんまり、他の事に使うなよ。いざという時、勘違いすることがあるんだろ、その能力」


 赤髪マラクがリーヴァに能力の欠点を指摘した。


「大丈夫よ。この王都に来てから『目印』付けたの2人だけだから。それに付けておいた方が後々何かあった時に関係者だったらこちらが困る様なスキル持ちだったから付けておいたの、損はないわよ」


 リーヴァが意味ありげに言う。


「……ほう。追跡専門の俺達の中でも一度出会った相手は逃がさないリーヴァがそういう事を言うのは珍しいな」


「私達竜人族の間でも珍しいスキル持ちだったわ。そのうちの1人は『瞬間移動』持ちだったの」


 リーヴァが楽しそうに言う。


「……それは確かに珍しいな。タウロ殿のダンジョン限定の『空間転移』と違って、地上で一定範囲を移動出来る能力だったな。確かに『目印』を付けておかないといざという時逃げられるな」


「でしょ?──王都には他にも珍しいスキル持ちがいるかもね。こんなに人が多いんですもの」


 竜人族の村から出てきた3人にとって王都は任務が無ければ、ゆっくり巡って楽しみたい場所であったが、その楽しみ方はちょっと人とは違うようだ。


「なあ、二人とも。そろそろお昼だし、タウロ殿が出しているお店でお昼にしようよ」


 少年の様な見た目の金髪のズメイが、二人に食事を提案した。


「そうだな。タウロ殿のお店は美味しいからまた行くか」


 赤髪マラクが金髪ズメイに賛同した。


「いいわね。じゃあ、今日はデザートに何を食べようかしら……」


 青髪リーヴァも賛同すると食後の甘味に想いを馳せるのであった。




 タウロの王都にオープンしているカレー屋は行列が出来る人気店になっていた。


 カレーはもちろんの事、サイドメニューも充実していて老若男女問わずの人気になっていた。


 何より食後のデザートも絶品ときており、庶民のみならず、お金持ちから貴族にまでその人気は広がりつつあった。


「今日も行列が出来てるわね」


「じゃあ、俺達は裏に回るか」


「ヴァンダイン侯爵の紹介と言えば個室に通して貰えるのは助かるね♪」


 金髪のズメイが、見た目の少年らしさのある喜び方で鼻歌交じりに裏からお店に真っ先に入って行く。


「みなさん、いらっしゃいませ。また、おいで頂き光栄です」


 店員が笑顔でこの3人を店内に迎え入れる。


「ありがとう。今日も大繁盛ですね」


「はい、お陰様で大盛況です。──ささ、こちらの部屋へどうぞ」


 男性の店員は、美女であるリーヴァをレディファーストで、案内する。


「マラク様とズメイ様も、どうぞ!」


 我先にと順番を争って一番を獲得した女性店員が美形のマラクと美少年のズメイを案内する。


「ありがとう」


 2人もその女性店員にお礼を言ってついていくと、女性店員は天にも昇る気持ちになるのであった。



 3人は個室に入るとすぐに注文して食事を始めたのだが、その最中、リーヴァのカレーを食べる手が止まった。


「……どうした?」


 赤髪マラクが異変を察知して声をかける。


「……『目印』を付けた2人が偶然か意図してか接触しているわ」


「でも、暗殺ギルドとは関係なさそうだったんだよね?」


 金髪ズメイがリーヴァに確認する。


「ええ、でも、私が珍しいからと『目印』を付けた2人がこの広く人が多い王都で出会う確率ってどのくらいだと思う?」


「……確かに。取り敢えず、暗殺ギルドと関係あるかわからないが、調べてみても良いかもしれないな。特殊なスキル持ちであるし、タウロ殿の何かしら力になれるかもしれない」


 赤髪マラクが、リーヴァの言う、その確率に理解を示すと頷いた。


「ところでその特殊スキルのもう1つの方ってどんなの?聞き忘れてたけど」


 金髪のズメイがカレーを食べながら聞いた。


「あ、言ってなかったかしら?もう1人の方のスキルは『遁走』だったわ」


「それは珍しいな。逃げる事だけに特化したアレか。でも、それって逃げる以外に使い道無かった様な……」


「そうそう。それもリーヴァに『目印』付けられたら逃げようがないよね」


「だから『目印』を付けておいたのよ。私だけでなく2人でも『遁走』スキル相手に『目印』無しに追う事は至難の技でしょ?」


「難しいが不可能ではないぞ。──と言ってもある程度近づかないと確かに追えないが」


 赤髪マラクが悔しそうに答える。


「僕は無理だね。マラクの様な『眼』は無いから、阻害系最高峰の『遁走』は追えないかな」


「でしょ?それじゃ、この2人を食事後追ってみましょう。──って、気づかれたみたい。1人の方の『目印』が解かれたわ」


 リーヴァが驚きを見せて自分の脳裏から『目印』が1つ消えた事を報告した。


「リーヴァの『目印』に気づくとは手練れだな。どっちの方だ?」


「多分、『瞬間移動』持ちの方ね。でも、『遁走』持ちが消えないところを見ると、2人は偶然近づいただけかも?」


「……そうか。確かに片方が気づくのなら、もう1人にも気づいて消してやるはずだよな。──本当に偶然なのかもしれない。一応、もう1人の方だけ食後にでも調べてみよう」


 赤髪マラクがそう提案すると二人は頷いて食事を続けるのであった。

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