第263話 楽しいお買い物(1)

 タウロが訪れた『竜の息武具店』は、話に聞いていた通り、品揃えが凄かった。


 3階建ての建物で1階は沢山の防具や服が、2階には武器各種、3階には杖と加工された魔石各種が陳列されている様だ。


 案内掲示板を確認したタウロの目的は自分の防具購入だったが、エアリス達仲間の武器も作っていた身としては、他の物にも興味をそそられるのであった。


 タウロは予定を少し変更して、全ての階を回る為に早速3階まで上がって行く。

 自分の防具は最後にと思ったので上から降りながら見る事にしたのだ。


「3階は杖と魔石の宝石箱や~♪」


 タウロはどこかで聞いた事のあるフレーズを口にして目の前に広がる光景を賛辞した。


 ガラスケースに入れられた色とりどりの魔石の数々、それを加工して目的別に作られた魔道具、そして、ありとあらゆる材質と魔石で作られた色んな形の杖が並んでいる。


 そして、それら商品を眺める魔法使い風の恰好の者や、生活に必要な魔道具を買いに来たと思われる主婦、魔石を売りに来た戦士姿の者と、客層は色々であった。


「この階が一番、色んなお客さんがいるみたいだ」


 タウロもそのお客さんに混じって商品を眺める事にした。


『真眼』を使いながら、価値も確認にしてみたが、王都と違ってその価値と売値はほとんど変わらない。

 きっと仕入れ値が元々王都などと比べて安いのだろう。

 良心的な価格設定であった。


「お?もしやあなたはタウロ殿ですか?ありがとうございます。何かみたい商品がありましたら私に申し付け下さい」


 店員の男性が珍しい人族であるタウロに気づくと声をかけてくれた。


「はい、ありがとうございます」


 タウロはお辞儀すると、1つ1つ商品を見て回る。


 ついついエアリスに作って上げた杖と比べて展示されてる商品を見てしまう。


 ラグーネも以前言っていたのだが、魔法陣に対する研究は竜人族の間でもあまり進んでいないらしい。


 店頭に並ぶ杖の数々を見てみると、杖に使用者の魔力の増加を目的とした加工済みの魔石を装着する仕組みのものや固定の魔法を使えるようにした仕組みの物ばかりで、魔石本来の力を引き出す魔法陣を組み込んだ仕組みの物は見当たらない。


 だが、魔道具に関しては色んなものがあり、王都でも見かけないものも沢山ある。


 そして、タウロにとって嬉しいのは、珍しい入手困難な加工前の魔石も置いてある事だった。


 目を輝かせるタウロの目の前に、1つの特別なガラスケースに入れられた水色に輝く小さ目の魔石があった。


 商品説明には「水竜の魔石※価格は店員にお聞き下さい」とある。


 わざわざ店員に確認しなくてもタウロには『真眼』がある。


 だが価格を確認しようとすると、鑑定阻害が掛かっていて鑑定できない。


「鑑定阻害付きの魔石なのか。これは相当貴重そうだなぁ」


 独り言をタウロが漏らすと店員が、ススッと横に現れた。


「こちらは、世にも珍しい魔石です。…実はこの魔石、数十年前ダンジョンで攻略組が討伐して持ち帰った物でして、価格は30白金貨(約3億円)です」


 店員はこっそりとタウロに耳打ちする。


「……30!?……それはまた、とんでもないですね。確かに小さめだけど内包されてる魔力が凄そうですもん……。エアリスの杖に付けたら面白そうだけど……、流石に高いかな」


「ははは!この商品はこのお店の目玉の1つですから!ダンジョン攻略組がかなり苦戦して入手したそうですからね、その貴重性からもこの価格なんです。買えなくても当然ですよ」


 店員は残念がるタウロを慰めた。


「いえ、一応、買おうと思えば買えるんですが、この価格だと友人の方が嫌がると思いまして……」


 タウロは苦笑いをしながら、マジック収納から白金貨が沢山入った袋を出して見せた。


「え!?」


 店員は目の前の大金を前に目を大きくして息を飲み、固まる。


 タウロは数々の魔道具の売り上げで今や密かに大金持ちであった。


 だが、タウロはあまりお金を使っていなかった。


 以前のエアリスの時の様に、大金が必要になる事態がいつ起きるかわからない。

 貯めておいて損はないだろうというのがタウロの考えだったのだが、その結果、貯まる一方であった。


「そうだ、他の魔石を見せて貰っていいですか?」


 タウロは何か思いつくと、店員の説明でそれこそ高い魔石をいくつか購入して行くのだった。

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