第261話 少年冒険者怒られる

 タウロはダンジョンから戻るとまず冒険者ギルドに向かい、スライムを従魔にした事を報告をした。


 受付嬢のリュウコは、従魔の登録をしてくれたが、


「ただのスライム程度だとみんな使い捨てみたいな扱いだから従魔登録する人は凄く珍しいみたいよ?」


 と、教えてくれた。


 確かに普通のスライムは移動もままならず、テイマーが運んで歩かないといけない事になる。

 わざわざそんな事をするほどスライムに価値は無い。

 だからその場で従魔契約を解いた方が早いので、冒険者ギルドに報告する者はいなくて当然だった。


「それで、そのスライムはどこにいるの?生き物だからタウロ君のマジック収納には入らないはずだし、その腰のポーチに入れるには小さ過ぎるし──」


 受付嬢のリュウコがタウロの周囲を見回して確認した。


「ぺら、擬態を解いて」


 タウロがそう言うと、タウロの革鎧の表面が小さく波打ち、スライムエンペラーの亜種である従魔のぺらが、受付嬢リュウコの目の前で、突然空間にポンと手品の様に現れた。


「え!?スライムってもしかして深層で昔、発見されたって報告のあった擬態スライムの事だったの!?」


 リュウコは突然目の前に現れたスライムに驚くとすぐに魔物鑑定を行う。


「──!?鑑定阻害系スキル持ちの擬態スライムなのね?これは新種よ!タウロ君、こんな凄いスライムどこで……、それによくテイム出来たわね……。あれ?タウロ君、魔物使いの能力なんてありましたっけ?」


 受付嬢リュウコはこの竜人族の村支部・冒険者ギルドで現在唯一の冒険者、タウロの能力はタグのチェックと本人確認である程度は知らされている。

 その中に魔物使いは無かったはずだ。


「それは、ダンジョンで覚えたので……。その後、深層でこのぺらに遭遇したのでそのままテイムしちゃいました」


 タウロはちょっと笑い、ぺらを撫でながら言った。


「……そうだったのね……。って、深層って言いました?そう言えば擬態スライムは150階層以降で出現するらしいけど、そんなとこまでいけるか試したの!?駄目じゃないタウロ君、そんな危険な事して!こう言っては何だけど、今日、タウロ君に付いて行ったメンバーはダンジョン攻略組と比べたらまだ、ひよっこレベルなのよ?150階層では危険レベルで全滅してもおかしくないのよ?ともかく無事でよかったわ……」


 受付嬢リュウコはタウロを注意し、指摘すると安堵するのであった。


「……あはは、すみません。加減が分からなくて間違って深いところまで行っちゃいました……」


 本当は、201階層まで行ってしまったのだが、150階層でこの怒られ方だと201階層と言ったら、とてつもなく怒られそうだと思い、大事な部分には口を噤むタウロであった。


「……それにしても、本当に擬態スライムをテイム出来たわね。テイムできた例なんて多分ないから凄く幸運な事よ。タウロ君が覚えた『魔物使い』は相当高いレベルのものなのね。そうでないとテイム出来る確率は極端に低いはずだから」


 受付嬢リュウコは感心して聞いて来た。


「聞いた話では、魔物使いの中でも一番初歩の『スライム使い』です」


 タウロが何気に答えた。


「えー!!?タウロ君、スライム使いは普通のスライム相手でこそ99%のテイム率だけど、擬態スライム相手なんて、ほぼテイムなんて不可能なのよ?どれだけ運が良かったかわかってる!?」


 受付嬢リュウコはまた驚いて声を上げた。

 冒険者ギルド内に響くほどの大きさだが、二人以外誰もいないので遠慮はいらない。


「……そうみたいですね。あはは……」


 タウロは笑って誤魔化しながら、実は擬態スライムではなくスライムエンペラーの亜種なので、もしかしたらもっと確率低かったみたいです、とは言えずに言葉を飲み込むのであった。


「──タウロ君、無茶し過ぎよ。ダンジョンは1階層深くなるだけで攻略難易度も急に上がる事があるところなの。ましてや150階層なんて攻略組とそのサポーター組が潜るレベルのところよ。そんなところは今日の護衛レベルのメンバーでは本当に全滅もありえたのだから不用意に休憩室から出ちゃ駄目よ?この事は一応、族長に報告しておくけど、今後は気を付けないと!」


 受付嬢リュウコにきつくお説教をされると、タウロはごめんなさいと謝って大人しく、この日は寝床であるドラゴ宅へと帰って行くのであった。

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