第286話 色々と……
タウロに養子縁組の話が王都でまた持ち上がっている頃──
当人のタウロは、日々のダンジョンでの送迎クエストと、カレー屋さんの出店、タウロの別名であるジーロ・シュガー製の魔道具の販売を竜人族の村で行う為に東奔西走していた。
カレー屋さんに関して、竜人族による村限定の経営を考えているので、タウロはレシピの伝授に留めるつもりでいた。
「ですが良いのですか?タウロ殿にあまり利益がある話には思えないのですが……」
タウロがレシピの伝授にお店の準備までしてくれるというので、経営する事になる料理・保存食開発者の男性、クックスは申し訳ない気持ちになっていた。
「いえ、クックスさんの協力のお陰で、かなり保存ができるカレールーも作れましたし、カレーの味の改良も出来ました。それに何より僕はこの竜人族の村が好きになったので、みなさんにも食べて貰いたいです。あ、でも、プロデュース料は頂きますよ?」
「プロデュース?」
クックスは聞き慣れない言葉に、頭に疑問符を浮かべた。
「ああ、店舗のイメージや、場所の選択などを決める事で、その手数料は頂きますよという事です。竜人族の村はラグーネの『次元回廊』で、すぐに来られるとはいえ、遠い地にあるのは確か。そんな場所の経営者には僕がなるより、村営として地域と共にある方がいいでしょう。あ、支店を作る場合は要相談でお願いします」
タウロは説明をすると経営については、竜人族の村に任せる事にした。
「……わかりました。それでは族長にもその方向で報告しておきます」
クックスはタウロの説明に納得するとがっちりと握手を交わすのであった。
ちなみに、村の救世主であるタウロがプロデュースしたカレー屋さんはオープンするとすぐに行列が出来る事になる。
そして、すぐに追加でダンジョンの側に支店が作られる事になるのは近い未来のお話。
タウロはすぐに、竜人族の村内の職人で手の空いてる者に、ジーロ・シュガー製魔導具の生産と販売について話を持ち掛けていた。
それは、魔法陣技術によるランタン、雨具、冷蔵庫、クーラーの他、タウロの『創造魔法』で製作した水汲み上げポンプ、お風呂、トイレなど、他にも新作の暖房器具など多岐に及ぶ。
「タウロ殿、これをみんな自分で考えたんですかい?とんでもないな。こう言っちゃなんですが、ワシら竜人族の技術は人族より進んでいると思っていましたが、そうでもないようですな」
タウロの1つ1つの説明に、集まった職人達は感心しきりであった。
「いえ、竜人族のみなさんの技術は十分優れていると思います。僕は先人の魔法陣の技術に手を少し加えて現在に至るので大した事はしていません。それにみなさんの技術が優れていると思うからこそ、これらの生産をお願いしたいんです」
タウロは謙遜して職人達の誇りを守りつつ、お願いするのであった。
「……ふむ。確かに人族やドワーフ族などには無い技術が詰まっている物がありますな。我々でもこれらの域に達する物を作れるか疑問はありますがやってみましょう」
タウロは竜人族の村の命の恩人でもあるし、職人として目の前にある技術が詰まった品々の製作は腕が鳴る。
それにこれらは竜人族の生活向上になるだろう。
職人達は頷き合うと、早速、製作に入るのであった。
色んな事を同時進行して滞在している兄妹邸宅に日も落ちた頃に帰宅すると、そこにはラグーネがタウロの帰りを首を長くして待っていた。
「タウロ、お帰り!兄上から話は聞いたぞ。朝から晩まで忙しくしてるみたいじゃないか。夕飯は食べたのか?タウロのマジック収納にとんかつの作り置きがあれば、譲って欲しいのだが」
ラグーネは笑顔でタウロを迎えると、いきなり脱線して夕飯の話をしだした。
「うん、ただいま。夕飯はまだだけど……。──ラグーネがわざわざ僕の帰りを待ってまでいるなんて、あっちで何かあったの?」
タウロは、久しぶりに会うラグーネが笑顔なので大した心配はないだろうがとは思いつつ用件を聞いた。
「どうせなら、夕飯をしながら話そう。私もとんかつを久し振りに食べたいし」
ラグーネはどうやら本当にとんかつを食べたいらしい。
というか、ダンサスの村にまだ、戻っていないのかなと思いつつ、ラグーネの兄、ドラゴと3人分の食事をマジック収納から出して食事を始めた。
「……で、用件は何だい?」
久し振りのとんかつだと喜々としながら食べるラグーネに、改めて用件を聞いた。
「うん?ああ!そうだった。──今、私達『黒金の翼』は王都に居るじゃないか。だから、とんかつも中々食べられなくてな。エアリスの家の料理人に作り方を説明して似た物は食べられるのだが、『小人の宿屋』程では無いし、毎回出してくれるわけでもなくて……」
ラグーネは本題のはずの王都滞在中の出来事ではなく、とんかつに話が向かう。
「ちょ、ちょっと待って、ラグーネ。何の用事なの?」
「ああ、そっちが聞きたいのか?それは話すと長くなるのだが、用件だけ言うと、タウロに貴族の養子になって貰うという話なんだ」
ラグーネは本当に用件だけ言うととんかつを頬張るのであった。
「どういう事?」
流石に多少は察しの良いタウロでもこのラグーネの説明に理解が追いつかず、頭上に疑問符を沢山浮かべるのであった。
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