第282話 続・領域守護者との戦闘

 タウロは、フェンリル亜種のあらゆる属性に耐性を持っていると思われる頑強さに舌を巻く思いだったが、不意に気づいた事があった。


 それは、竜人族には光属性持ちが多い反面、今回の攻略組に入れる程の闇属性持ちがいない事だ。


 目の前のフェンリル亜種は、闇に覆われているので闇属性にも耐性を持っているのだろうが、闇魔法には特殊なものが多い。


 ましてや、相手は深手を負っていて、もうひと押しすれば倒せるであろう状態でもある。


 それならば、弱った相手にならアレが効くかもしれないと思った。


 それが、麻痺系魔法だ。


 弱っている魔物に使用したら死ぬこともあるのは、過去にコボルトに試して確認した事がある。


 タウロはそれを思い出したのだ。


 それに今は、『魔力操作(極)』で、その威力、操作も可能だ。


「闇の精霊魔法を試してみます。僕に標的が移った場合、防御をお願いします!」


 タウロが、すぐ詠唱に入る。


 護衛チームリーダーのツグムがその言葉に頷くと、タウロとフェンリル亜種との壁に入る。


 フェンリル亜種はティナの『大扇動』で意識はティナに向き攻撃していたが、タウロの闇の精霊魔法に反応したのだろうか?


 2つある頭の1つで高速詠唱すると闇の光線魔法をタウロ目がけて発した。


「こっちに標的が移った!来るぞ!」


 ツグムがそう警告するのと、タウロが闇の精霊魔法をフェンリル亜種に使うのが同時であった。


 フェンリル亜種が苦しみ出す。


 それと同時に、闇の光線魔法は四方に乱れる様に発し、地面を抉ったり、空に飛んでいく。

 タウロの傍にも闇の光線魔法が飛んできたがスライムのぺらが革鎧の擬態を解いて飛び出すと咄嗟にその光線を弾いて逸らしたので、タウロは直撃は避けられた。


 間に入ってタウロを守ろうとしたツグムも無傷だ。


 フェンリル亜種はその場でのたうち回ったが、暫らくすると動かなくなった。


「……タウロ殿。一体何の闇の精霊魔法を使ったのですか?」


 ツグムがごくりとつばを飲み込んでとんでもない強敵だったフェンリル亜種の変わり果てた姿を凝視した。


「あはは……。一応、麻痺魔法なのですが、普通のだと多分効かないと思ったので、『魔力操作(極)』で威力を上げつつ、心臓だけを麻痺させる部位集中に特化してみました。深手を負って弱っていたので心臓が止まってしまったみたいですね……」


 魔力を沢山使った感覚にげっそりしながら、タウロは自分の魔法の威力に驚くと、この魔法は多用しない方が良さそうだと思うのであった。


 サポート組の女性リーダーティアはフェンリル亜種の死亡確認の為に鑑定をする。


 どうやら本当に死んでいる様だ。


 呆気ない幕切れに脱力するティアであったが、まさか深手を負っていたとはいえ、この強力な魔物に止めを刺したのがタウロになるとは思ってもいなかった。


 それほどの敵だったのだ。


「……うん?これはドロップアイテム……。──鍵だな」


 ティアがそれを拾うと、大地がゴゴゴと揺れ動き出した。


「「「何事だ!?」」」


 一行が慌てていると、ティアの傍の地面が少しせり上がり裂けると扉が現れた。


 そこには、鍵穴がある。


 きっと、手にした鍵で開けて、下に行けるのだろう。


「こんな仕組みで下の階層に行けるのは初めてかもしれない。まさか領域守護者が鍵になっているとは……」


 ティアは驚くと、躊躇する事無くその地面に出来た両開きの扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。


 すると、ゆっくりと自動でその扉が開き下に向かう階段が現れた。


「ティア殿、攻略組が来るのを待ってからでいいだろう?」


 ツグムが声をかける。


「ここからの方が、『休憩室』に近いと思ったのだ。ほら、少し下ったところに横に入る通路があるようだ。きっと、それが『休憩室』だ」


 ティアは恐れる事なく下りて行くと部屋の存在を確認した。


「……それにしても、攻略組が階段を見つけられなかったのも仕方がないな。領域守護者を倒したところに階段が現れるとは誰も思わない……」


 ツグムが、階段を覗き込みながらつぶやく。


 タウロはそんな中、魔力回復の為にポーションを飲みながらフェンリル亜種の死骸を確認する。


 闇に覆われていた外見は死んでしまうとその闇は消え、2つ頭の白い毛に覆われた聖獣フェンリルの姿だけが残っていた。


 2つ頭なだけでも異様なのだが、闇まで纏っていたのだから、ダンジョンの魔物は計り知れないものがある。


 タウロの相棒であるぺらもそうだが、特殊過ぎるのだ。


「……あの。このフェンリル亜種の魔石を取り出していいですか?」


「ええ、いいですよ。止めを刺したのはタウロ殿ですし、あれがなければ我々も被害が出ていた可能性は高いですから、みんな文句はないと思います」


 ツグムが代表して頷くと、他の者達も仲間の治療をしながら賛同する。


「では、失礼します」


 そう言うと、心臓の辺りを自分のナイフで切り裂こうとする。


 が、刃が通らない。


「ああ、普通のナイフでは解体も難しいのがこの深層の魔物なんですよ。死んでも中々硬いものは多いですから」


 サポート組の一人がそう言うとタウロに一本のナイフを差し出した。


「これを使って下さい。解体用の特殊加工のナイフです。死んでるのでこれくらいのナイフでなら解体出来ると思いますよ」


 タウロはナイフを借りると、魔石がある心臓部分に刃を通した。


 刃はスッと入り、魔石を取り出す事が出来たのだった。


 その瞬間だった。


 タウロの脳裏に『世界の声』が響いたのであった。

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