第288話 養子縁組の話(2)
養子縁組の話を聞かされたタウロは翌日、ラグーネが朝から『次元回廊』を使って迎えに来たので早速、そこへ『空間転移』で繋がっている先の王都まで飛んで、ヴァンダイン侯爵邸内に到着した。
目の前には、エアリス、アンク、そして、ヴァンダイン侯爵と見慣れない、貴族と思われる男性が立っていた。
「エアリス、アンク、久し振り。一応、ラグーネから話を聞いてるけど二人とも元気そうで良かったよ」
そう言うタウロに、エアリスは顔を伏せてゆっくり近づいてくると、静かにタウロをハグした。
「1人で無茶してない?私達がいてもするんだからそれだけが心配だったのよ」
ハグしたまま、エアリスがそう言うので、タウロは抱きしめ返し、背中を軽くポンポンと叩くと、
「結果的に、ちょっと無茶もしたけど大丈夫だったよ」
と返答した。
「やっぱり!私達がいないと歯止めが効かなくなると思ったわ」
エアリスは、ハグを解いて向き直ると、タウロに呆れてみせた。
「大丈夫だって。ラグーネから聞いたと思うけど、新たな仲間も出来たし、これからは多少の事では大丈夫だよ。──ぺら、僕の仲間だよ、挨拶して」
タウロは平服だったのでベルトに擬態している従魔のぺらを触って挨拶を促した。
すると、ぺらが擬態を解き、ポンとエアリス達の目の前に姿を現す。
「これはたまげたぜ……。ラグーネから聞いていたが、これがスライム種の頂点と言われているが地上では存在がまだ確認されていないスライムエンペラーか!」
アンクが、エアリスの傍からひょいと顔を出してまじまじとぺらを見つめる。
ぺらは、ピョンピョンと跳ねると、挨拶なのかさらに体を伸び縮みしてみせた。
「よろしくね、ぺら。タウロが無茶ばかりするだろうから、守って上げてね」
エアリスが挨拶すると、ぺらはエアリスの肩に飛び乗り、頬にすりすりと身を寄せるとそこからジャンプしてタウロのベルトに擬態して元に戻るのであった。
どうやら、ちゃんと守るという意思表示の様だ。
「そのスライムについて、個人的に私も聞きたい事はあるが……、それよりも再会の挨拶はそのくらいでよいかな?良ければ今度はこっちにも挨拶を頼む。この人物は、グラウニュート伯爵という。以前から君を養子に迎えたいと仰っていた方だ」
ヴァンダイン侯爵がタウロが出会った記憶が無い人物を紹介してくれた。
「お待たせしてすみません」
タウロはそう言うと、今度はヴァンダイン侯爵らに向き直って、お辞儀をする。
「ヴァンダイン侯爵お久し振りです。今回は僕の為に動いてくれているそうでありがとうございます。そして、グラニュー糖……、ではなくグラウニュート伯爵初めまして、僕はタウロと言います。この度はこちらの都合で養子縁組について前向きに検討して頂き感謝します」
タウロは、目の前の紫の髪色に青い目の温厚そうで紳士な、すらっとした30代と思われる伯爵に深々と頭を下げた。
「いや、前回このヴァンダイン侯爵から提案して貰った時から、こちら側は君について興味を持っていたからね、嬉しい限りだ。こちらこそ、タウロ君を養子として迎える事が出来そうで感謝しているのだ。妻も君の報告書を受け取る度に人柄を気に入って早く会いたいとせがんでいてね」
グラウニュート伯爵は、報告書で知っていたタウロが目の前にいるので、余程嬉しいのか、まじまじと色々な角度から確認する。
どうやら、好奇心旺盛な人の様だ。
見られているが、嫌な感じは全くしないのだから不思議なものだ。
そこに、ラグーネが『次元回廊』で戻って来た。
「兄上と話し込んでて遅くなった。──うん?今はどういう状況だい?」
ラグーネは、タウロと、エアリス達、ヴァンダイン侯爵達を見比べて、状況を掴めずに聞いてくるのであった。
「とりあえず、座ってから話をしましょうか?」
タウロは、自分が言う事ではないが、ヴァンダイン侯爵とグラウニュート伯爵に着席を促して、自分も応接間の豪華な椅子に腰を下ろすのであった。
「今日はまず、先に養子縁組の書類にサインをして貰い、その後すぐにでもサイーシ子爵の罪状を追求して行こうと思うのだが問題はないな、グラウニュート伯爵」
ヴァンダイン侯爵が、隣のグラウニュート伯爵に確認する。
「もちろんだ。タウロ君の安全確保が第一だからね。さっきも確認した通り、サイーシ子爵の犯罪行為を白日の下に晒す事が優先すべき事、その後で、タウロ君の意思を尊重したいと思う。何しろ私達夫婦はすっかりタウロ君のファンだからね。報告書を読むのが楽しみで楽しみで──。ははは!」
グラウニュート伯爵は、余程タウロを気に入っているのか寛大な姿勢を示してくれた。
アンクの報告書、どんな事書いていたのか気になるんですけど?
タウロはグラウニュート伯爵の熱い想いに好感を持ちつつ、アンクをチラッと見た。
アンクと視線が合うが、アンクはすぐに視線を外し、口笛を吹いて知らないフリをするのであった。
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