第272話 新たな3人のメンバー

 エアリス達『黒金の翼』3人には、臨時の新たな仲間が3人加わっていた。


 みんな冒険者成り立てのG-ランクである。


 しかし、その実態はタウロの『空間転移』と、ラグーネの『次元回廊』の組み合わせでダンサスの村にやって来た竜人族の優秀な戦士達だ。


 赤髪に金眼の高身長、美形の男マラク。


 金髪に金眼、身長が小柄で一見すると美少年系のズメイ。


 長い青髪ポニーテールに、金眼の細身体型の美女リーヴァ。


 3人とも装備品はほぼ一緒だが、その1人1人の個性は十分目を引くと思われた。


「ダンサスの村を去るのは名残惜しいな」


 赤髪のマラクが、短期間ながら気に入っていたこの村を去る事に残念そうにため息を吐く。


「マラクさんはラグーネに教えて貰ったとんかつが食べられなくなるのが残念なんでしょ?」


 金髪のズメイが、先輩であるマラクを茶化す様に言った。


「ズメイも『小人の宿屋』の揚げ物は気に入ってたでしょ?」


 青髪のリーヴァが人の事が言えないズメイを指摘した。


「王都にも美味しい食べ物はあるから我慢してね。それに、王都にはタウロがガーフィッシュ商会に経営を任せている『カレー屋』があるから」


 エアリスが新たな旅の仲間である3人に王都の食情報を提供した。


「おお!とんかつを思いついたタウロ殿のお店が王都にはあるのか?それは楽しみだな」


 赤髪のマラクが、王都に行く目的そっちのけで喜び、ズメイも賛同するので、青髪のリーヴァがマラクとズメイを落ち着かせる。


「二人とも私達の目的を忘れないで。私達の役目はタウロ殿を狙う暗殺ギルドの情報収集とその組織の連中の駆逐なのだから」


 さらっと凄い事を言うリーヴァであったが、実際、ダンサスの村にタウロの行方を探りに来た暗殺ギルドの諜報員をその上位の人物鑑定スキルとアンチ阻害スキルを用いていち早く見つけ出していた。

 そしてそれを捕らえると情報を搾り取り、処分するというところまで冷酷にやってのけている。


 一度、村人に森の外れでその直後の場面を見られた為、ダンサスの村を離れる事にしたのだが、ラグーネが王都に行くというので、冒険者ギルドで登録して『黒金の翼』の一員になり、同行させて貰う事にした。


 現地情報も、詳しい者に教えて貰うのが一番なのだ。


 当初は現地で頑張っているラグーネに聞いていたのだが、教えて貰ったのはとんかつなど揚げ物料理と、味噌料理が美味しいという事、そして、冒険者ギルド関連の事だけだったので、もの凄く偏りを感じていたのだ。


 一応、ダンサスの村で動く怪しい者は狩り尽したのでタウロが村に戻って来ても安全は確保できているが、元を絶たなければイタチごっこだ。


 そう考える3人であったが、聞けば、このダンサスの地を収めるダレーダー伯爵という領主の元、この地に密かにあった暗殺ギルドの拠点を叩いて一掃したそうだから、まだ、暗躍している王都に移動して情報収集する方がよいだろうという事でラグーネの誘いに乗ったのだった。



「エアリスさんは、後衛での立ち回りが上手ね。私は長年の経験があるから、当然なんだけどその歳でそれだけやれるのは凄く将来が楽しみ」


 青髪のリーヴァが、実力を確認する為に受注した、オークの群れの討伐の時の事を思い出し、エアリスを褒めた。


「リーヴァが後衛での立ち回りを褒めるのは中々貴重だな。エアリス殿は良いリーダーだから自信を持っていいと思いますよ」


 赤髪のマラクもエアリスを褒めた。


「そうだね。僕達竜人族は長命だから長年の経験の蓄積で立ち回りに関しては自信がかなりあるけどエアリスちゃんはその歳ではかなり上手だと思う」


 金髪のズメイも二人に賛同して褒めた。


「3人ともありがとう。……みんな歳はいくつなの?」


 エアリスが『黒金の翼』の暫定リーダーとして、新メンバーに上から目線で褒められるのを複雑に感じながら聞いた。


「自分はまだ80歳を少し越えただけですが、この中では最年長ですね、比較的若いんですよ」


 赤髪のマラクは笑いながら答える。


「僕は、68歳。三人の中では一番若いけど、今回の情報収集任務では中心なんだよ?」


 金髪のズメイがこのメンバーでは一番の戦力らしい。


「私は、79歳よ。三人とも情報収集に関して得意分野だから選ばれたわ」


 青髪のリーヴァが嫌がる事なく年齢を答える。


「え?リーヴァはもう、80じゃなかったっけ?」


 赤髪のマラクが真顔で聞き返す。


「まだ、79歳よ!あと5日だけど……」


 リーヴァが赤髪のマラクの頭を強めに叩く。


 どうやら平気で答えた様に見えて、実はちょっと年齢を気にしている様だ。


 3人の年齢を聞いて驚いているのは、エアリスとアンクだ。


 エアリスはともかく、アンクは同年代と思っていた3人が実は人生の大先輩だったのだ。


「道理でオークの群れ相手に無駄の無い動きをするわけだ……。普通、あの群れに躊躇なく突っ込んでいけるもんじゃないと思うんだが、場数の差だったか」


 戦場での経験が多いアンクだから、群れにも一緒に突っ込んで行けたが、自分以上に躊躇してない事を内心驚いていただけに納得するのであった。


「私なんてこの中じゃひよっこね。──じゃあ、ラグーネは、竜人族の中ではどんな感じなの?」


 エアリスが自分を戒める様に言うと、ラグーネについて聞いてみた。


「私は将来を期待されている将来有望な戦──」


 ラグーネが鼻高々に答えようとすると、3人の先輩戦士達が遮る様に言う。


「「「まだ、ただのひよっこだな(ね)」」」


 先輩戦士達に一言で片づけられたラグーネは、凹みながら一言、


「くっ、殺せ……」


 と、漏らすのであった。

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