第281話 領域守護者との戦闘
202階層──
タウロ達一行は201階層の『休憩室』に戻る最中、202階層の領域守護者と思われる二つの頭を持つ闇に覆われた聖狼、フェンリルの亜種に遭遇。
あちらもこちらに気づいた事で、タウロ達も戦闘に突入しようとしていた。
そのフェンリル亜種が、もの凄い勢いでこちらに向かってくる。
その姿は攻略組との戦闘で深手を負って怒りに身を任せた獣そのものの圧力を感じた。
というより、タウロにはそれ以上の圧力を感じて足が竦んでいた。
もしかしたら、タウロの能力『威光』の様なものを魔物が使っているのかもしれない。
だが、女性リーダーであるティアは怯む事無く全員の一番前に出ると、「聖大盾!」と口にした。
すると、どこからともなく大きな盾がティアの左手に現れる。
マジック収納から出したわけでもない様だ。
彼女の能力の一部だろうか?
「能力『大扇動』。『かかってこい、私が相手だ!』」
ティアの固定スキル『聖盾騎士』の能力で、盾職の能力『挑発』より上位の能力を発動した。
フェンリルの亜種は二つの頭があるので、同時に二つの魔法を詠唱すると、一方ではティアに、タウロが見た事もない闇の光線を放ち、一方ではその背後にいるサポート組や、タウロ達に対して最上位の高火力と思われる火魔法を放った。
「くっ!『大扇動』を使っても、全体魔法で後ろを攻撃してくるのか!──耐魔大障壁!」
ティアは自分は盾で闇の光線を防ぎつつ、タウロ達全体を覆う半透明の壁を作りだした。
サポート隊もそこに重ね掛けで障壁を張り、ある者達は槍と剣でフェンリル亜種に攻撃を仕掛ける。
フェンリル亜種の火魔法は轟音を立てながらも障壁に阻まれ四散した。
その間にいる者はティアのダメージを見越して回復魔法を発動する。
補給組は支援魔法でサポート組の耐性を上げたり、攻撃力を上げたりしている。
ここでようやくタウロもフェンリル亜種の『威光』系の能力から解放されて正気に戻った。
そして、円盾とアルテミスの弓を出すと、光の矢は通じないと判断したので魔力を込めず、力によるボーナスを加算して力任せの矢を放った。
アルテミスの弓は魔力で『光の矢』を放てるが、力を込めれば無属性の剛弓に変わる事が力に恩恵がある円盾を装備した時に発覚していたからだ。
タウロの円盾による力上昇で威力を増した矢は、空を切り裂き大気を唸らせながら、真っ直ぐフェンリル亜種に飛んでいく。
タウロの狙い通り、片方の頭の眉間に矢は吸い込まれていく。
だがしかし、矢は当たったと思った瞬間、鈍い音をたてると弾かれて軌道がそれたのだった。
「弾かれた!?」
タウロが驚く中、サポート組もフェンリル亜種に斬りかかるが、その攻撃もほぼ無傷で跳ね返される。
もちろん、サポート組の戦士達の攻撃はただの通常攻撃ではない。
魔法を帯びた特殊攻撃だ。
「やはりまだ、耐久値は高いぞ!」
「了解、傷を負っている部分をしつこく攻撃しよう!」
「タウロ殿、ただの鉄の矢ではこの階層の魔物にはあまり傷を与えられません。こちらのミスリルの矢を使用して下さい」
補給組の男が背に背負っていた矢筒をタウロに放り投げて渡した。
タウロの弓矢の威力なら任せていいと判断したのだろう。
補給組の男は魔法でのサポートに専念する判断をした様だ。
その間に、女性リーダーのティアが、盾から伸びる光の刃でフェンリル亜種に攻撃を仕掛けていた。
だが、さすがフェンリルの亜種。
光属性に高耐性があり、ティアの攻撃を弾き返した。
「これは、攻略組が5時間以上もかかったのがわかるわ。これだけの光耐性持ちの魔物、サポート組の私の攻撃では簡単に弾かれるわ!」
ティアは攻撃の間も『大扇動』でフェンリル亜種の意識を自分に向けさせながら、戦う。
これを見て他の者も、光属性の攻撃を諦め、他の属性攻撃でフェンリル亜種に攻撃を仕掛けていく。
フェンリル亜種は、ほぼ全ての攻撃に耐性を持っているのかこちらの攻撃にはあまり意識を向けず、怒りに任せてタゲを取ってくるティアにその二つの頭から魔法を放ったり、鋭い爪を持った前足で大気を切り裂く斬撃を繰り出してティアを襲う。
防御を得意とするティアもフェンリル亜種の多種多様な攻撃に防戦一方で負傷箇所が増えていく。
後ろで味方が回復してくれなければ、確実に不利な状況に陥っていたはずだ。
味方はティアが攻撃を一身に受けている中、確実に攻撃を加えようとフェンリル亜種の負傷部分を狙って攻撃を繰り返した。
だが、あまりダメージが通っていないのか、怯む様子がほとんどない。
その中、タウロもミスリルの矢を放ち、何本もフェンリル亜種に矢を突き立てていくがあまり手応えを感じていなかった。
これではティアさんがやられる可能性がある……!
タウロはこの全ての攻撃に耐性を持つと思われる深手を負った強敵に震撼し、危機感を持ったが、ずっと使っていなかったアレを上手く操作すれば通じるかもしれないと不意に思いつくのであった。
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