第283話 202階層から地上へ
タウロが二つ頭のフェンリル亜種の胸を割いて魔石を取り出すと、脳裏に『世界の声』が響いて来た。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<領域守護者(二つ頭の聖獣亜種)を討伐せし者>を確認。[多重詠唱]を取得しました」
タウロはその声に内心喜びを爆発させた。
やったー!異世界魔法でお馴染みの複合魔法が出来る様になるやつだ!
タウロの喜びがぺらにも伝わったのか、その場でぺらも飛び跳ねてタウロと一緒に喜ぶのであった。
「?」
タウロの護衛チームリーダーツグムは、タウロが笑顔でスライムエンペラー亜種と一緒に小躍りしているので、不思議そうに見ている。
そこに、サポート組の女性リーダーティアが、タウロに声をかけた。
「その従魔のスライムエンペラー亜種は、凄いですね。フェンリル亜種の闇光線魔法を咄嗟に弾くとは……。元々、魔法耐性が高い魔物ですが、あの高度な魔法も跳ね返す程の耐性なら、タウロ殿の護衛として相応しいです。──あ、でも、今後はこういう状況にならない様にして下さい」
ティアに褒められたぺらは嬉しかったのか、それともタウロがぺらを褒められて喜んだ感情が伝わったのか、ティアの傍まで高速で移動して、タウロの傍に一瞬で戻るという不思議なアピールをすると、また、ぴょんと一度跳ねてタウロの革鎧の表面に擬態して静かになるぺらであった。
タウロはタウロでティアから説教されそうな流れだったので、
「えっと、このフェンリル亜種の遺骸はどうしましょうか?やっぱり回収して補給組に預けた方がいいですか?」
と、違う方に話しを振った。
「あ、そうですね。研究や、色んな材料にも使えますが、タウロ殿が仕留めたので処分方法はお任せします。」
ティアが竜人族を代表してそう告げた。
「いえ、流石にトドメだけ刺して全ての権利を主張する程、図々しくないですよ。……良かったら魔石だけ頂いていいですか?他は研究や、装備の充実に活用して下さい」
「……よろしいのですか?こう言っては何ですが、この魔物の毛皮は防具に、牙は刃物に、内臓は薬にと、捨てるものはないくらい色々と活用できると思いますが……」
ティアが権利を放棄するタウロに驚いた。
「ダンジョン攻略の為に最大限利用して下さい。僕は魔石を貰えるだけでも十分ですよ。というか大した事をしていないのに、魔石を要求しててかなり図々しいとは思いますが……」
苦笑いするとタウロであったが、そのまま魔石を貰うのであった。
「それでは、タウロ殿のお言葉に甘えて遺骸はうちで引き取らせて貰います。──ツグム、タウロ殿はちゃんと村まで送り届けなさい。私達はここで引き返して各攻略組にこの事を知らせなくてはいけないから」
ティアはそう言ってタウロに一礼すると、サポート組を率いてもと来た方向に高速で走って引き返していくのだった。
「……流石に早い。もしかしたら、ぺらと同じくらい早いんじゃない?」
タウロが革鎧に擬態したぺらを撫でると、プルンと震えて自分の方が早いと言ってる様に思えた。
気持ちが何となく伝わってくるのでその解釈で間違っていないだろう。
「それでは、タウロ殿。他の魔物が来る前に遺骸を回収して202階層の『休憩室』に行き、201階層に戻りましょう」
ツグムがそうタウロに促した。
タウロはそれに頷くとマジック収納にフェンリル亜種を回収、目の前の階段を下りて『休憩室』に向かうのだった。
「202階層の休憩室もやっぱり一緒ですね」
階段を下りてすぐ横に入ると、やはり『休憩室』はそこにあった。
やはり何もない広い部屋だったのでタウロの感想はもっともだ。
「まずは201階層の、待機している補給組に報告して、こちらに荷物の移動ですね。それが終わったら地上に戻りましょう」
ツグムの説明を聞いてタウロは頷くと護衛チームの面々と円陣を組むと『空間転移』で、201階層に戻るのであった。
「タウロ殿達、遅いなぁ。まさか、全滅し──」
201階層で待機していた補給組の1人が、部屋の中央でそう口にした瞬間、目の前にそのタウロがツグム達と一緒に現れたので驚いて座り込んだ。
「あ、驚かせてすみません!下への階層に行ける階段を発見したのでそちらの『休憩室』から戻ってきました。これからその『休憩室』に引っ越ししますね」
タウロはそう言うと、並べられていた荷物を次々にマジック収納に入れていく。
補給組の面々もあっという間の手際に、驚くのであったが、
「みなさん、円陣を組んで下さい。下の階層にみなさんを送り届けますよ」
と、タウロが言うので、慌てて全員が円陣を組んで手を繋ぐ。
「それでは行きます」
こうして補給組を送り届けると、タウロは護衛チームと、地上で待機する交代メンバーと入れ替わる者を送迎して地上に戻るのであった。
「数日しかダンジョンに居なかったのに、地上の有難味がわかるなぁ」
地上に出たタウロは、月並みな感想を漏らすと、ダンジョンでのひと時の冒険はこうして終了したのであった。
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