第274話 英雄達の送迎任務

 タウロは、護衛の竜人族と、伝説級の竜人族計50人に囲まれながら、ダンジョン1階層を進み、転移室、通称『休憩室』に到着した。


 ここに到着するまでの道中、攻略組が念の為と称して、道中のスライムを片っ端から一度の魔法で焼き尽くす光景にはタウロも唖然とした。


 見た事も無い最上位魔法で根こそぎだったのだ。


 そんなとんでもない魔法で焼き尽くされるスライムには同情するしかないタウロであった。


 あとは、タウロの革鎧の前面に擬態してるぺらが心配であったが、ぺらは同類とは言え全く気にする様子は無く、動揺は伝わってこない。


 どうやら、タウロの従魔として、優先順位的にタウロの危機以外はどうでもいいようだった。




「一応前回、『空間転移』を試して201階層まで行けたのですが、現在攻略してる最下層はそこであっていますか?」


『休憩室』に到着すると、タウロは、攻略組の代表の英雄に確認する。


「おお!その通りです。前回、私はサポート組でしたが、確かに201階層まで到達して引き返しました。それが数十年前でしたがそれ以降、201階層まで到達した者はいないはずです」


 攻略組の代表が大きく頷いて答えると、他の英雄達からもどよめきが起きる。


 本当に一気に最深の201階層まで行けそうなのだ。


 これには伝説級の戦士達も武者震いせずにはいられなかった。


「それでは、早速、向かいますね。あ、201階層はスライム層と似た階層なので勘違いしてしまうので気を付けて下さいね」


 前回のタウロ達の失敗は報告済みだろうが一応念を押しておいた。


 そして、続けて


「あ、これだけの団体は初めてなので、攻略組1組、そのサポート組2組の15人ずつを一度に運んで戻ってきますみなさんグループで別れておいて下さいね」


 タウロはそう言うと攻略組代表チームのグループと手を繋いで円陣を組む。


「それでは行きます」


 タウロが簡単に言うと、他のグループを残し、『休憩室』から一瞬で消えるのであった。


「本当に消えた!」


「次のグループ準備しろ!」


「こんなに簡単に最深階層まで行けるとは!」


「俺達のダンジョン攻略はこれからだぞ、気を緩めるな!」


 残された戦士達がざわついていると、すぐにタウロは戻って来た。


「はい、次のグループの方、円陣を組んで下さい」


 タウロの声に第二陣が慌てて円陣を組む。


「それでは行きます」


 タウロは最早、アトラクションの従業員の様なノリで作業的に言うと、また『空間転移』を唱えると最深階層まで一瞬で移動する。


「あとは俺達で最後だ。円陣を組んで準備するぞ!」


 攻略組最後のグループが準備していると、タウロがすぐに戻って来た。


「はい、最後ですね。──それでは行きます」


 今度は、タウロの護衛であるグループも含めて20人が円陣を組むと201階層まで瞬時に移動するのであった。




「ここが最深階層!?」


 最後の第3グループが到着すると、それを確認した第一グループの代表が、


「では、我々は先に向かう事にするぞ。みんなわかっていると思うが、攻略組は下の階層にひたすら進むのが仕事だ。他の事はサポート組に任せる。それでは健闘を祈る」


 そう言うと『休憩室』を出て、下の階層に向かう階段を降りて行くのであった。


「自分達も向かうぞ。サポート組、他のグループとの連絡は密に頼む」


 第二グループの代表が念を押すと、第一グループ同様、『休憩室』を出て、下の階層に向かう。


 それを見送った第三グループの代表は、タウロに向き直ると、


「それでは俺達も向かいます。タウロ殿、ありがとうございます。これからタウロ殿は補給組を最深階層のこの『休憩室』に運ぶ仕事に移行します。本当にありがとうございました」


 そうタウロに感謝すると、第三グループも下の階層に向かうのであった。


「……これで、僕の役目も大半は終了かな」


 タウロは魔力回復ポーションを飲みながら、一息ついた。


「いえ、タウロ殿。攻略組が下の階層に到着したら、さらにここから下に補給組を上から下に運んで貰う仕事があります。それはダンジョン攻略にとても必要な事なので今後もよろしくお願いします」


 タウロの護衛リーダーであるツグムが、真面目にそう告げる。


「そうでした。補給組は『休憩室』を出て、攻略組の後を追いかけて補給作業をするんですよね?」


「基本的にはサポート組のサポートという感じです。これまでは休憩室に定期的に補給物資を運び込んでおくのが仕事でしたが、今回はタウロ殿のおかげでそれも容易になったので、ほとんど仕事はありませんが、タウロ殿に補給組を定期的に上から下に運んで貰う事になります」


 護衛リーダーツグムが神妙な面持ちで答える。


 タウロの活躍無しでは出来ない仕事なのでタウロばかり働かせている様で申し訳ないのだ。


「はい、了解しました。僕は全然大丈夫ですよ。今日の『空間転移』でもやはり負担が少ないのがわかりましたから。ではみなさん上に戻りましょうか」


 タウロは笑顔で答えると護衛チームと円陣を組んで1階層に戻るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る