第273話 英雄の団体さん

 タウロは、ついに攻略組の深層への送迎の為、ダンジョンの入り口にやって来ていた。


 今回護衛をしてくれるメンバーに四方を守られつつ、竜人族の村からここまでやってきたのだが、前回のメンバーと比べてさらに格上の竜人族である事は気配だけでもわかった。

 前回の事があって族長リュウガもより慎重になって腕利きの者を付けてくれたようだ。


 流石にタウロは大袈裟過ぎるとは思ったが、族長リュウガを始め、竜人族にとってダンジョン攻略は悲願なのでそのキーマンであるタウロは本当に大切であった。


 それにそもそも命の恩人でもある。

 前回のタウロのピンチは、護衛に非番の守備隊を付けた自分の責任と族長は痛感していたので、今回はサポート組の予備メンバーを付ける念の入れようであった。


 タウロが気配で感じていた通り、深層でも活躍できるほどのメンバーであったのだった。


 そのメンバーを引き連れていくと、ダンジョンの入り口には、次元が違う竜人族のメンバーが団体で待機していた。


 文字通り団体である。


 攻略組5人のチームが3組、15人。

 それを援護するサポート組各5人チームが2組ずつ合計6組30人、計45人がいた。


 45人にも及ぶ竜人族が、冒険者で言うところのS級レベルなのだ。

 国内どころか全土の英雄がここに集まってもこの数にはならないだろう。


 タウロはひとり、ゲームのラストダンジョンにバグで訪れた初期レベルの冒険者の立場であった。


「お、お待たせしてすみません!よ、よろしくお願いします」


 流石のタウロも緊張感で、言葉が言い淀む。


「いえ、タウロ殿。こちらこそ、よろしくお願いします。それにあなたは我々竜人族の命の恩人です。そればかりかダンジョン攻略の要でもあります。今回の協力にみんなを代表して感謝申し上げます」


 一目見てとんでもない装備を身に付け、強いとわかる1人の英雄が、頭を下げた。

 それに続いて、同じくその場にいた英雄達がタウロに揃って頭を下げるのであった。


 するとタウロの脳裏に『世界の声』が響いた。


「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<数多の英雄に感謝されし者>を確認。[英雄の風格]を取得しました。」


 何か凄そうなのを覚えた!


 と、思うタウロであったが、今はそれどころではない。


 目の前の英雄達が自分に頭を下げているのだ。

 この事態はただ事では無い。


「みなさん頭を上げて下さい。僕はみなさんに感謝される様な人間ではありません。

 今回の事は竜人族の村に居候させて貰う為のお礼ですから。そんなに畏まられると困ってしまいます。みなさんには普通にして貰いたいのでよろしくお願いします!」


「そうか、困らせてしまったのは申し訳ない。──みんな頭を上げろ。タウロ殿が困っている」


 タウロはこの世界の英雄達の頭を無事上げて貰うのであった。


 内心安堵するタウロであったが、折角英雄達が目の前にいるのだ。

 早速、覚えた能力について聞く事にした。


「……あの、ちなみに『英雄の風格』という能力はどんなものかわかりますか?今、覚えたのですが……」


「何と!タウロ殿は『勇者』のスキル持ちでしたか!……ですが変ですね。『英雄の風格』は『勇者』スキルの中でも序盤で覚えるものなんです。その『英雄の風格』を覚える事で魅力の増大と基本能力が少し底上げされます。あとは幻惑耐性が付きます。最初のうちはとても助かるのですが……」


 序盤で覚える能力なのか……、でも、基本ステータスが少しでも底上げされるのはそれだけでも十分助かる。それに魅力の増大……、これはどうでもいいか。


 タウロは内心、微妙な気持ちになりながらも目の前の英雄に、「僕のスキルは文字化けスキル一つだけですよ」と答えた。


「文字化けスキル!?久しぶりにそのスキルを聞きました。そうですかそのスキルについては、我々竜人族の間でも評価が分かれるところなのですが、やはり謎が多いもののようですね。──すみませんが、少しタウロ殿を人物鑑定してもよろしいですか?良ければ『鑑定阻害』スキルを解いて貰えると助かります」


「あ、はい。どうぞ」


 タウロはすぐに『鑑定阻害(極)』を解除した。

 流石英雄、『鑑定阻害(極)』による偽情報にもすぐ気づいた様だ。


「……これは!──なるほど文字化けスキルの評価は良いものに変えないといけませんね。本当にタウロ殿は文字化けスキルだけの様だ。そして、これだけの能力を覚える文字化けスキルをクズスキルやポンコツスキルと評価させるのは間違っていますね。──鑑定させて頂き、ありがとうございました」


 英雄は改めてタウロに頭を下げた。


「いえ、このスキル、これはこれで厄介なので……」


 タウロは苦笑いしながら答えるものの、通称『竜の穴』で無茶苦茶な修業をしていると思われる竜人族なら、まだ活用法があるのかもしれないと思うのであった。

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