第289話 養子縁組の話(3)
エアリスの実家であるヴァンダイン侯爵家の王都の邸宅で、タウロは仲間との久しぶりの再会も簡単に、養子縁組について話を進める事になった。
「タウロ君には、グラウニュート伯爵について、色々と知って貰いたいところではあるが、手続きの為に隣の部屋に役人も呼んで待たせているのでな。手続きの方を早々に済ませてしまおう」
ヴァンダイン侯爵は、色々と話したそうにしているグラウニュート伯爵を宥める様に言うと、使用人に視線を送って頷くと合図を出した。
するとすぐにタウロ達のいる部屋に役人の制服を着た男性が入って来た。
役人は、ヴァンダイン侯爵に頷くと、すぐに机に書類を並べてタウロにサイン促す。
書類にはすでにグラウニュート伯爵のサインがされている。
後見人のところにはもちろんだが、ヴァンダイン侯爵のサインがある。
「こちらと、こちら、あとはこちら、それにこちらにもサインをお願いします。ちなみにこちらは、あなたが以前、正式に縁を切った血縁者との関係性について、改めて縁を切ってある事を確認したのを証明する書類です」
役人が丁寧に説明する。
タウロは説明に頷くと、次々に書類の山にサインしていく。
「……はい。……こちらもよし。……全て大丈夫そうですね。お疲れ様でした。これであとは私が書類を持ち帰り、事務処理を行えば全て完了します。それでは、私は急いで帰らせて頂きますね。ヴァンダイン侯爵、グラウニュート伯爵、また、後日、お伺いします」
役人は挨拶をすると、ヴァンダイン侯爵が用意した馬車に乗り込むと役所に戻って行くのであった。
「……これで、手続きは終わった。あとは正式に事務処理が終われば晴れてタウロ君はグラウニュート伯爵の養子になるな。──おめでとう伯爵」
ヴァンダイン侯爵はそう言うとグラウニュート伯爵に握手を求める。
「ありがとう、ヴァンダイン侯爵……!何から何まですまないね。──タウロ君、正式な承諾が下りたら、すぐにもサイーシ子爵の件について被害届を出し、宰相派閥が持っている証拠と共にサイーシ子爵の罪を追及させて貰うよ。それまではまだ、安全なところで身を隠していてくれるかな」
グラウニュート伯爵は、ヴァンダイン侯爵にお礼を言うと、タウロに向き直って笑顔で言った。
「はい、ありがとうございます。僕の為に色々とお手数をおかけしてすみません。」
タウロは近い未来の書類上の父親にお詫びするのであった。
「いや、さっきもいいましたが、夫婦で君のファンだからね。書類上の事とはいえ、君の親になれるのは嬉しい事だよ。あ、まだ、気が早いな。ははは!」
グラウニュート伯爵はそう答えるのであった。
「……はぁ。これで、リーダーももうすぐお貴族様か。ラグーネ、これからどうするよ?」
アンクがタウロとグラウニュート伯爵のやり取りを見守ると、そう、ラグーネに漏らした。
「どうするとは?タウロもエアリスも仲間に変わりはないだろう。それに血の盟約を交わした仲だ。その関係は私には変わらないさ」
ラグーネの答えは明確で淀みが無かった。
「ははは。ラグーネのそういうところも嫌いじゃないんだよな。俺もどうしたんもんかな……」
アンクはラグーネの真っ直ぐな答えに感心すると自分の去就について考えを巡らせるのであった。
「本来なら、伯爵とタウロ君には色々と話して欲しいところだが、うちの娘もタウロ君と話したそうだし、伯爵、正式に養子縁組が成立してからでいいかね?」
ヴァンダイン侯爵が、娘エアリスの様子を窺ってグラウニュート伯爵に確認する。
「ははは、もちろんだ。それが一時的なものかもしれないがタウロ君を養子に迎え入れられるなら何年でも待つさ」
グラウニュート伯爵はヴァンダイン侯爵の言葉に心よく快諾すると、二人で部屋から退室するのであった。
「みんな改めて大事になってごめん。エアリスも今回の為に色々と考え、動いてくれたみたいで助かったよ」
「いいのよ。これまでずっと私はタウロにおんぶに抱っこだったもの。私も自立できないと駄目だと思ったから今回の件は良いきっかけだったわ」
「自立?」
「うん。タウロにばかり頼るのではなく、私も自分で何でもできなくちゃと思ったから……。タウロのいない間、私が『黒金の翼』のリーダーとして頑張っていたのよ?ラグーネとアンクには助けて貰ってばかりだったけど、少しずつ前に進めていると思うの」
「確かに、エアリスはしばらく会わない間に目に見えて成長してるね。身長も伸びた?」
タウロが自分との背を比べる様に測るそぶりをみせる。
「身長はタウロも伸びてるじゃない。それにこの短期間じゃほとんど変わらないわよ。──そうだ。あっちではどんな事をしてたの?久し振りだし屋敷内なら暗殺ギルドに気づかれる事はないだろうから、聞かせてよ。それに私達もDランク帯のクエスト、色々とやったのよ?今日は4人で沢山話しましょう!」
エアリスは久し振りの4人での時間を提案するのであった。
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