第277話 202階層の道中

 202階層のダンジョン。


 一行は半日の間、タウロの『アンチ阻害』と『気配察知』の組み合わせの『真眼』を使って魔物をほとんど避けながら進んでいた。


 中には遠回りになるので倒す方が早いと護衛チームが倒すシーンもあった。


 タウロも当初、その戦闘に微力ながら参加するつもりでいた。


 タウロは、自身で魔改造した防具類でかなり基本ステータスも底上げしていたから、少しはお手伝いできるだろうと思っていたのだ。


 だが、護衛チームの動きは俊敏で力強く効率的、魔物の弱点もよく分析してあっという間であった。


 タウロは隙あらば参加しようと思っていたのだが、その隙も無く、魔物は退治されてしまった。


「みなさん流石ですね。僕も少しは攻撃参加するつもりでしたが、全然ダメでした」


 タウロは護衛チームの連携を称賛した。


「ははは。自分達は日常生活以外は戦闘訓練ばかりやってきたメンバーですよ。魔物に対する研究もしています。知識のある魔物なら、大抵は全員役割を理解して瞬時に動けます」


 護衛のチームの隊長ツグムの言う通り、タウロを守るこの2チームは言葉数少なに連携を取って完璧だった。


 立ち回りに多少自信があったタウロがそこに入る余地が無いのだから、相当なものである。


「タウロ殿の能力も十分凄いですよ。我々の索敵能力持ちでも、阻害スキルに対しては完璧ではないので最後はみんな勘頼みです。ですがタウロ殿は高阻害系持ちの魔物も感知してしまいます。それだけでも我々は助かってますよ」


 ツグムがタウロに感心して褒めた。


「まだ僕も自分の『アンチ阻害』能力にはわからないところがあるんですよ。時折、岩や石にも反応しますから。感度が強すぎるのか、岩や石に何か阻害系の鉱石が含まれているのか……。ほら、そこの岩にも『真眼』を通して見ると反応してるんですよね」


 タウロが近くの岩を指さす。


「……あの岩ですか?」


 ツグムが、タウロの傍の岩を見つめる。

 他のメンバーもタウロの指さす岩を見た時だった。


 その岩が一瞬、動いた気がした。


「──岩石針鼠だ!」


 ツグムがそうメンバーに警告するのが早いかどうかだった。


 突如岩から無数の針が高速で射出された。


 タウロはあまりに近すぎて反応できない。


 が、タウロの相棒、スライムエンペラー亜種のぺらは違った。


 タウロの革鎧の表面に擬態していたぺらは次の瞬間には擬態を解き、薄く広がるとタウロの前に壁を作った。


 いや、その岩を半ば覆う様な膜になっていた。


 薄く広がったぺらは、高速で射出される針を、金属同士がぶつかり合う甲高い音を沢山鳴り響かせながら、タウロ側に飛んでくる全ての攻撃を弾き返した。


 攻撃を弾き返したぺらは役目が終わったとばかりに、タウロの革鎧にぴょんと跳ねるとまた、擬態して戻るのであった。


 岩の擬態を解いた岩石針鼠は文字通り針に覆われた大きな鼠だった。


 ぺらにほとんどの攻撃を遮られたので、これ以上は不利と思ったのか素早い動きで一瞬にして逃走した。


 タウロは冷静にマジック収納からアルテミスの弓を出すと、矢を番える。


 矢をすぐに『光の矢』が覆う。


 だがいつものぼやけた光の感じではなく、矢を覆うそれは綺麗に膜で覆っている感じだ。


 タウロは『魔力操作(極)』でその威力を研ぎ澄ましたのだ。


 タウロは狙いを定めるとその矢を岩石針鼠に向かって放った。


 矢は一筋の曲線を描いて逃げていく魔物を追っていくと突き刺さった。


 が、しかし、岩石針鼠は怯む事無く遠ざかって行くのだった。


「……驚いた。威力を上げたのにあの矢でも仕留められないのか…」


 タウロは呆然と遠ざかって行く魔物を見つめるのであった。


「タウロ殿、無事ですか!……怪我は無いようですね。──負傷者はすぐに治療を!針には毒、麻痺などの状態異常が付いているから油断するな!」


 護衛の隊長ツグムはタウロが無傷なのを確認すると、ぺらでも防げずに攻撃を受けた者がいたので、すぐにその負傷者の治療を周囲に促した。


「僕も『状態異常回復』魔法があるので協力します」


 タウロは、そう言うとすぐ負傷者に歩み寄って針を抜くと魔法を唱える。


 針には返しが付いていて抜く時かなり痛そうだったがそこは竜人族である、眉1つ動かさず平然としていた。


 逆に、魔物が近くに居るのに気づかなかった事を恥じて、「くっ、殺せ…」が、負傷者のみならず、それ以外の者の口から洩れるのが竜人族であった。


「……それにしても、報告には聞いていましたが、スライムエンペラーの亜種ですか。流石深層の魔物、あれを即座に反応してタウロ殿を守るとは驚きです。おかげでタウロ殿との射線上にいた者も被害を受けずに済みました。私は自分を守るのが限界でしたすみません」


 隊長ツグムが反省を口にした。


「いえ、あれを反応して防げるなんて凄いですね。僕は何も出来ませんでした。ぺらありがとう」


 タウロは苦笑いすると、ぺらが擬態した革鎧を撫でた。


 ぺらは感謝されて嬉しかったのか革鎧の表面を波打たせた。


「……本当にスライムエンペラーの亜種なんですね。普通のスライムエンペラーは物理攻撃が弱点で擬態もできないのですが、さっきの光景を目撃すると新種である事に疑い様がないですね。ぺら?タウロ殿を守ってくれてありがとう」


 ツグムはタウロの相棒に呆れながらも自分達が守るべき対象をぺらが守ってくれた事に感謝するのであった。

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