第279話 説教される
ダンジョンで初めて一夜を過ごしたタウロであったが、攻略組に付いているサポート組が道の安全確保の為に魔石を用いて張った結界により、何事も無く朝を迎える事が出来た。
「結界が張れる魔道具か……。僕にも出来ないかな?」
タウロはこの便利さに考え込む。
「タウロ殿、そろそろ出発しましょう。攻略組は思ったよりダンジョン内を色々移動しているようです。サポート組が安全確保と目印にする為に残した結界や痕跡が、いたる所に残っていると部下が言ってます」
そこに護衛チームのリーダーツグムがタウロに出発を促した。
どうやら思った以上に攻略組はこの202階層に手間取っている様だ。
これだけ広いダンジョンなのだ、下の階層に行く為の階段を見つけるのも容易ではないのだろう。
「わかりました。早く追いついて補給しましょう」
タウロは頷くと一行と共に先に進むのであった。
どのくらい歩いただろうか、日は高く上がり、多分このダンジョンのお昼頃かもしれない。
そう思いながらタウロの『真眼』で、少し離れた森の中に人影を捉えた。
それも、高阻害系の能力を持つ集団とわかる。
タウロの『真眼』にはその集団の輪郭が阻害系能力を使用している者の特徴を示して光って見えたのだ。
あちらもこちらに気づいている様だ、森を抜けてこちらに向かってきた。
「お前達補給組か?ご苦労様!──うん?ちょっと待て、何でタウロ殿がいるんだ?」
第一声はその集団を率いる女性の労いの言葉であったが、タウロがそのメンバーに入っているのを確認すると急に空気が変わった。
「……実は──」
ツグムが一行を代表してこのサポート組のリーダーに説明をするのであった。
「……確かに補給は大切な任務だが、我々も素人ではない。不測の事態に備えて物資は切り詰めて使用している。だから、その様な場合は、遅れても他の補給組に任せればいいのだ。タウロ殿を危険な場所に連れて来てどうする!タウロ殿も軽率ですぞ。もちろん、今回の重要なご協力には感謝しています。重要だからこそ我々の生命線を握っているのもタウロ殿なのです。この様な危険を冒されては困ります。他の者も整列しなさい。そもそも──」
サポート組女性リーダーはツグムとタウロ、そして護衛チームの全員を整列させると説教を始めるのであった。
「──ですから、攻略組のいるところまで我々も同行します。よろしいですね?」
長い説教の末、サポート組の女性リーダーが、タウロ達一行に同行する事になった。
「でも、サポート組のみなさんは別の重要な任務があるのでは?」
タウロが邪魔をしてはいけないと思い、聞いた。
「我々は本来、階層の階段から攻略組までの道のりの安全確保、魔物の生態や、このダンジョンの研究や地図作りなど多岐にわたりますが、一番の優先順位はタウロ殿の安全確保と判断しました。本当なら我々が荷物を受け取るところですが、このチームはマジック収納持ちの容量が小さい者しかいないので同行します、いいですね?」
女性リーダーが断れない雰囲気の圧を掛けて来た。
「「は、はい……」」
タウロと護衛チーム隊長ツグムは、そう返事するしか出来ないのであった。
サポート組の先導の元、タウロ一行は攻略組がいる地点まで近道をして追いついた。
追いついたと言っても、数時間歩き続けての話だが。
「どうやら、今、攻略組とサポート組が魔物と交戦しているようです。近くまで行きますが戦闘終了までは距離を取って下さい。我々は攻略組の援護に向かいます」
サポート組の女性リーダーは遠くから土煙が舞っているのを指さして言った。
タウロの『真眼』は、『神箭手』を覚えた事で遠距離が見える様に強化されているが、その『真眼』でもこの距離はあまり見えない。
「了解です。我々はタウロ殿を守って周囲を警戒しておきます」
護衛チーム隊長ツグムが頷くとみんなを周囲に展開させる。
サポート組の女性リーダーはそれを確認すると仲間と共に戦場まで高速で走って行くのであった。
タウロ達は土煙が昇る場所が『真眼』で確認できる距離程度には近づいて待機する事にした。
タウロは『真眼』でも人がゴマ粒程度にしか確認できないながらその状況を眺めていた。
敵の魔物は大きなものが1体、取り巻きが15体程いて攻略組と互角に戦っている様にみえる。
時折派手な爆発魔法で土煙が上がるが、それは魔物側のもので、攻略組側は地味にピカッと光るとすぐ消える光線系の魔法で応戦している様だ。
とはいえ、攻略組も含め、冒険者であればS級レベルの面々だ、すぐ済むだろうと高を括っていたタウロであったが……、なんと待っていると1時間が経過していた。
「……終わったみたいです。こっちに来る様に手招きしてますから行きましょう」
護衛チーム隊長ツグムが、いち早くそれに気づくとタウロに報告した。
「わかりました。僕が行ったら今度は攻略組の方から説教されませんよね?」
タウロは冗談でツグムにそう言いながら攻略組のいる場所に駆け足で向かうのであった。
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