第280話 やっぱり説教

 タウロと護衛チームは、忍耐の時間を迎えていた。


 そう、攻略組の補給の為に201階層の『休憩室』を出発して2日間の最後の締めは、攻略組のみなさんから、もの凄く説教をされているのだ。


 攻略組の精鋭は大賢者、真聖女など頭脳明晰なスキル持ちがいる。


 その為、説教はそれらの頭の良い竜人族を中心に念入りに長時間され、すでに日が沈もうとしていた。


「──もう、こんな事はしないで下さい。いいですね?」


 やっと説教の時間が済んだ様だ。


 説教の間、タウロとその護衛の竜人族の者達の口からは「くっ、殺せ」という言葉がたまに漏れていたくらい、タウロと護衛チームの面々はその厳しい説教で精神的にかなり削られ、疲弊してしまうのであった。

 もしかしたらただの説教ではなく精神に作用する何かが言葉にこもっていたのかもしれない。


「そ、そうだ。もう、日が沈みますし野営の準備を。僕が昨日仕込んだ料理があるので、それを食べて下さい」


 タウロは名誉挽回のつもりでマジック収納からカレーを出す。


 護衛チームは昨日に引き続きカレーが食べれるのを喜び喊声を上げる。


 攻略組の面々は反省していたはずの護衛チームの喜びように不審がったが、タウロが勧めるので野営の準備をするのであった。




 攻略組もタウロの用意したカレーには唸る事になった。


 サポート組ももちろんで、どうやら竜人族にカツカレーはとても相性が良いようだ。


 先程までの長時間の説教での悪い雰囲気が一変して和気あいあいとしたものになっていく。


「日中、戦っていた魔物は相当強かったのですか?」


 タウロは攻略組が1時間以上戦っていた魔物の集団について質問した。


「ええ、この階層ですから弱い敵はほとんどいませんからね。確かに先程戦った魔物も強かったですが、昨日遭遇した魔物に比べたらまだ楽でしたね」


 攻略組の大勇者がさらっと凄い事を口にした。


「今日の魔物よりも強い敵に遭遇したんですか!?」


 タウロはこの伝説級の戦士達が強いという魔物に興味を惹かれた。


「ええ。その魔物とは五時間ほど戦闘が行われました。ですが、止めを刺す前に逃げられてしまい……。こちらも疲弊していたので追いかけるわけにもいかず取り逃がす事になりました。もしかしたら、この階層の領域守護者だったかもしれないです。まあ、かなりの深手を負っているはずなので、今頃死んでいるかもしれません」


 この伝説級のチームを相手に五時間以上戦うってどんな魔物なの!?


 と、心の中で驚愕するタウロであった。


「ですから、この様な場所にタウロ殿は来てはいけないのです。もしあなたに何かあったら我々もこの階層に孤立する事になります。わかりましたね?」


 今度は大勇者の説教が始まってはいけないので、タウロは素直に頷くと食後のデザートに甘い物をと、手掴みで食べられる饅頭をすぐにみんなに振る舞うのであった。


 これは特にずっと戦闘を繰り返していた攻略組に喜ばれた。

 戦場で甘い物が食べられると思っていなかったのだ。


 思ったより人気があった事に嬉しくなったタウロは補給物資の引き渡しの際、カレーはもちろんの事、貴重な甘味である饅頭も沢山引き渡すのであった。




 翌日──


 タウロは朝一番で、女性リーダー率いるサポート組の先導で201階層の『休憩室』まで帰る事になった。


 聞けばショートカットで丸一日で到着するだろうとの事だ。


「攻略組のみなさん、健闘をお祈りします。それでは僕達は帰りますね」


 タウロ一行は攻略組に見送られながら、ダンジョンを引き返すのであった。




 その帰りの道中。


「……ツグムさん、『真眼』にこれまで見た事がない様なシルエットが250メートル先の森の中にいます」


 タウロが緊張した面持ちでそばを歩くツグムに報告した。


 先を進んでいたサポート組の女性リーダーもそれに気づいてこちらに走ってやって来る。


「タウロ殿、どうやら、攻略組が仕留め損なった魔物がこの先にいる様だ。我々はこれを仕留めておいた方が良いと判断したのでタウロ殿達は少し待っていて貰ってよろしいですか?」


 女性リーダーが真剣な顔つきで待機を求めて来た。


「はい、もちろんです。ツグムさん達も連れて行って下さい。元々、サポート組の予備隊ですから戦力的に申し分ないでしょう?補給組は僕の護衛という事でここに残る感じで大丈夫かと」


「……あの魔物は深手を負っていても、我々が一度は仕留め損なった敵。油断は出来ないので助かります」


 女性リーダーは頷くと、森に向かおうとした。


 しかし


「ティアさん、こちらに気づいて向かってきます!」


 サポート組の索敵担当の者が、女性リーダーのティアに急いで報告した。


 みると森の木の合間から土煙を巻き上げながらこちらに接近してくるのがわかった。


「……仕方ない、計画変更、ここで迎え撃つ。補給組はタウロ殿の盾になれ。護衛チームは私のサポート組との間、奴のタゲは私が取る」


 ティアがすぐにそう判断すると、みな躊躇する事なく陣形を組んでいく。


 その間に森から闇に覆われた一匹の大きい獣が飛び出してきた。


 一見すると狼系の魔物だ。


 昨晩攻略組から聞いた情報通りなら、闇に覆われた二つ頭の聖狼、フェンリルの亜種のはずだ。


 これも情報通りなら、高い光耐性と、闇属性の攻撃力、物理攻撃にも高い耐性を持ち、魔法自体も効きづらいはずだ。


 つまり光属性を強化しているタウロの天敵と言ってよかった。


 ただし、深手を負っているので、もしかしたらタウロの攻撃も何かしら通じるかもしれない。


 そんなタウロの甘い予想の元、戦闘が開始されようとしていた。

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