第262話 報告と風を切る

 スライムのぺらをテイムして帰宅した翌日。


 朝一番で族長リュウガの邸宅に向かうと、『空間転移』に成功した事を報告した。


 冒険者ギルドのリュウコや護衛してくれたリーダー達から事前に報告は受けていた様だが、実際にタウロから直接報告を聞くと族長リュウガは大喜びであった。


「──という事は、安全に攻略組を最深部に送り込めるということですね?」


 族長リュウガは、タウロ本人から再度確認を取った。


「はい、最深部は201階層ですよね?護衛して付いて来てくれたリーダーが確認したので間違いないと思います。あとは、どのくらいまとめて送り込めるかですが、魔力の減少具合から、それなりの人数は大丈夫だと思います」


「……そうですか。前回201階層に初到達してから数十年経っていますので、喜ばしい事です。攻略組3組15人、そのサポーター組6組30人合計45人と多いですが大丈夫ですか?」


「はい。そのくらいなら魔力回復ポーションを飲みながらで全然大丈夫ですよ」


「それは良かった……。タウロ殿のお陰で、我々竜人族のダンジョン攻略の悲願が達成できるかもしれませんな」


 族長リュウガはタウロの言葉に安堵すると提案した。


「それにしてもあんなに深いのですねダンジョンとは……」


 タウロが201階層という深さに素直に驚いて感想を漏らした。


「我々もどのくらい深いのかわかっていません。それだけに攻略組の精神的重圧は大きなものでした。それに、201階層とまでなると片道で数か月かかってもおかしくないですから、帰り道を計算して進まなければならない労力を思うとタウロ殿の『空間転移』は本当に天の助けです、本当にありがとうございます」


 タウロはまだやっていない功績を褒め称えられて恐縮したが、歓待するという言葉を丁寧に断ると早々に族長の邸宅を後にした。


 タウロにとって今日は、防具を揃えるのが一番の用事だったのだ。


 そして、タウロはここに来てやりたかった初体験をする事にした。


 それは、村の麓に降りて行く滑車を利用する事である。


 族長の邸宅のすぐ目の前にも麓へ下る為のロープが張られていて、竜人族のご婦人が滑車から伸びた輪っかになったロープに腰かけ、目の前をスルスルと降りて行った。


「おお!やっぱりみんな慣れているんだなぁ」


 麓に伸びる数本のロープの元は小さい小屋から伸びている。


 小屋には1人の男性がいて、行き先を乗る人に聞くと、滑車を装着して送り出してくれる仕組みだ。


「僕も乗りたいのですがいいですか?」


 タウロは男性に聞く。


「もちろんですよ、あ、タウロ殿ですね?ありがとうございます!目的地はどこで?」


 珍しい人族なのですぐに噂の命の恩人タウロと気づいた男性は心よく頷き、行き先を聞いて来た。


「武具屋に行きたいのですが」


「それなら、2本目のこのロープですね。少々お待ちを──」


 男性はすぐに滑車を装着する。


「到着時、衝撃がある場合があるので、気を付けて下さい。あ、ブレーキをお持ちじゃないですよね。それではこちらを使って下さい」


 男性はタウロが手ぶらなのに気づき、Vの形をした木の棒を渡してくれた。


「これをロープに噛ませてブレーキを掛けて速度を調整して下さい」


 なるほど、勢いよくそのまま降りて行くと危険という事か。


 タウロは理解すると、男性に感謝して滑車から伸びるロープの輪っかに身体を通して座る。


 男性がタウロを後ろから押して送り出してくれた。


 タウロを乗せた滑車はすぐに勢いを増し、竜人族の村を眼下に風を切って麓に降りて行く。


 見事な爽快感だ。


 タウロは風を感じながら「わー!」と声を上げながら下るのを楽しむのだった。


 到着はあっという間だった。


 タウロはすぐに渡されたVの形の木をロープに噛ませて減速させる。


 初めてにしてはうまくいき、減速すると終着地点でピタッと止まるのであった。


 そこに、すぐ担当の男性が来ると手慣れた動きで滑車を外す。


 次の人が降りてくる前に外さないといけないのだ。

 タウロは慌てると、男性にお礼を言ってその場から離れるのであった。




 ひと時の楽しい時間を終えたタウロは、今日のメインイベントである買い物に早速向かった。


 防具は実物を見てから決めるつもりだが、身軽に動ける革鎧と籠手、脛当て、盾を買う予定でいた。


 久しぶりの買い物にウキウキしながら、まずは一番商品が揃っているという「竜の息武具店」に足を運ぶ事にした。


 お店は村の麓で一番の大通りに面したドーンと大きな建物であった。


 タウロは看板に「竜の息武具店」の名を確認して入るとそこには、タウロの想像を超える広さとそれに見合う品数の武具が並んでいたのだった。

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