第278話 202階層での料理
202階層の夜は普通に訪れた。
もちろん、外ではないから、の様なものになるのだが、空には星があるし、月も輝いている。
ダンジョンが作り出したものにしては、本物にしか見えないが、よく見ると星の配置が全く違いこの世界のものではない事がわかった。
それが作りものである証拠だろう。
タウロ達一行は夜を迎えるという事で、攻略組が通過した後の道だとわかる魔石の魔道具によって結界が張られてる範囲内に辿り着き、そこで野宿する事にした。
なのでタウロが早速、自慢のテントの設置やランタンを提供して竜人族を驚かせたのは言うまでもないが、一番驚いていたのは、料理だった。
攻略組への補給の為に食糧は沢山用意されているが、マジック収納に保存するとは言え、基本、保存食が中心で、そこに調理前の材料なども入っている。
しかし、竜人族は誰も文句を言わないのかすぐ食べられて腹持ちの良い保存食を進んで食べる様で、ダンジョン内ではわざわざ調理してまで温かいものを食べる気はあまりないらしい。
そこで、タウロがマジック収納から寸胴などの調理器具や、かまどを出して大掛かりに料理をし始めた。
竜人族の者達は最初、保存食でいいですよ?と、断っていたがタウロがみんなに料理を提供したいと言うので従う事にした。
「手伝いましょうか?──大丈夫?わかりました」
「この香り……、珍しいスパイスですね?ただ、沢山の匂いが混ざっている……」
「確かに。──うん?それはオークのお肉ですか?とんかつ?初めて聞く料理名です」
「スープにしてはドロドロですが大丈夫ですか?え?スープじゃない?」
「この白い食べ物は?お米?──ああ!家畜の餌に混ぜるやつですね?それを食べるのですか!?」
竜人族達は見た事がない調理風景と、胃を刺激する香りにタウロの料理する手許を代わる代わる覗き込んでいく。
タウロが用意していたのは、そう、刻んだ野菜たっぷりのカツカレーであった。
とんかつはラグーネがハマっていたのでそれを入れたカレーが竜人族にウケるかもしれないと思ったのだ。
1人1人お米を乗せて貰ったお皿を片手に、列を作っていく。
次にその白いお米の上にとんかつを乗せられ、問題のカレールーをタウロがその上に注いでいく。
「初めて見る料理だが、香りがいいな」
「オークの肉も初めて見る調理法だったが、美味しそうだ」
「お米は抵抗があるが、全体的には良さそうだ」
食べる前に竜人族の者達は見た目の感想を漏らす。
「それではみなさんに行き届いたみたいなので、どうぞ召し上がって下さい。お代わりもありますよ」
タウロが食べる様に薦めるとまず、隊長のツグムが代表する様に、カツカレーをスプーンで掬うと口に運んだ。
「美味い!このカレールー?の香辛料の辛さと野菜の甘味、そして、お米の──」
ツグムが感想を解説し始めるとみな、その香りに刺激されて我先にと食べ始めた。
みんなから「美味しい!」という歓声が上がる。
これは、思った以上に好評っぽいぞ。保存用に沢山作ったつもりだったけど、もう少し、作っておこう。
タウロは、みんなの食べる勢いにやはり野外でのカレーは偉大だと手応えを感じた。
そして、マジック収納からまた材料と寸胴などの調理器具を追加で出し、調理は始めるのであった。
食事後──
「タウロ殿、ご馳走様でした。まさかダンジョンでこの様な美味しい料理を食べられるとは思っていませんでしたよ」
隊長ツグムが、みんなを代表してお礼を言う。
「好評で良かったです。まだ、お代わりは沢山あるので言って下さいね」
タウロが笑って答えた。
「いえ、自分はもう、5杯食べてしまったので止めておきます。ははは」
ツグムも笑ってタウロに答える。
「ははは!多い人は7杯食べてましたよ。遠慮しないで下さいね」
タウロがそう言うと、誰からか「おいおい、誰だ7杯も食べたの?」と、声が上がった。
すると、それに釣られてみんなから笑いが起きるのであった。
結界内はタウロの提供したランタンで明るく照らされていた。
「テントもですが、タウロ殿は色々な物を作っておられますね。驚きです」
ツグムがランタンの明るさに感心しながら、言う。
「魔法陣研究の一部が上手く役に立っただけですよ。ほとんど失敗だらけですから」
タウロは普段から色々と考えているが、形になっている物はごく一部であった。
「原点となる魔法陣については、失われた技術だと言われています。我々竜人族でも、魔道具に関わる魔法陣研究を行っていますが、タウロ殿ほどの知識を持っている者がいるかどうか……」
「僕の知識も不完全ですよ。色々とやりたい事は多いのですが、まだ、形に出来ていません」
タウロは謙遜しながら、竜人族の村に居る間、魔法陣の研究も進めて行こうと思うのであった。
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