第259話 気持ちの変化
タウロが『黒金の翼』を脱退し、竜人族の村に行ってから、10日あまりが経っていた。
代わりにリーダーを務めるエアリスは大変忙しい日々であった。
いかにタウロがチームの為にいろんな仕事をこなし、貢献してきた事か。
今更ながらにその有難みがわかるというものだ。
そして、忙しい中、エアリスは自分を見つめ直すきっかけにもなっていた。
エアリスは冒険者になった当初は、あの母親であった女の影に怯えながら、自分の存在意義を求めて努力し続けていた。
そして、自分の才能が冒険者として認められ、そこで頑張る事に意義を感じ始めていた。
だが、そこにタウロが現れた。
ギルドで最年少の将来有望な冒険者とおだてられていたところに現れた、私より年下の少年に驚かされた。
最初は私より優秀な事に愕然とし、その事に腹が立ち、そして、興味を強く惹かれた。
だからタウロ達の仲間に入れて貰ったのだが、その傍は安心できて居心地が良いものだった。
タウロはいつも慎重でいて、どこか抜けているかわいいところもあり、それでいて常に冷静で危機もその頭脳と才能で脱してくれる。
そんなタウロの傍に自分の居場所を見出し、依存していった。
そんな中、私の家の後継問題で騒動になった時もタウロは私の為に自分の財貨を惜しみなく放出し、各方面に働きかけ助けてくれた。
もちろん、お金は父がその後全て弁償したが、助けてくれた事が嬉しくて、いよいよタウロに依存した。
だが私は、あの最低の女の血を分けた娘だ。
いつか自分もああなるのではないかと思い、タウロにもそれが原因で見限られる日が来るかもしれないと思い始めた。
もちろん、そんな事はおくびにも出さず、居心地がいいタウロの傍にいたが、ある日、ラグーネが仲間になり、アンクが仲間になり、ホームシェアをラグーネとする事になった。
そんな中、タウロが一時的とはいえ、死んだ時はショックがあまりに大きく、声さえ出ない程だった。
生き返った事にはもちろん安堵したが、私にとって如何にタウロが大切かも痛感した。
そして、私にも変化が訪れた。
ラグーネと一緒に過ごし話す事で、タウロへ依存していた自分を自覚する事ができるようになり、少し自分を客観的に見られる様になった気がした。
そこに来て、今回のタウロの脱退騒動だ。
過去を振り返り、自分を本格的に見つめ直す時間を貰えたのは大きい。
タウロがいないのをマイナスに考えるのではなくプラスに捉える事が出来ているのも、過去の私なら無かった事だと思えた。
エアリスは自問自答する。
今の私に出来る事は?
それは、タウロが安心して帰ってこれる場所を作る事ではないか?
今度は私が身を切ってタウロに貢献する番だ。
じゃあ、何が出来るのか。
暗殺ギルドの殲滅?
いや、それは現実的じゃない……。
じゃあ、タウロを狙っている雇い主の追及?
それをやるにはどうしたらいい?
エアリスは自問自答を繰り返して、1つの答えを出した。
「ラグーネ、アンク。私達、王都に行かない?」
クエスト完了からの帰り道、エアリスは二人に、一聴すると突拍子もない様に思える提案をした。
「「王都?」」
二人はクエスト終わりという事もあり、何かのクエストの話かと思って聞き返した。
「タウロが身を隠してほとぼりが冷めるのを待つのも良いけど、私達で出来る事をやるのも大事だと思うの」
「それはいいが、王都で何をしようってんだい?」
アンクがエアリスの真意がわからずまた、聞き返した。
「うちのパパを動かすの。うちのパパは、貴族派閥では中立派の重鎮なんだけど、タウロが狙われる原因の疑いがあるサイーシ子爵はハラグーラ侯爵派閥の1人。だから中立派を動かして王家に近い宰相派に協力し、サイーシ子爵を追い詰めるのよ」
「おいおい、エアリス。そんなことしたら、下手すりゃ国を二分した派閥同士の全面戦争にもなりかねねぇぞ」
アンクがエアリスの案の危険性を指摘した。
「その辺りはパパに相談するわ。タウロを守るにはサイーシ子爵さえどうにか出来ればいいのよ」
「……よくわからないが、それをすれば、タウロは暗殺ギルドに怯えず、戻ってこられるという事か?それならば私は賛成だ」
ラグーネがエアリスの案に賛同した。
「……二人とも本気か?はぁ……、わかったよ。エアリスの親父さんがうまく立ち回ってくれる事を信じよう」
アンクはため息を吐くと二人に賛同する事にするのだった。
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