第285話 王都で動くお嬢様

 タウロが竜人族の村で奮闘している頃──


 エアリスがリーダーとして頑張る『黒金の翼』は、王都にいた。


 メンバーは、エアリス、ラグーネ、アンク、そして、暗殺ギルドの情報集めの為に一緒に王都に来る為に一時的に加入した竜人族の3人の戦士である赤髪に金眼の高身長、美形の男マラクと、金髪に金眼、身長が小柄で一見すると美少年系のズメイ、長い青髪ポニーテールに、金眼の細身体型の美女リーヴァの計6名である。


 場所は、エアリスの実家であるヴァンダイン侯爵家の王都の邸宅。


 応接室には、エアリスの父ヴァンダイン侯爵もいた。


 ヴァンダイン侯爵は言わずと知れた中立派の重鎮で、国内でも影響力を持つ人物である。


 失踪する前は、王国政府の元、ダンジョン攻略部門の責任者を任されていた事もあり、人脈も広い。


 そんな自分を頼って、娘のエアリスが急に帰ってくると報告を受けた時には驚いたが、貴族社会の派閥争いにまで口を挟んでくるとは思っていなかった。



「──確かにエアリスの情報を手掛かりに各方面に人を使って調べさせたが、宰相派の貴族が立て続けに不審死をしている事がわかった。それこそ、一見すると事故死や病死などの様だったが……。調べてみて、宰相派がここ最近慌ただしく動いていた事にも合点がいった」


 ヴァンダイン侯爵は、エアリスの情報提供に最初こそまさかと不審に思っていたが、調べる事でどうやら眉唾な情報ではない事もわかってきた。


「だからパパ、協力して。このままじゃ、タウロがずっと暗殺ギルドにつけ狙われるから。雇い主と思われるサイーシ子爵を追い詰めて真相を追求できれば、雇い主を失った暗殺ギルドはタウロを狙う理由の一つは消えるの」


 エアリスは、タウロの為に父を動かし、サイーシ子爵の失脚を画策しようとしていたのだった。


「待ちなさいエアリス。私はあくまでも中立派の人間だ。宰相派閥の貴族が暗殺されたのなら、その報復をするのは宰相派閥であるべきだ。そして、恩があるとはいえ、平民の一冒険者であるタウロ君の為に私が動くというのは筋が通らない。それに貴族派閥の抗争にその様な理由で足を突っ込むのは流石にマズい」


「でも、暗殺ギルドがタウロを狙っているのは事実よ。パパも金銭以外でもお礼がしたいって言ってたじゃない!」


「もちろん、礼はしたいさ。だが、宰相派閥とハラグーラ侯爵派閥の争いに中立派の私がタウロ君を守る為に介入すると言って、世間が納得すると思うかい?下手をしたら争いが大きくなり国家を二分する戦争にもなりかねない。その責任の中心にタウロ君を置く事は出来ないし、私もその責を負うわけにはいかないのだよ」


 ヴァンダイン侯爵は娘のエアリスを諭す様に話した。


「だから、サイーシ子爵個人に責任を取らせたいの。ハラグーラ侯爵には非が無い様な状況を作って」


 エアリスは、意味深な言い方をした。


「……それはどういう事だ?」


 娘には何か考えがある様だと感じた父ヴァンダイン侯爵は聞き返した。


「残念だけどサイーシ子爵の宰相派閥の貴族らの暗殺の証拠は、暗殺ギルドの極秘書類の暗号がまだ解明されていないからグレーなんだけど、タウロの名だけは暗号で書かれていなかったからサイーシ子爵が暗殺しようとしている証拠はあるの。パパが言う様にタウロは王家の紋章を授かっている冒険者とはいえ平民なのは確か。それだと追及の為に動けないのも仕方がないのかもしれない。でも、そのタウロが中立派の貴族の養子、もしくは養子に入る予定があるとしたら?そんな子を、同じ中立派のパパが見過ごすわけにはいかないわよね?」


 エアリスは練りに練ったと思われる考えを父に発表した。


 父ヴァンダイン侯爵は、このエアリスの考えに驚かされた。


 失踪から戻った後、外見は成長していたが中身はいつもの娘だと思っていたエアリスが、また、冒険者として旅に出て行き、急に帰ってきたと思ったらわずか数か月で大きく成長していたのだ。


 今年で16歳になり成人を迎える事も成長のきっかけになったのかわからないが、タウロ君の存在が一番大きいのかもしれない。


 タウロ君に頼り、依存して成長が心配だった娘であったが、タウロ君の危機に際して自分が助けないといけないという思いから成長を促したのかもしれない。


 成長は嬉しいが、その反面何となく寂しいぞ……。


 ヴァンダイン侯爵は娘の成長の一端を見れた気がして目を細め、哀愁のある微笑みを浮かべるのであった。


「それは、タウロ君の案かな?」


 念の為、父ヴァンダイン侯爵は娘の考えか確認した。


「違うわ。タウロはこの件に関して、私達を巻き込まない為に、ほとぼりが冷めるまで安全なところへ避難する事を選んだの。タウロは人の力に頼らず、自分で解決しようとする人だから、きっとそこで何か今後の対策を考えているとは思うけど、多分その策はほとぼりが冷めて動けるようになってからのものだと思うから……。だから、『今』の私に、『今』、出来る事を考えたの。」


 エアリスは父ヴァンダイン侯爵の目を、強い光の宿った真っ直ぐな目で見つめ返した。


 これは本当に成長したな……。


 父ヴァンダイン侯爵はその娘の回答に満足すると、


「……わかった。その案を中心に策を練るとしよう。タウロ君にも連絡は取ってくれ。本人の了承なしに養子縁組の話はできないからな」


 と答え、動き出すのであった。

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