第260話 亜種の従魔

 スライムのぺらをテイムしたタウロと竜人族の戦士達は、最深部の201階層にある『転移室』からタウロの『空間転移』で、もとの地下1階層の『転移室』へ無事に戻る事が出来た。


 今はその帰り道である。


 不思議な事に『転移室』、通称・休憩室にはテイムされたぺらは普通に入れるようになっていた。


 リーダーが言うには、テイムして主であるタウロの魔力が流れ込んだ事で、ただの魔物から従魔扱いになったからなのだとか。


 その辺りの実験はすでに竜人族では複数回実験が行われて実例は幾つもあるらしい。


 ちなみに転移室内で従魔との契約を解除すると、結界の力によって魔物は消滅してしまうのだとか。


 その説明をリーダーがするとスライムのぺらはその発言に怒ったのかピョンピョン跳ねながら抗議している様だった。


「ははは。大丈夫だよぺら。僕はそんな事しないから」


 タウロはこの頭の良いスライムエンペラーの亜種が早速気に入ったのであった。


「スライムエンペラーも頭が良いらしいですが、この亜種は人並みに頭が良さそうですね。我々の会話も理解できているみたいですし。──おい、ぺら。主であるタウロ殿を必ず守れよ。これはお前の絶対的な使命だ」


 リーダーが、タウロの肩の上に乗って甘えているスライムのぺらに話しかけた。


 ぺらはそれを理解したのか、体の表面をぷるんと波打たせた。


「……やっぱり、理解してますね。これは本当に驚きです。攻略組からはこの様な亜種の報告はありませんから新種ですよこいつは。まして、あんなに体の一部を変化させられるのはこれも深層で発見された擬態スライムくらいですから。研究者達に教えたら絶対喜ぶな。あ、もちろん、タウロ殿の許可無しではこの事は話しません」


 リーダーが口を噤むフリをして口外しない事を約束した。


「竜人族のみなさんは良くしてくれるので協力はしたいですが、ぺら次第ですね」


 ぺらはプルプルと小刻みに震えてみせた。

 多分、嫌だというサインだろう。

 タウロは主としてその意識を感じる事が出来た。


「どうやら、嫌みたいです。族長など関係者以外には口外しない方向でお願いします」


 タウロは苦笑いするとリーダーを含めた戦士達にお願いした。


「「「「「わかりました」」」」」


 リーダー達は素直に頷くと、約束してくれるのだった。


「そうなると、あまり目立たない方がいいのですが…、──おい、ぺら。お前、擬態能力はあるのか?変身して体の色も変化させるあれだ」


 リーダーがぺらに話しかける。


 ぺらはぷるんと軽く震えると、タウロの着る革鎧の表面に身体を変化させると色も変え、完全に擬態してみせた。


「おお!こいつはすげぇぜ!──これは失礼しました。これならタウロ殿の命も守れますし、普段、人目につく事もありませんよ。食事はスライムは基本雑食ですし、食べる量もほとんど食べなくても大丈夫なはずですよ。ぺらは亜種なのでどうかはわかりませんが」


 ぺらは鎧の表面をぷるんと波打たせて返事をする。


 その意識が伝わってくる。


「大丈夫なようです。まあ、念の為ちゃんと定期的に食事はさせますよ」


 タウロは笑うと革鎧に変化したぺらを撫でると頷いた。


「そうだ、タウロ殿。見ればその革鎧、大分使い込んでいる様子。大きさも少し小さいようですし、村に戻ったら新調してみてはどうですか?うちの村の品揃えは『見た事がない物ばかり』だと、迷い込んできた人間に好評だそうです。本格的にダンジョンに潜る前に準備しておいて良いと思いますよ。中にはダンジョンの深層で仕留めた魔物の素材で出来た一点ものもありますよ」


 この情報は冒険者であるタウロにとって、魅力的な話だった。


 こちらにきてずっと他の事に気を取られて、防具の事はチェックしていなかったのだ。


「それは楽しみですね。この鎧はちょっと寿命が来ていると思っていたので、地上に戻ったら防具屋を訪れてみます。ちなみにお勧めのお店はありますか?」


「そうですね…。一番品揃えが良くて大きいお店は『竜の息武具店』、一点物にこだわっているお店なら『竜騎士武具屋』、品数は少ないが『竜騎士武具屋』から暖簾分けして最近評判なのが、流れドワーフのお店『ランガス鍛冶屋』ですかね」


 リーダーは、少し考えると3つのお店を提案した。


「ドワーフのお店があるんですか?」


「ええ、結構前に迷い込んできたドワーフがいまして。ここの鍛冶技術に惚れこんで居座ってずっと修行していたんですよ。最近、自分のお店を出したんですが、これが中々良いものを作ると評判です」


「ランガス鍛冶屋……。取り敢えず、その3つのお店に行ってみますね」


 タウロは、リーダーから教えて貰った3つのお店を記憶すると、ダンジョンの帰り道は楽しみで足取りも軽くなるのであった。

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